伝聞法則2(要証事実)

(要証事実の意味・コトバンク)
 「要証事実」を検索してみました。
 コトバンクというところでは、
 「〘名〙 裁判で、当事者の立証を必要とする事実。民事訴訟では、当事者に争いのない事実、公知の事実、法律上推定される事実以外の事実。刑事訴訟では、犯罪構成要件に該当する事実、責任能力、故意・過失、刑の軽重加減の原因となる事実など。」
と書いていました。長いですね。まず、民事訴訟の話は関係ないので、スルーします。
 刑事訴訟についての記述は、つまるところ、刑罰権の発動のために証明することが必要な事実を「要証事実」と説明しているようです。そこでいう「要証事実」は、刑事裁判における「要証事実」は何か?と問われると、刑罰権の発動のために必要な事実であり、その証明は厳格な証明によるというような説明がされているところで、このような文脈でいう「要証事実」は、おおむねコトバンクで説明されているとおりであるとも言えます。
 しかしながら、伝聞法則における「要証事実」という言葉の意味は、コトバンクの説明とは異なります。

(要証事実の意味・白鳥事件)
 裁判例を見てみます。昭和38年10月17日の最高裁判決、白鳥事件です。
 そこではこう書かれています。
 ①「伝聞供述となるかどうかは、要証事実と当該供述者の知覚との関係により決せられるものと解すべきである。」
 ②「被告人P1が」「『P8はもう殺してもいいやつだな』と言つた旨のP34の検察官に対する供述調書における供述記載は、被告人P1が右のような内容の発言をしたこと自体を要証事実としているものと解せられる」としたうえで、「被告人P1が右のような内容の発言をしたことは、P34の自ら直接知覚したところであり、伝聞供述であるとは言え」ないとしています。
 「右のような内容の発言をしたこと自体を要証事実としている」という表現をしており、伝聞法則で検討されるべき「要証事実」はコトバンクの説明とは異なるようです。簡単に言えば、「その証拠によって証明しようとしている事実」を「要証事実」というと理解しているようです(なお、上記②において、伝聞供述ではないとした判断の仕方については、次回「内容の真実性」で説明します。)。

(要証事実の意味・酒巻刑訴)
 なお、有斐閣の酒巻匡、刑事訴訟法(初版)531頁では、「証明の対象となる事項(これを「立証事項」または「要証事実」と称する。以下、原則として「立証事項」の語を用いる)」とされています。「要証事実」という言葉の意味合いを整理するためにも、あえて「要証事実」という語を用いるのではなく、「立証事項」という語を用いるという配慮がうかがわれます。

(まとめ)
 以上のとおり、伝聞法則における「要証事実」の意味を確認しました。
 「要証事実」というのは、ひとまず、その証拠(伝聞法則に限って言うと、証言や、供述書、供述録取書)によってどのような事実が証明されるのか、言い換えると、伝聞法則における、「要証事実」とは、証拠によって証明される事実をいう、と理解しておいて問題ありません。

(立証趣旨と要証事実) 
 なお「立証趣旨=要証事実」と考えられている人もいるようですが、これは誤解です。
 簡単に言うと「立証趣旨」は証拠調べ請求をした者が、その証拠でどのような事実が認定できると考えているかについての意見です。抽象的なものもありえますし、裁判所は立証趣旨に拘束されません。次回以降にも「立証趣旨=要証事実」ではないことに言及することもあるかもしれません。

(予告)
 以上で、第1ハードルを超えられました。第2ハードルは、「内容の真実性」です。次回は、特定の要証事実との関係でどのように証拠を用いる場合に伝聞証拠と言えるのか、「内容の真実性」と表現されることがらについて取り扱います。発言したこと自体を要証事実とする場合に「内容の真実性」に関係ないから伝聞証拠ではないということ等について、詳しく確認します。

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