伝聞法則3(内容の真実性1)

(火星人発言)
 Aさんは言いました「私は火星人である。」(以下「火星人発言」といいます。)。その発言をBさんが聞いていました。この場合に、Bさんの「Aさんが『私は火星人である』と言っていました。」という証言は伝聞証拠ではないと説明されます。伝聞証拠ではないとされることについて、要証事実を意識して確認してみます。
前回のノートでは、「要証事実とは、証拠によって証明される事実をいう」と整理しました。火星人発言によって何が証明されうるのでしょうか。

(地球外生命体が存在する?)
 地球外生命体が存在するという見解を前提とすれば、火星人発言によって、Aさんが火星人であるということが証明されるといえるかもしれません。この場合はAさんの火星人発言によって、証明される事実として、「Aさんが火星人であること」とされ、「Aさんが火星人であること」が要証事実とされます。要証事実は、「Aさんが火星人であること」ということですので、Aさんの発言である「私は火星人である」という内容が真実かどうかが問題となり、Aさんの発言を内容とするBさんの発言は、伝聞証拠であるということになります。
 Bさんに対して、「Aさんは自分が火星人であると言っていましたか?」という質問に対しては、「はい」と答えるでしょう。しかしながら、「火星での生活はどうですか?」「火星から来てどのくらい経ちますか?」「火星ではどのような言葉が使われますか?」という質問をしても、Bさんには答えられません。他方で、Aさんに対して、「あなたは火星人ですか?」「いつ頃地球に来ましたか?」「火星ではどのような言葉が使われていますか?」という質問をすることに意味があるかもしれません。このような質問を経てAさんが本当に火星人なのかということを判断することになるでしょう。

(地球外生命体は存在しない)
 しかしながら、一般的に火星人発言を内容とするBさんの証言は伝聞証拠ではないと説明されます。それはひとまず地球外生命体が存在しないということを前提とするからです。前提として火星人が存在しないのであれば、「Aさんが火星人である」ということを要証事実と捉えることができず、そのようなことを要証事実とはしないことになります。

(発言したこと自体を要証事実とする)
 では、伝聞証拠ではないと説明されるに当たって、どのように理解され、伝聞証拠ではないとされているのでしょうか。
 よく言われるのが、発言をしたこと自体を要証事実とする場合は、その発言を内容とする供述証拠は伝聞証拠ではないと説明されます。火星人発言の場合、Aさんが「私は火星人である」と言ったことを要証事実とする場合、真実Aさんが火星人であるかどうかという事実を認定する必要はありません。ですので、Aさんが火星人であるのかどうかはどうでもいいことです。火星人発言を聞いたBさんに対して、「Aさんが火星人発言をしましたか?」と質問すれば、Bさんは、「はい確かにAさんは火星人発言をしました」または、「いや聞き間違いかもしれません。」と答えるでしょう。Bさんに対して「Aさんはいつ頃地球に来ましたか?」「火星ではどのような言葉が使われていますか?」という質問はされないでしょう。なぜなら、これらの質問は、Aさんが本当に火星人なのかを明らかにするための質問であり、発言をしたこと自体を要証事実とする場合には関係がないからです。
 このように、発言したこと自体を要証事実とする場合には、その発言があったかなかったかを明らかにするために、その発言を聞いた人に質問をすることに意味があるので、火星人発言を内容とするBさんの証言は伝聞証拠ではないということになります。

(発言したこと自体がどういう意味を持つか)
 もっとも、発言したこと自体の存在が、どういう意味を持つかも検討しておかなければいけません。どういう意味を持つかという観点は、要証事実と事件との関連性で説明することができます。関連性という考え方は様々な見解がありえ、関連性の理解も様々ありえますが、ここで、証拠によって証明される事実(=要証事実)が事件とどう関係するかという程度のものとしておきます。
 火星人発言の場合、火星人発言があったから、発言者であるAの精神状態が通常ではないということが明らかになり、「精神状態が通常ではない」ということから、Aの責任能力の有無程度に意味を持つと説明できれば、発言したこと自体の存在が、責任能力との関係で意味を持ってきます。
 加えて、Aさんが、「私は火星人である」という発言にとどまらず、「火星人には特殊能力があり、未来を予見できる。あなたの未来はお先真っ暗であるが、このツボを買えば、未来は明るい」などということを発言していたのであれば、その発言は、詐欺の欺罔行為の存在に結びつくので、発言自体を要証事実とすることに意味があります。
 発言したこと自体が事件との関連性がない場合には、伝聞証拠でなくとも、関連性がないという理由で、証拠として採用されることはないでしょう。

(予告)
 甲さんが、乙さんに対して言いました「いま、テレビで報道されている事件の真犯人は、、、私だ!」。この場合、乙さんの「甲さんは自分のことを真犯人だと言っていました」という証言は、伝聞証拠でしょうか?伝聞証拠ではないのでしょうか? 

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