伝聞法則4-2(白鳥事件補足)

(事例)
 私(丙)は、甲さんの家で幹部教育を受けていました。幹部教育には、Aさんもいました。Aさんは、幹部教育の中で、「乙はもう殺してもいい奴だな」と言っていました。

(白鳥事件)
 前回のノートで書いたとおり、上記(事例)について、最高裁は、伝聞証拠ではないと判断しました。
このことについて、前回全く検討をしていなかったので補足します。

(発言の意味の検討)
「乙はもう殺してもいい奴だな」という発言(以下「殺してもいい奴発言」と言います。)を証拠として用いる場合、何を証明することに意味を持つでしょうか。

(要証事実=発言内容)
 まず一つ目の意味として、乙はもう殺してもいい奴であるということを証明するのに意味を持つといえるかどうか。Aさんは他人の生きる価値を判断できる存在である、ということが言えれば、乙という人間がもう殺されてもいい奴であるということの証明に役立つかもしれません。これは、発言内容が真実であることを証明するためにAの話した内容が含まれる丙の話を利用するので、丙の話は伝聞証拠となります。要証事実を「乙がもう殺されてもいい奴であること」ととらえることを意味します。
 そのような証明に意味があるでしょうか?「殺されてもいい奴」などということを第三者が判断することはできませんし、百歩譲って、証明できたとしてもそれが刑事裁判に与える意味はありません(まさか、弁護側が「殺されてもいい奴だったから減刑されるべきだ」なんてことをいうわけもありません。)。
 乙が殺されてもいい奴かどうかについての証明は無意味です

(要証事実=発言自体)
 二つ目の意味として考えられるのが、Aさんが、「乙はもう殺してもいいやつだな」という発言をしたということ自体から、Aさんが乙を殺すつもりがあったということを裏付けるというものです。ここでは、要証事実を発言自体と捉えた上で、その発言があったことから、Aさんが乙を殺すつもりであったことが導かれます(このように導くことを「推認する」と表現されたりします。)。要証事実(発言自体)が証明され、証明された事実から別の事実を導く(推認する)という枠組みは十分に理解する必要があります。このような枠組みで要証事実(発言自体)が意味を持ってくるので、発言自体を立証することに意味があります。
 その結果、上記の(事例)で、Aさんの発言を内容とする丙さんの発言は、Aさんの発言自体を要証事実とする非伝聞証拠として意味を持ってくることになります。

 以上で補足を終えます。

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