『スパイス』 第1章 再会 3 ここあ 2023年9月21日 23:27 楓は着陸より離陸の方が好きだ。フワッと宙に浮く感覚や、これから空を飛ぶのだというワクワクに満ち溢れているから。けれど今日は着陸が待ち遠しかった。早く会いたい。ライリーに。そしてジェシカに。 楓がアメリカでホームステイをしていた春から一年半が経った。その間も定期的に連絡を取り合い、電話やカードのやり取りもあったものの、長らく会っていなかった。 そもそも、ジェシカの家で過ごしていたのもたったの二週間だ。そう感じないのは、起こったことがあまりにも尋常でなかったからだ。 抽象的に言えば、長年の夢が叶った。 具体的に言えば、くすぐられた。 楓はくすぐられることが好きだ。それがライリーとジェシカにばれてしまった。というより、奇しくも二人も同じ性癖を持っていたのだ。信じられなかったけれど、本当に嬉しかった。 もちろんそれだけではない。性癖を除いても、楓は二人が大好きだった。だからお別れしてからというもの、ずっと恋しく思っていたし、もうすぐ会えるという今、そわそわと浮き足立っていた。 ついに到着し、ゲートの向こうに二人の姿を探す。出迎えの人だかりの中、二人を見つけるやいなや楓は走り出し、その勢いのままジェシカにぎゅっと抱きついた。懐かしい匂い、懐かしい感触―――。 「再会早々締め殺すつもり?」「そんな気分よ!」 余りにも強く抱きしめる楓にジェシカが呆れて声を上げる。そう言いながらもジェシカの方からもぎゅっと力を感じる。「やっと会えたわね」 ライリーにも吸い付くように抱き寄せられる。ずっと会いたかった二人。楓の心はすでにいっぱいだった。ばれないようにこっそり涙を拭った。 三人でジェシカの家へ向かい、リビングで互いに話をする。懐かしい時間。一つだけ違うのは、飲んでいるのが紅茶ではなくワインだということだ。「私も21になったのよ。ここでも飲める!」「法的にはね」「実際はどうなの?」 楓は首を振った。実際はあまり飲めないのだ。「ねぇ、お酒って強くなれる?」「残念。耐性が変化することはないわ」 ライリーが空になった楓のグラスを遠ざける。「そう。何かと一緒よ」 ジェシカの言葉を理解するよりも先に、楓の喉からアッと声が出た。ジェシカに脇腹を撫でられ、ソファの上で飛び上がる。「フフ、変わってないわね」 一年半ぶりの感覚に、楓の鼓動が暴れ出す。「ダメよ。カエデは疲れてるんだから」 ライリーがやんわりと止める。実際、長旅の疲れとワインで楓は少し眠たかった。けれど、「いいよ」 ニッコリ笑ってそう言った。 「ちょっとならね」 正直にいえば、楓だってこの瞬間を待っていた。「あら、随分素直じゃないの」 ジェシカが嬉しそうに言って、今度は脇に指を這わせた。甲高い悲鳴とともに楓の背中がずり落ちる。「確かに、言ってた通りね」 ライリーの冷静な声が聞こえる――言ってた通りって?「何?ジェシカは何を言ったの?」「今まで出会った人の中でいちばん弱いと聞いているわ――私もそう思う」 ライリーに囁かれ、楓の顔にぶわっと血が上る。「何照れてるのよ、極めて明白なことじゃない」「流石のジェスも手加減するのが納得できるわ」 え、いま何て―――。「なに!手加減してたの?ねぇどうなの、ジェシカ!」「そうだけど――」「ひどい!なんで」「ジェスは優しさゆえに手加減してたのよ、カエデ。あなたが苦しまないように」「分かるけど、でも――」「ジェスが本気出したら、あなた嫌いになっちゃうでしょう?」 そんな訳ない。絶対にない。「ならないよ!」「本当に?」「させられるものならさせてみよ!」 勢いよくそう言った瞬間、楓の両の肋骨にジェシカの手が添えられ、両手はライリーに絡め取られた。「責任は取れるわよね?」 楓は竦み上がった。この二人を前に敵うはずなどない。くすぐられるとはどういうことかを思い出して、急に怖くなった。「どうしたの?」「………時差ボケ」 眠気などとうに覚めてしまっているが、楓はどうしても頷くことができなかった。「そういうことにしといてあげるわ」「そうね、そうしましょう」「ありが―アッ――――――!」 最後に一瞬だけ襲撃されてから、楓は解放された。 ジェシカとライリーの優しさに感謝しながら、これから始まる波乱に楓は胸をときめかせた。Next Episode…「渇望」楓の時差ボケも治りついに万全になった翌日、互いに待ち焦がれた瞬間を前に、歓喜と恐怖の一夜を過ごす。人物紹介 前のお話(ぐら目線) #くすぐり #tickle スパイス(受け目線) - Novel by ここあ - pixiv ある土曜日。ホストマザーのライリーが友人を紹介してくれることになった。楓に会いたがっている人がいるらしい。素晴らしい予定に www.pixiv.net 前のお話(ぐり目線) #くすぐり #ff スパイス(責め目線) - Novel by ここあ - pixiv “Jess, we have a case.”(ジェス、事件よ) ライリーがこの表現を使う時は、本当に事件だ。しかも、良い www.pixiv.net スピンオフ #くすぐり #ff エンジェル - Novel by ここあ - pixiv 私、ライリー・ブライアントにはあだ名が2つある。「Iron Lady(鉄の女)」。そして「Cupid(キューピッド」。余り www.pixiv.net 大好きな3人をまた書けてうれしい~!楽しい~!感想などあったらぜひ聞かせてもらえるとうれしいです。その他ご要望などもいただけたら、もしかしたら次章以降に反映されちゃうかもしれないです。。。 ダウンロード copy #くすぐり #FF #Tickle 3 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート