テトリスの話。

我が家にゲームボーイが来たのは発売日だった。
当時、どこにいってもないと言われてたゲームボーイが
なぜか我が家に発売日にやってきた。
それも親公認で。

もちろん、どこの家にもよくある話で
ゲームばっかりしてないで!とかそういった話になるし
我が家でビデオゲームを嗜むどころか理解あるのは
自分だけであり、正直それはいまも続いており
この家で、なぜ自分が育ちきれたのかを不思議に思うほど
機械音痴甚だしい家であり、インターネットもよくわかってない家だ。

そんな我が家だが、テトリスだけは違った。
父親は造形家であり、家にアトリエがあり、博識であり
性格は良いとは決して言えず、お坊ちゃんな性格だ。
いろんなことに興味はあるようだが
普段自分がビデオゲームをしていてもなんら興味をもたない。
家にチェスとかトランプはあり、ゲームそのものは大好きだが
ビデオゲームには微塵も興味がなかったようだった。
しかしながら、テトリスには食いついてきた。

果たして、なにがきっかけだったのかはわからないが
まったくビデオゲームの興味をもたない父親が自分のゲームボーイを
共有してテトリスをやっている姿はいま思っても不思議な光景だった。
ただ、どうも手にもってやるのは「重くて集中できない」とのことで
本体をテーブルの上におき、両手の人指し指で押していくスタイル。
これがなかなかに良いらしく、一時期「高得点争い」をしていた。

僕は小学校のときに学校で注意されてたくらいゲームセンターに
いってた子だったのだけど、スコア争いに入らず
中学生のときにはスコアではなく『ストⅡ』から始まる
対戦格闘ブームで勝ち負けが瞬時につく青春時代を送るのだが
小中合わせて唯一「スコア争い」をした人が父親だった。
普段やっている僕からしたら「負けるわけがない」し
父親からしたら、その謎の探究心でどこまでいけるか試してたんだろう。
学校から帰ってくるとおやつの時間のあとにゲームボーイを触ってる父親が
黙々とやっており「やってるな」と横目に2階の部屋にいく。
5分もせずに居間へといくとゲームボーイの電源は切られてテーブルに
置かれている。なにもしらない顔して最高得点を確認。
塗り替えられている……!
ただただお互いの邪魔をせず
ただただ点数を確認しては黙々と塗り替えていく。
そんなことが数週間続き、それこそ「数百点」レベルの点数となっていった
夏のある日。
父親に来客があった。
客間を使っていたのだから大事なお客さんだったんだろう。
僕はその日も居間で『テトリス』を遊んでいたのだが
絶好調で「これはまさか…」という気持ちになる。
だんだんと落下速度が早くなるブロック。それを受けて消しては積む。
ゲームボーイのテトリスにはAタイプとBタイプがあり
Aタイプのみハイスコアが記録されていく。
さらにAタイプは10万点毎にゲームオーバーになると
ロケットが打ち上がるのだが、その最後。
50万点を取るとスペースシャトルが打ち上がるのだ。
(記憶違いあったらごめんなさい)
「スペースシャトルが見られるかもしれない」
「50万点とったら、俺の勝ちだ」
と脳内に浮かび上がる言葉を打ち消すように没頭する。
そして、打ち上がるスペースシャトル!!!
これは父親に見せないといけない!
「50万点取ったよ!」と言っても
「俺が見てないところで出されてもなあ」と負け惜しみを言うかも!
そういう父親だ!(親子ともに最低)
そこで早足で客間にこっそり顔を出して
「ごめんなさい。ちょっと大事で急なお話があるんだけど」
ともじもじと言い、父親が「?」としていくと
「50万点!!!!!」と小声で言いドット絵のコサックダンスが
踊っているシーンを見せるのだった。
(確か。記憶違いだったらごめんなさい。でも見せた気がする)
そのとき、父親が呆れるでもなく
「おお!すごいじゃない!」って笑顔で言ってくれたのが救いだったし
本当に父親も、このゲームを楽しんでくれてたんだなあと感じたのです。

いまも含めて、父親がビデオゲームというものに触れたのは
あのとき以来なく。
いまは病気の後遺症でゲームはできなくなっているけど
それでも、あんな人とでもビデオゲームで交流できるんだなという
ゲームの可能性に確信めいたものを感じるようになったのも事実。

だから、僕はゲームに対して夢をもっちゃうんだろうなって思うんです。


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