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Daft Punkは何故解散しなければいけなかったのか〜ぼくなりの考察

Daft Punk 〜 トーマ・バンガルデルがいなかったら今の自分もいない。それくらい感謝しています。

ぼくはDaft Punkの熱心なファンではありませんでした。もちろん嫌いじゃありませんでしたが熱狂するほどはのめり込めなかった。

なぜならDaft Punkはオリジネイターというよりは元ネタからの引用がとても上手な「うまいことやる人達」という印象が強かったから。1stから2ndにかけてはああなるほどとは思いつつも熱心には聴いてなかったしもちろん影響も受けませんでした。

80年代の終わり頃からシンセサイザーやリズムマシン、サンプラーをシーケンサーで稼働させるいわゆる「打ち込み」を10年間延々とやり続けてアーティスト活動も辞めて編曲家に転身しつつあった90年代の終わり〜2000年代の頭にかけて、突然シンセサイザーに飽きた時期がありました。

ちょうどその頃浜崎あゆみ女史チームからお声かけいただき、いわゆるテクノ〜エレクトロ以外のロック的なアプローチや生ピアノ、生のストリングス等々の編曲をたくさんさせていただけて、シンセサイザーノイローゼからなんとか脱却できた時期でした。

当時ぼくは仕事ではなくて個人の嗜好的にはThe RootsやD'Angelo、CommonやErykah Badu等のソウル・クエリアンズがプロデュースしたネオ・ソウル〜オルタナティヴ・ヒップホップに夢中になっていて、AKAI MPC、Roland XV3080とギター、ベース、Fender Rhodesがあれば何も要らない!と思いきってテクノ的なシンセサイザーを全て手放しました。
 
そんな感じですのでそれまで死ぬほど聴いてきた四つ打ち(四分打ち)のいわゆるハウスミュージックのビートは一番聴きたくないサウンドでした。あの曲に出会うまでは。

あの曲、そうそれは

Music sounds better with you / STARDUST

に他なりません。

「STARDUST」はDaft Punkのトーマ・バンガルテル、プロデューサー/DJのアラン・ブレイクス、シンガーのベンジャミン・ダイアモンドによるユニットです。

この「Music sounds better with you」は Chaka Khan の「Fate」をサンプリングして延々とループさせ、その上にシンプルなベースとビートを乗せてフィルターを全体にかけて弱めたり強めたりしたトラックにソウルフルでスモーキーなVoがフィーチャーされるそれまでにありそうでなかった曲で、その頃夢中だったソウル・クエリアンズものと同時代性を感じさせる質感にプラスして昔自分が大好きだった初期のシカゴハウス、初期のデトロイトテクノを彷彿とさせる雰囲気もあり、大変な衝撃を受けました。

中学生の頃夢中だった初期パンクや高校生の頃夢中だったネオサイケ等のポストパンク、New Order の「Blue Monday」、Primal Scream の「Higher Than The Sun」、Rhythim Is Rhythim の「Strings Of Life」や Undergrownd Resistance の一連の作品等と同じかそれ以上くらいの衝撃と影響を受けました。

ハウスミュージックってなんて素晴らしいんだろう!初心忘れるべからず!

と覚醒したぼくは笑 青山にあったLOOPというクラブで毎月ハウスミュージックのイベントも始め、DJ活動にのめり込みました。

それからほどなくして忘れもしないキッチンで料理を作りながらラジオを聴いていた時に「Music sounds better with you」と同じ手法のままそれを更に派手にポップに展開させたフィルターハウス曲が突然流れてきました。最初の2小節で、ああこれはトーマ・バンガルデルが自分が発明した手法をポップに応用した Daft Punk の新曲だな!?とわかりました。
曲を流し終わった後にラジオパーソナリティが「お聴きいただいた曲は Daft Punk の新曲「One More Time」です!」と言い終わらないうちにラジオに向かってほれみろ当たった!と声に出して叫んだ記憶があります。

「One More Time」こそが Daft Punk のピークだったと思います。

グラミーを獲った「Random Access Memories」じゃないの?

と思われる方もたくさんいらっしゃる事でしょう。もう少々お付き合いください。

2000年代、ぼくは浜崎あゆみ女史のレコーディングの為何度もロスアンゼルスに行きました。

ヴィニー・カリウタやネイザン・イースト、ピノ・パラディーノ等々の錚々たる面々に自分編曲の楽曲を演奏していただき、貴重な経験をたくさん積みました。

LAのいろいろなミュージシャンから「おまえDaft Punk好きだろう?」と言われました。
その度に「もちろん嫌いじゃないけどメンバーのトーマ・バンガルデルのソロの方が好きなんだよ」と答えてました。するとその度にハンを押したように「トーマ・バンガルテルなら今はフランスじゃなくてビバリーヒルズのプール付きの豪邸に住んでるよ!」と何度も何度も教えられました笑

どういうことかというと「One More Time」イコール「ビバリーヒルズのプール付きの豪邸」だったわけです。

これに対してはなんの批判も妬みもありません。当然の対価で、素晴らしいことだと思います。

2010年代に入り、2013年、Daft Punkは「Random Access Memories」をリリースします。

豪華なゲストミュージシャンを揃えてLAだけでなくジミ・ヘンドリックスが設立し前出ソウル・クエリアンズの本拠地でもあったニューヨークの Electric Lady Studios まででも作業を行った本作は時流に反して Protools を使わずSONY PCM3348 にてレコーディングされたのだそうです。

プロのミュージシャンやプロのレコーディングエンジニアの方ならわかると思うのですが、近代レコーディングにおいてそれをやるのにどれだけの時間と労力とお金がかかることか!

ぼくならどれだけ時間とお金があっても嫌です。昔はそれが普通でしたがデジタルレコーディングの利便性を知った今めんどくさくてとてもじゃないけど無理です。

「Random Access Memories」は、「夢が叶った後の作品」なのだと思います。もう、「神々の遊び」です。

「Random Access Memories」という天界での行の後、どこに行くところがあるのでしょう?もう「上」はありません笑

しばらくDaft Punkのことは頭にありませんでした。ところが今回の解散宣言よりちょっと前からぼくは Daft Punk 及びトーマ・バンガルテルのことばかり考えていました。

編曲の仕事でリファレンス(参考曲)にしていたThe Weeknd の「 I Feel It Coming」を聴いて、なんて良く出来た素晴らしい曲だろう!と思ったからです。この曲のトラックは Daft Punk によるもの。 

The Weeknd は2021年の現在において、世界最高峰、世界一のアーティストだと思います。
なぜなら「洗練」されているからです。

「洗練」は大事なキーワードなので後でもうちょっと詳しく書きます。

「I Feel It Coming」は解像度の高いプロ用のスピーカーやヘッドフォンで聴くと、聴いていて疲れるくらい細やかな技法の集結で構成されています。圧倒的なクオリティーです。圧倒的過ぎて楽しくは聴けないくらいです。

ところがどうでしょう。キッチンで料理をしながら安価なBluetoothスピーカーやiPhone本体の小さなスピーカーから「ながら聴き」すると、イントロからのエレピのリフとファンキーなミュートギター、そして The Weekend 自身のvoが実に心地よい。最高の「なんてことなさ」を提供してくれる。

これは一体どういうことなんだろう?としばらく悩みました。

そして悩んだ末導き出されたワードこそが「洗練」なわけです。

ぼくはクリエイターの端くれとして長い間「オリジネイター」こそ尊いと思い込んでました。

しかしもしオリジネイターこそ至高なのであれば例えば全ての電化製品はエジソンの頃から進歩が止まったままでスチームパンク状態です笑

誰かがゼロから作ったものを、次の誰かがオリジナルの良さを踏襲しつつわかりやすく使いやすくちょっと変えて広く広める。

この「次の誰か」がやっていること、それこそが「洗練」なわけです。

英語で言うとソフィスティケートだけど「洗練」の方がいいな。

自分世代かそれ以上のおじさん達はこれまでのぼく同様にオリジネイター至上主義の方が多いのではないかと思います。

そういう方にこそ天気のいい日の昼下がりから夕方にかけてビールでも飲みながら The Weekend の 「I Feel It Coming」を聴いてみて欲しい。とてつもなく心地よいですよ。

そんなことを考えていたら愕然としました。

ぼくは Daft Punk がやろうとしていた「洗練」の素晴らしさ、偉大さに気付くまでなんと時間がかかったのだろう。

デビュー前のライブ評で「間抜けなパンク笑」と酷評されそれをそのままグループ名にしてしまった Daft Punk 。

間抜けなパンクが「洗練」を目指す道のりは実はパンクでレジスタンスな道のりだったのではないか。

The Weekend 「I Feel It Coming」?
シンプルでなんてことなくてそんな大した曲じゃないけどなあ?

と思われる方もいるかもしれません。

では世界中のイラストレーターの中で何人が、シンプルな線だけで構成されているのに一度見ただけで忘れられないミッキーマウスを、スマイルくんを、ミッフィーを、ハローキティを、スヌーピーを、ピカチュウをクリエイトできると思いますか?

なんてことないんだけど一度接しただけで心地良くて忘れられない。ここに辿り着くのは並大抵のことではないのです。

The Weekend 「I Feel It Coming」は Daft Punk が 「Random Access Memories」という天界より更に上に行ってしまった作品だと思います。次はもうない。

トーマ・バンガルテルのことだから忘れた頃にまた「Music sounds better with you」のような「発明」をしてくれると思います。

「発明」を「洗練」させると時代が変わります。

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