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Ⅰ.はじまりの気持ち。


…いきなり何のこと?とお思いでしょう。僕もいきなり過ぎるな、と思っています。
でも、"魔法"の話をさせて下さい。"魔法"という名前にすることに決めたのです。

この手紙を読んで下さっている方は、僕のことを多少なりとも知って下さっているものだと思って話を進めさせて頂きますが、僕のイラストワークも少しずつ、年月を重ねることが出来ています。

「虹色眼鏡」に始まった僕のイラストワークは、2冊目のイラスト集「かたちのつくりかた」まで、全て多くのみなさまに見て頂くことができました。
それは本当に幸せなことで、このように名も実績もない一人の絵描きが、それらの遍歴の中で注目頂き、ここまで来られたということは、みなさまの応援のおかげの他ならないでしょうし、僕はそれら遍歴の中で、それが一番嬉しいことだな、と今現在実感しています。

みなさまの声に導かれて、罵られて、遠ざけられて、ここまで来られているわけです。

「かたちのつくりかた」の中で、僕は「内緒の会図」という作品群を発表しました。イラストと漫画からなる一連の作品です(知らない方は、後で記す僕のwebや、pixivなどから検索して見てみてね)。
そこでも触れさせて頂いたつもりなのですが、どんなジャンル、職業、人、もの、でもあり得る話で、人気や注目、流行といったものには山と谷があって、いつでも、ずっと、永遠に、一番多く周りの目を借りていた時期と同じ状況でものごとを続けるというわけにもいかないんだな、ということを、昨今強く実感しているのです。
つまり、「虹色眼鏡」から始まった周りからの注目は、個展を経て一度終息を迎え、その後僕は以前より人目を浴びることなくイラストワークを進めてきたわけです。正直、心は正常ではありませんでした。

…何のこと?と思う方もいるでしょう。
そんな渦中にも僕に注目して下さっていた方や、この手紙を読み初めて僕を知って下さった方には、確かに分かりづらい話です。
しかし、多くの人の目が離れた瞬間を実感した時の僕の気持ちというのは、そういったものでした。
経験したことのある人は、きっとこの、寂しかったり、空しかったり、自信がなくなっていくような気持ちに、少しは頷いて頂けるでしょうか。

それでも「かたちのつくりかた」を発表出来たのは、その制作の最後に、今に繋がる気持ちを発見出来たからで、収録作品「45」などに気持ちの原点があります。
誰のために絵を描いていたのか分からなくなっていた僕が出したその答えを確かめてみたい、という意識でその後もイラストワークを進めてきました。
そうやって描いた絵は、以前より周りの人達を意識し、以前より自分のために描かれています。そんな基本的な感覚を、ずっと忘れて描いていた気がします。
今は絵を描くことがとにかく楽しくて、なんとなくイラストを描き始めた大学生の頃の様な、身軽な気持ちでもって絵に向かえているように感じます。


そんな気持ちで制作しているイラストワークも、ようやく再びお金を稼げる仕事に繋がり出したある日のこと。
僕はいつものように深夜まで続けたいイラスト制作を、この日は夕方の6時で終わりにし、とある方との夕食の約束に出かけました。
「虹色眼鏡」を出す以前、どころか学生時代から仲良くして下さっていたこの方と会うのは久しく、近くのファミレスで落ち合った彼は幾分、疲れた顔をしているように見えました。
会っていなかった時間に作った「かたちのつくりかた」を手渡すと、とても嬉しそうに眺めてくれた後、いつもと同じく他愛もない会話から、食事が始まりました。
食事が終わると彼は「かたちのつくりかた」を取り出します。これもいつもの流れ。僕の作品の品評会が始まるのです。
普段インターネットをあまりしない彼は、初めて対面する作品一点一点をじっくり眺め、これはこうだ、ああだ、と褒めてくれたり、バカにしやがったりするのですが、夜も更けていくにも関わらず徐々に笑顔を増やしながら品評する彼を見て浮かんだ感覚は、とても壮大で、とてもちっぽけなことだったと思います。
終わりしな、彼はぼそりとつぶやきました。

「いいなぁ。お前が絵を描くとみんなが幸せになってさ。俺みたいな会社員じゃ絶対無理だよな。あーあ、俺もこんな魔法使いみたいなことしてみてぇし…。」

…僕は一瞬にして決めたのです。
「魔法」という世界を作ろう、と。いつもとちょっと作りかたが違うけれど、次の作品集の名前を、先に「魔法」に決めてしまおう、と。

2011.9.8手紙「内緒の合図(★1)」より

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【2010.12.某日】
 友人と待ち合わせて飯を食う。
「かたちのつくりかた」を渡す。
やんや言われる。
次のイラスト集の話になり、そこでの会話から表題を「魔法」にしようかな、と冗談を言った。

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★1
2011年11月19日、東京流通センターにて開催された物販イベント「pixivマーケットVOL.02」へ作者参加に伴い作成された、商品購入者用の無償配布用おまけグッズの名称。
現在はwebショップにて販売中。
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「魔法」project
企画公式ページ:??? (※音量注意)
企画・運営:おおしまやすゆき(イラストレーター)
web:YASUYUKI OHSHIMA WEBSITE

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