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僕らはずっとここにいる《Club with Sの日 第17回レポ》


“レプリゼンテーション”って知っている?

「あ〜、最近耳にするようになった言葉だ。Representation、直訳だと“代表”とか“表象”になるのかな。
多様性に配慮、みたいな。マイノリティのキャラクターを登場させる作品も増えてきたよね。
この前、友達に連れられて観に行った映画の主人公も同性愛者だったし。意外と面白かったよ」

それ、ただの“消費”じゃん。
流行に乗る→コンテンツを視聴→はい、終わり。
家に帰れば異性の配偶者がいて、幸せな家庭の続きをする。
あの作品はファンタジーとして片付けられ、現実世界のマイノリティの存在は忘れられてしまう。
もし身近な人がQueerだとカミングアウトしたら、ぎょっとした目で見るのだろうか。
だって映画と現実は話が別でしょ、とマジョリティ側に同調するのだろうか。
そうでないなら、LGBTQ+を描いた作品がヒットしているのに、ようやく僕らの存在が可視化されようとしているはずなのに感じてしまう、言いようもないこの虚しさは、なんだというのか。

“レプリゼンテーションの影響”って知っている?

「うん。LGBTQ+に興味がなくても発信力のある有名人が関わっている作品はやっぱり気になるよね。あ、別にその人はセクシュアル・マイノリティではないんだけど。
ポリコレを意識、とかもあるのかなぁ。
最近読んだ漫画でBLっぽいというか、友情の延長線上にある親密な関係(?)みたいな描き方、いいなと思っちゃった」

それ、むしろ“クィアベイティング”じゃん。
Queerに見せかけた描写がある→しかもそれを当事者以外の人が表現→はい、終わり。
異性愛者の俳優や製作者たちは「新境地開拓」「新しい表現への挑戦」なんてフレーズとともに賞賛される。
一方、「リアルじゃない」とモヤモヤを感じ、「ステレオタイプすぎる」と違和感を抱く当事者たちの声は永遠に届かない。
だって僕らはマイノリティだから。
そして、LGBTQ+コミュニティへの理解増進どころか、誤解だけが拡散されていく。
Queernessを扱った作品ですら、慎重にならないと安心して観ることができない現実、このもどかしさを共有できる場所などあるのだろうか。

“レプリゼンテーションの可能性”って知っている?

今から証明するよ。

2021年12月15日
Club with Sの日 第17回
テーマ『ノンバイナリーのレプリゼンテーションとは?』

本題に入る前に、ノンバイナリー関連作品の紹介タイム。

「今週末はこんな映画が公開されました〜!!
セクシュアリティについてのお話ではないけど、Queerの俳優さんが出演しています〜!!
少しでも興味のある人はぜひ〜」

いや、これこそレプリゼンテーションの拡散か。
僕らのようなマイノリティが登場する作品の存在を、できるだけ多くの当事者に伝えること。
実際に観るor観ないに関わらず、Queerのキャラクターやアーティストが活躍しているという情報だけで励まされたりするから。

「ノンバイナリーが登場する作品を見つけるのはなかなか難しいですよね?
日本だと特に。
なので、直接的な描写でなくても、Queerのキャラクターに共感したエピソードとか、あるシーンの表現に自分を感じた体験とか、些細なことでも紹介していただいて大丈夫ですよ〜」

なんて事前に告知していたのに
え、みなさん、ノンバイナリー関連のエンタメ作品めちゃくちゃ知ってるじゃないですか!!!!!
と大興奮。
ファンによる推しの布教活動、はじまります。

自分の場合、映画が専門だから、それ以外の分野は未知だったのだけど、漫画、アニメ、ゲームetc…
他のジャンルではこんな風にジェンダー・アイデンティティが描かれていたのか!!
と発見の連続で、メモを書く手が止まらない。
その上、みなさん、プレゼンが上手で初心者の自分でも引き込まれる。
お、これはおもしろいことになってきた。

メンバーのお話に夢中になれたのは、繊細なジェンダーの描写について語ってくれたからだけではない。
共感できたのだ。
初めて自分を見出せる物語と出逢えた喜びに。
想像できたのだ。
ようやく自分を受容してもらえた安心感を。
オンライン上のミーティングだけれど、口調や声のトーンから純粋な感情が胸に響いてきたし、魅力を伝えようとする切実な様子がありありと目に浮かんだ。
それは、あの時、あの作品を観て、あのシーンに感銘を受けた自分そのものだ。
誰よりも自分の存在をレプリゼントしてくれたのは、ここにいるメンバーだった。

話題はキャラクター紹介に留まらない。
レプリゼンテーションのその先へ。
ガチの後半戦、はじまります。

Queerの人物が登場した時、それがどんなメッセージを発しているのか。
(マイノリティのキャラクターは一人だけ?)
(他の登場人物とはどう関わっていくのがふさわしい?)
(大切なことは明確に示してくれている?)

多様な表現を取り入れた子ども向け番組が、成長の過程でどんな影響を与えるのか。
(男の子はこれ、女の子はこれ、と枠にはめてない?)
(わかりやすさだけ重視してない?)
(大人の都合のいいように編集してない?)

LGBTQ+関連作品が世間でどんな扱われ方をしているのか。
(注目度を高めるために利用してない?)
(マイノリティに対してだけ極端に面白さや必要性を求めがちでは?)
(関係者が作品の外で何か行動を起こしてくれた?)

待って、待って。
レベルが高すぎて追いつかない(笑)
ずば抜けた観察力、読解力、考察力。その才能、どうやって身につけたんですか!?
加えて、自身の価値観と内省的に向き合う思慮深い態度。
Club with Sのメンバー、強すぎる……!!

さすがにお話が貴重すぎて、自分で開催しておきながら、お金を払って参加したくなってきた(笑)
参加費はメンバーのみなさんへ。Queerの作品研究にでも使ってくださいな。
とか言いたくなってきた。
感動してしまったのだ。
「エンタメ作品に登場するQueerのキャラクターをただの“消費”で終わらせてはいけない、僕らが僕ら自身についての物語を雑に扱ってはいけないんだ」というメンバーの方々の強い意思を感じたから。
これはもう、泣いてしまうな。

僕らのアイデンティティは話題性でも、トレンドでも、新しいジャンルでもない。
今まであまりに描かれなさすぎて、マジョリティの意識の外にあっただけだ。
描かれない。
描かれても、正しく描かれない。
正しく描かれても、続かない。
たくさんの“ない”が多様性を沈黙させ、マイノリティを周縁化させてきた。
でも、現実に“いる”のだ。
これまでも“いた”し、今も“いる”し、これからも“い続ける”から、だから、リアルを観せてくれよ。
そう願うことは、そんなに贅沢なことなのか……?

真実を求めて、僕らはコミュニティから発信し続ける。
ここにいる。

クリエイターの方々、聞いていますか? あなたが描いた多様性で幸せになる人が確実に
ここにいる。

僕らもまだ“自分”を見つけられない誰かにとってのレプリゼンテーションになりたいと切望して……
ここにいる!!

We won’t be erased.




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