セリと対照な彼女

※本編と完全版のネタバレまみれ

(前回のnote、色んな人に読んでもらえて嬉しかったです。俵万智さんからの通知が来た時は何事かと思いました。ネットってすげえ〜〜〜)





このnoteでは、セリと対照的だったある女性について書こうと思う。それが誰か言う前に、これを読む人は「セリと対照的な人」ときいて、誰を思い浮かべるかすごく興味がある。ダンが多そうだと思ったりもする。

私が思い浮かべたのは、ト・ヘジ。ユン家の長男ユン・セジョンの妻で、元女優。ヘジと対照的だと言うとサンアと言われることが多い気もするけど、それは妻としての観点から見た場合だと思うので、私は一人の人間としてのセリとヘジの対照性について書きたい。


生い立ちの対照性

セリの生い立ちについては、本編でたくさん触れられる。その最大の特徴は、セリが財閥という超お金持ちで超特殊な家族の、一人娘であるということ。

この点に関して、ヘジはどうだろう。作品の中で言及されていないので推測してみたい。まず、ヘジは元女優だ。財閥の長男と結婚するくらいだから、知名度はあっただろう。演劇を大学で専攻したり、養成所や演技学校を出たりした可能性が高いから、財閥まではいかなくても、相当なお金持ちのお家で育ったと考える。少なくとも財閥との結婚が許されるくらいには。

家庭の財力に関しては、対照的でも何でもないだろう。ただ、決定的に違うと思うのは、"家族"の中で育ったか否かだ。ここでいう家族とは、枠組みの話ではない。愛情をもって機能するもののことを指す。このnoteではこの部分について考えたい。

先ほど述べたように、セリの家族は財閥だから特殊だった。それは本編にも何度も何度も述べられている。親孝行も、父親が誰と朝ご飯を食べたかを知るのも、ぜんぶがビジネス。友愛(ウエ)より友好(ウホ)株で、子ども(チャシク)より株式(チュシク)。何より、セリは婚外子だった。兄2人には疎まれるし、育ての母は、夫の不貞の結果であるセリの愛し方がわからない。セリは、お金にも社会的地位にも恵まれながら、肝心の居場所がなかった。だから自殺まで考えた。前回のnoteに書いたが、セリは家族らしい家族に微かな期待を寄せながら、それが叶わないものだと思って強く孤独に生きてきたんだと思う。

ク・スンジュンとのお見合いで、セリはこう言う。

「私は顔色を窺う生活が長くて、勘が鋭いの」

天才詐欺師のク・スンジュンすらあっと言わせるレベルまで勘を研ぎ澄ますには、どんな辛い経験をしたことだろうか。でも事実、その経験が彼女を詐欺師から守った。それに、4話のヨンエさんの誕生日会では、

ヨンエ「初めて来たんだし、隣に来ない?」  セリ「イヤです」              一同 (...!?!?)                セリ「美しい方の隣には座りたくないので」  オックムの隣に割り込む           セリ「私は…ここに」            ヨンエ「あらまあ、ご自分の鉄則があるのね!」

ここのセリはマジで好き(急な私情)

ここのセリすごいポイントは、ヨンエさんをただ「お美しいです!」と褒めるんじゃないところ。だいたい、そんなの周りの取り巻きが一通りやったことだ。ヨンエさんの超お気に入りになって、ゆくゆく配慮星をもらうには、周りから一線を画さなければならない。だからセリは、下からヨンエさんをヨイショヨイショと崇めるのではなく、"上"からヨンエさんを特別扱いする方に回った。それは次のシーンでよく分かる。

ウォルスク「ヨンエさん、私たちからのお祝いです、どうぞお納めください。…ですが、婚約者さんは手ぶらで」               セリ「ここにも贈り物が!」         ミョンスンの作った服を持ち上げる      ミョンスン「野暮ったいので…」       セリ「何を言うの、これって流行の最先端じゃないですか、ニュートロ」           一同 ("ニュートロ"って何かしら…)                         セリ「よかったら…私が少し、手を加えてみましょうか」

先程の発言で、セリがヨンエさんに取り入ろうとするのがわかって、ウォルスク班長がそれを阻止するために手ぶらで来たことをバラす。しかしセリは持ち前の機転でそれを回避した。セリは、舎宅村の憧れ、最先端である"南町"育ちという利点を最大限に活かして、ヨンエさん含む舎宅村の奥様方より、遥か優位に立つ。"上"に立つのである。そのうえでヨンエさんを特別扱いすることで、ヨンエさんにこれ以上ない優越感を抱かせているのだ。これは舎宅村の奥様たちには絶対にできないことである。

そしてセリが流石なのは、ミョンスンにも好かれるところ。ここで手柄を独り占めすることだっていくらでもできただろうが、セリはちゃんと最後に「センスの良い服だったのでアレンジできました」と、ミョンスンをたてる。そしてミョンスンとアイコンタクトして微笑み合う。セリは全く敵を作らずに、ヨンエさんのお気に入りになることに成功した。

そして1日の終わり、相手が良い気分になっている時に、さりげな〜く昇進の話題に触れ、しかもその最中も「実はジョンヒョクは大佐への尊敬の念で胸がいっぱいなんですけど〜」と相手の気分を良くする理由をつける。配慮星をもらう、という最終目標のことはまだ言及しない。ちゃんとタイミングをはかる。

「顔を窺う生活が長」かったおかげで、彼女はこのようにして北でも奥様方に取り入り、良い関係を築くことができた。


では、ヘジはどうだろう。それは5話中盤の、ヘジとセリのお母さんの会話から見えてくる。

ヘジ「お義母様、この前はすみませんでした。夫は合わせる顔がないそうで、代わりに私が伺いました。彼はバリにリゾートを建ててます。お義父様が引退なさったら、その1棟をお二人に差し上げようと私が彼に言いました!」        セリ母「バリ?いいわね。そこに引っ込んでろって?」                   ヘジ「違います、ただお二人が仲睦まじく…」 セリ母「20年も寝室が別なのよ」       ヘジ「そうでした?どうして?知りませんでした。寂しかったでしょうね…」        セリ母「ええ…疲れたでしょ、帰って。私も休みたいわ」                  ヘジ「そうでしたら、私たちと同居を!家も大きいのに、お二人だけじゃ寂しいでしょ。私を嫁ではなく、娘だと思ってください。娘はいないでしょ」                    セリ母「…なんて言った?」         ヘジ「私が何か?」             セリ母「娘がいないって?」         ヘジ「いたけど今はいないから…」      セリ母「セリが死んだとでも?」       ヘジ「何をおっしゃるんですか、死んだなんて。私たちの胸の中で永遠に生きてますよ」    セリ母「帰って」              ヘジ「お義母様、一言だけ」         セリ母「…言って」             ヘジ「株を8%お持ちですよね?議決権を下さいませんか?私たちの株と合わせたら、勝ち目があります。ねえ?」           

ここの会話でわかることが2つある。

1つ目、ヘジの両親はきっと仲が良い。私はここで確信した。寝室を別にするような両親のもとで育った子どもなら、「寂しかったでしょうね」なんて感想が出てくる訳がない。

2つ目、ヘジはセリと違って、人の顔を窺うのも、機嫌を取るのも、超ド下手だ。ヘジは何度も一緒に食事をとっているはずなのに、ユン会長夫妻の間に良い空気が流れていないことに、まったく気づいていない。自分が「娘がいない」という失言をしたことにも、いっさいピンときていない。この後の、旦那に電話するシーンでも、ヘジは「私が娘になると言った"だけ"」だと説明する。何か弁解でもするかと思ってセリのお母さんがくれた最後のチャンスの一言にも、株の交渉をねじこむ。絶対にうまくいくはずがない。

セリが、兄に疎まれ母に愛されない婚外子だった結果、人の顔色を窺いながらうまくやっていく方法を身につけたなら、逆に考えれば、ヘジは両親や、いるなら兄弟姉妹に、大切に愛され、気にかけてもらいながら育ったんだと感じる。人の顔を窺う必要もなく、敵を作らないようにしよう!と考えなくてもいい、そんな人生。だからヘジは、人の機嫌の取り方も知らない。というより、今まで知る意味がなかった。

完全版・上を読んでいて結構印象的だったヘジのシーンが、4話にある。セリがいないため、やむを得ずユン会長がセヒョンを後継者に指名する。その後、セジュンとセヒョンがお互いを貶めようと言い合う中での、この場面だ。

セヒョン「潔く負けを認めたらどうだ」    セジュン「自分は潔かったとでも?_セリが指名された時何て言ったと思いますか?…"ゴシップを流そう"、セリは婚外子だと、マスコミにバラそうと言ってたんです!セリを破滅させると。そうだろ?」                   ヘジ「本当なの?予想以上に卑劣な人ね!」  セヒョン「お義姉さん、口を謹んで」     セジュン「お前こそ何だ」          セヒョン「オーケー、じゃあ思い出させてやる。セリが失踪した後、"神はいるんだな"と言ってたろ?セリの死を喜んでた。一応は家族なのに。兄さんが怖かったよ」             セジュン「あきれたな、白ペンキとマントをくれ。二重人格のアニメキャラか?いつからセリが"家族"に?母さん、何とか言ってくれ。みんな、正直になろう。セリを家族だと思ってた者がこの中にいるか?よそ者扱いしてたじゃないか!外から連れてきた子なんか、母さんも捨てたかったろ?」

途中まで、いつものように旦那に加勢していたヘジ。でもその後は、だんだん声を荒げる旦那を宥めるように手をさする。前述した通り、ヘジは空気を読んだりするのが下手なのに、この時ばかりはちらちら周りの顔を窺いながら、心配そうに旦那を見ている。ここが、完全版にはこう書いてある。

(ハッ…、あなた、それはちょっと違う気がするけど)

これは本編を見てても意外なシーンだった。

ヘジが加勢していた時は、話のメインは飽くまでも、「どっちが代表に相応しくないような言動をしていたか」のはずだった。それなのに、セジュンが自分の発言を正当化しようとするあまり、主張する内容が最終的に「セリは"家族"じゃなかった」になってしまっている。普段は全然空気を読めないヘジが、ここで直感的に「それはちょっと違う」と感じているのである。

ここのヘジが直感的に空気を読めたのは、彼女に普通の、血の通った"家族"の感覚があるからだと思う。セヒョンとサンアは、後の行動からもわかるが、まじで卑劣だしセリのことを家族だなんて本当に考えていない。1ミリも。これも、セヒョンは生まれた時から財閥の家庭で、サンアも大手サンボクグループの娘で、ふつうの"家族"では育っていないはずだから、当たり前と言えば当たり前かもしれない。

でも、ヘジは違う。きっと彼女には、血の繋がっていない子だから世間の目がなければ捨てるという発言を始め、家族のうちの1人を家族と思わない、それがはっきりと異質な考えに映っていた。今まで書いたことの通りなら、彼女は仲良しの夫婦の子どもとして、勘が鈍るくらい愛され大切に育てられてきた。そんな生い立ちが、今後の、なんだかんだ帰ってきたセリのお肌の心配をしてエステを紹介したり、入院したセリに義姉として寄り添おうとしたりするヘジへと繋がっていっているように感じた。育った環境の中で、彼女に無意識のうちにふつうの"家族"が刷り込まれているように。ヘジが、セジュンが着信拒否されなくなったことを"進歩"と称するのは、今までのセジュンとセリがいた財閥としての形の家族ではなく、セリと生きた"家族"になることへ一歩近づいたから。


2人の言動から、その生い立ちの違いを感じる。どちらが良い悪いというのはない。寂しく辛い幼少期を経た結果、他人を見定める優れた感性と、人に気に入られる振る舞いを身につけ、臨機応変に活かすセリ。愛のある家庭で、周りから大切にされた結果、空気を読んだり人の機嫌をとったりすることはできないけれど、ふつうの"家族"の温かみを根底にもっているヘジ。対照的な生い立ちの2人が、最後はやっと向き合って、姉と妹として家族になれた。愛の不時着がただのラブストーリーではないのは、主役の2人の間以外にも、こういう変化が生きているからだと痛感する。





こういうのを書いてて思う。個人的にドラマは、ハラハラしたいけどイライラしたくない。だから、ヒロインのライバルポジションの女の子とかが意味もなくめっちゃ気に障る性格で、その上ヒロインたちの邪魔をしようとして事態がこじれると、見ているのが非常に疲れる。そういう役は、視聴者にハラハラを巻き起こしたい!盛り上げたい!という制作者側の意図があって置かれているようにしか思えない。しかも実際に私に起こったのはイライラだけだ。

でも、愛の不時着は違う。キャラクター全員、本当に画面外でも人生を歩んできたようにすら感じられる。ただ、場をかき回すだけとか、そういうことに制作上必要なキャラって訳じゃない。全員自分の人生があって、その目的のために行動した結果、たまたまそれが他のキャラクターにも作用する。それが、視聴者をハラハラさせてくれる。その一連の流れがすごくリアルだった。



以上はすべてわたしの完全なる憶測によるnoteですが、見るとき注目するポイントの1つにでもなればとっても嬉しく思います。愛の不時着はほんとに面白い



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