「雨音。足音。」

憂鬱なのに、どこか耳馴染みの良い音。
だけどどんなに走ったって、どんなに気を付けていたって、傘をさしても濡れてしまう。

あぁ、キモチイイ。
疎ましいのに。
風邪をひいてしまうのかな。
すごく濡れてしまった。
でも、雨に濡れる感覚は、どこかキモチイイ。
寒いのに。冷たいのに。

なんでなんだろ。

こんなの、まるで

狂ったみたいでしょう。

あぁ、また誤魔化すんだね。
狂ったように振る舞って、私は正常者じゃないからと、狂う事が正しい逃げ道として誤魔化す。

傘の準備はできている。
広げなくちゃ、さぁ。
ううん、やっぱりできない。

だって傘を広げたら、泣いている事に気付いてしまう。
それがなんだ。
私はおかしいんだから。
なんで、

泣くことに抵抗を感じるの?

よし、走ってみようか。
涙乾くんじゃないかな。

気付かなくていい。
泣いてなんかない。
想いが形になったら涙だっただけ、でしょ。

昔はあんなに上手に泣いてたのに。
お腹すいたよ。
痛いよ。
かまってよ。
悔しかったよ。
怖かったよ。

いっぱい泣いてたのに。

そうか。
強くなったんじゃない。

弱くなったんだ。

泣けない臆病者に、なったんだ。

あぁ、ひとりぼっちを寂しく思うくせに誰かと同じ傘に入りたいなんて思ってしまう。

誰かこの涙を拭ってとうち震える。

泣きたいんだ。

雨のしずくで涙をまぎらわせたくない。
雨音で噛み殺した声で泣きたくない。

でも、まだ、この音を聞いてたい、濡れていたい。
この真っ白な傘は持ち歩かない事にしようかな。

いつか広げた傘にあたる雨音、足音ふたつ。

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