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真核生物のゲノムには反復配列が存在する

BLUE BACKSの「新・大学生物学の教科書」シリーズを気の向くままにゆっくり読んでいます。年寄りの楽しみでもあるのですが、若い時はいろんな分野のBLUE BACKSシリーズをよく読んでいたことを懐かしく思い出します。
今回は、真核生物のゲノム配列についてまとめているページに飛んでみたいと思います。

真核生物は細胞の中にたんぱく質の集合体からなる発達した構造(細胞内骨格)を有します。代表的なものはヒトや酵母菌など。
真核生物のゲノムは、ポリペプチドをコードしていない多数の反復DNA配列を含んでいます。これらは主に、たんぱく質コード遺伝子(ゲノム全体のわずか数%に過ぎません)以外の場所に存在します。
このような配列には、高頻度反復配列、中頻度反復配列やトランスポゾンがあります。(訳註:ここで言う高頻度、中頻度は便宜的な分類で、必ずしも反復配列の反復頻度を反映した分類ではありません。)

高頻度反復配列は、短い(100塩基対未満)配列がゲノム中に何千回も連続して繰り返し並んだ配列で、転写されることはありません。真核生物のゲノムにおける割合は多様で、ヒトの10%から数種のショウジョウバエの約50%まで幅広いです。
こうした配列は、高密度に凝集した転写不活性なゲノムの一部であるヘテロクロマチンに関連しているものが多いです。その他の高頻度反復配列はゲノム中に散在しています。例えば、1〜5塩基対の“短縦列反復配列“(ショートタンデムリピート、STR)は、染色体の特定の領域で最大100回も繰り返しています。そのようなSTRの特定領域における反復数は個体ごとに異なります。(訳註:単純反復配列、SSRとも呼ばれるマイクロサテライトDNAで、有用な分子マーカーとして利用されています。)

中頻度反復配列は、真核生物のゲノム中で10〜1000回繰り返されるものを指します。こうした配列には、転写されてタンパク質合成に用いられるtRNAやrRNAを作り出す遺伝子が含まれています。細胞はtRNAとrRNAを常に合成していますが、それらをコードする遺伝子が1コピーしかなかったら、たとえ最大速度で転写したとしても、ほとんどの細胞で必要とされる大量の分子を十分に供給することはできないでしょう。そのため、ゲノム中にはこうした遺伝子が重複して存在するのです。


哺乳動物のリボソームを構成する4種類のrRNA分子(18S、5.8S、28S、5S)

哺乳動物では、18S、5.8S、28S、5Sという4種類のrRNA分子がリボソームを構成しています。(Sは大きさを示すスベドベリ単位と呼ばれる沈降係数)
18S、5.8S、28Sの3つのrRNAは1本の前駆体RNA分子として転写されます。
その後、数段階の転写後調節を経て、前駆体分子は最終的に3種類のrRNA分子に切断され、非コード領域の「スペーサー」RNAは除去されます。

1本の前駆体RNAから最終的に3種類のrRNA分子に切断されるイメージ

これらのRNAをコードする配列の反復頻度はヒトでは中程度であり、合計で280コピーが5本の染色体上にクラスター(集団)として存在しています。
(訳註:rRNAをコードする遺伝子rDNAは染色体の核小体あるいは仁形成部位と呼ばれる領域に存在します。ヒトでは、第13、14、15、21、22番染色体上にあります。)

RNA遺伝子(rDNA)を別にすると、中頻度反復配列の大半はトランスポゾンであり、これらの配列は、原核生物のトランスポゾンと同様、ゲノム中を動き回ることができます。トランスポゾンはヒトゲノムの40%以上、トウモロコシゲノムの半分以上を占めていますが、その他の真核生物の多くでは、その割合はもっと小さいです。(3〜10%)
真核生物の主なトランスポゾンには、3種類のレトロトランスポゾン(RNA型:RNAを中間体とする)であるLTR、SINE、LINEと、DNAトランスポゾンがあります。レトロトランスポゾンはクラス I トランスポゾンとも呼ばれ、それらが持つ反復配列の型に基づいて、長鎖末端反復配列(LTR)、長鎖散在要素(LINE)、短鎖散在要素(SINE)の3グループに分類できます。レトロトランスポゾンがゲノム中を移動する方法は独特で、RNAに転写された後に、新たなDNAの鋳型として働きます。
こうしてできた新たなDNAは、ゲノムの別の部位に挿入されます。この「コピー&ペースト」機構によって、もとの部位と新たな部位にトランスポゾンのコピーが2つ存在することになります。SINEの1つで300塩基対からなるAlu(Arthrobacter luteus)は、ヒトゲノムの11%を占めていて、その数は100万コピーにも上ります。
4種類目のトランスポゾンはDNAトランスポゾンといい、クラス II トランスポゾンとも呼ばれ、RNAを中間体として利用せずに転移します。原核生物のある種の転移因子のように、DNAトランスポゾンはもとの場所から切り出されて、複製を経ずに新たな場所に挿入されます。(「カット&ペースト」機構)

転移因子の構造

以上のような転移をする配列は、細胞でどのような役割を果たしているのでしょうか?現時点で最も可能性の高い解答は、トランスポゾンは単に複製可能な寄生分子だという説明でしょう。とはいえ、新たな場所へのトランスポゾンの挿入は重大な結果をもたらす可能性があります。例えば、コード領域へのトランスポゾンの挿入は突然変異を引き起こします。血友病や筋ジストロフィーなどヒトの稀な遺伝病のいくつかは、この現象が原因です。もし、トランスポゾンの挿入が生殖細胞系列で起これば、突然変異を持った配偶子が生じます。これが体細胞で起これば、がんの原因となりうると考えられます。

トランスポゾンとともに隣接する遺伝子が複製されることもあり、この場合、その遺伝子も重複します。トランスポゾンは遺伝子やその一部をゲノムの別の場所に移動させ、遺伝物質を入れ替えたり新たな遺伝子を生み出したりすることができます。その転移は間違いなく、真核生物ゲノム内の遺伝子の壺をかき混ぜて、遺伝的変動の創出に貢献していると言えるでしょう。
真核生物ゲノムの解析からはこれまで膨大な量の有益な情報が得られています。
年寄りなりに、まだまだ色々な書籍を読み込んだり勉強していきたいと思いますが、真核生物のゲノムは不思議に満ち溢れている宇宙ですね。

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