西尾典文氏の記事が"めちゃくちゃ"といえるこれだけの理由

 いきなりだが、私は福岡ソフトバンクホークスのファンである。そのためスポナビプロ野球の速報のアプリで日夜ホークス情報を追っているのだが、毎回不快か思いをさせられる記事を書いているライターがいる。それが西尾典文氏である。

 西尾典文氏といえば、昨今のプロ野球ファンならば、1度は耳にしたことがある名前だろう。プロ野球球団の所属経験はないものの、アマチュア野球に精通し、ネット上でも沢山の情報を発信。その知見からスカイAのドラフト情報番組に出演するなど現在のネット上でのドラフト•アマチュア球界情報では第一人者と言えるような人物である。筆者もアマチュア選手の情報に関してはリスペクトすべき人物だと思っている。

 そんなアマチュア業界•ドラフト業界に詳しい西尾典文氏はnumberwebや文春オンラインにアマチュア業界•ドラフト情報中心の記事を挙げているのだが、私が今回問題にするのはアマチュア業界だけでなく、プロ野球情報へも言及しているデイリー新潮における氏の記事である。

 はじめに断っておくが私はアマチュア業界に精通している西尾氏がプロ野球の記事を書くなと言いたいわけではない。ただし明らかに悪意が垣間見えたり、選手へのリスペクトに欠いているため以下に批判するものである。

問題の記事例1.ソフトバンク、超大型補強も…常勝軍団の復活が“前途多難”と言えるこれだけの理由

 さて、今季最後の最後で優勝を逃したホークスは今オフ大型補強を決行した。海外FAにて千賀滉大の流出があったものの、FAで日本ハムから近藤健介、横浜DeNAから嶺井博希を獲得。また、新外国人としてホーキンス及びアストゥディーヨを獲得し、元阪神のガンケルも向かい入れた。さらには元ロッテのオスナ獲得も確実視されており、早くも来季の優勝候補筆頭であるとも言われている。そんな今のホークスを受けて出されたのが以下の西尾氏の記事である。 

ソフトバンク、超大型補強も…常勝軍団の復活が“前途多難”と言えるこれだけの理由

https://news.yahoo.co.jp/articles/332b810e039c95b8c4ac4bffea7561c6384d16a3?page=2

 長文となるので全文の記載は控えるが要約すると以下の3点から優勝候補筆頭とは言えないというものである。
•近年の大型補強が上手くいっていない。
•野手の世代交代か上手くいっていない。
•育成枠選手に関する懸念。

 実を言えば私もホークスは優勝候補ではあるが、優勝候補筆頭とは思っていない。しかし、かの記事の内容はあまりにもツッコミどころ満載である。

近年の大型補強が上手くいってない 

記事内では大型補強補強が上手くいっていない例として



大きな懸念点の一つが近年の大型補強がことごとく成功していないという点である。  ここ数年、バレンティンやムーア、チャトウッド、ガルビスら、日本の他球団やメジャーで実績のある選手を立て続けに獲得しているが、期待通りの活躍を見せた選手は“皆無”と言ってよい状況である。

としている。
まず一つ目のツッコミどころとして当然ながらムーアの補強は大成功である。怪我でで遅れたことやコロナによる短縮シーズン故に日程がタイトであったためシーズンでの投球回は78回に終わったものの6勝3敗防御率2.65という成績を残している。何より残留させようとしたホークスを上回る条件でメジャー復帰を果たしたのが成功の何よりの証だろう。
 二つ目のツッコミどころとしてはそもそも例に挙げた彼ら以外の成功例を無視しているという点である。具体的にいえば2017のデスパイネや2021のマルティネスである。西尾氏の記憶には成功した選手は残らないのだろうか。
 三つ目に最大のツッコミどころだが、そもそも大型補強で一括りにするのがおかしいという点である。今回の補強のメインと言えるであろうと近藤とオスナはそれぞれ来季30歳と28歳の国内野球経験者である。それを国内野球未経験であったガルビスやチャトウッド、当時すでに36歳のバレンティンと大型補強という点だけで同じ扱いするのは無理があるだろう。

野手の世代交代交代が上手くいっていない

 まずホークスファンなら理解しているだろうが今季のホークスは野手の世代交代がかなり進んだといっていいだろう。新鋭筆頭である栗原を欠きながらチーム打率、チーム得点はリーグトップであった。
 また近年メジャーでは最重要視されていると言っていい指標である「WAR」では村上や塩見擁するヤクルトを凌ぎ12球団1位である。
 では、西尾典文氏は何をもって野手の世代交代が上手くいってないとしたのだろうか。

それ以上に気がかりなのが一向に進まない野手の世代交代だ。今季、100試合以上に出場した野手は7人いるが、そのうち5人が30歳以上となっている。  過去5年間で、初めて規定打席に到達した選手は栗原陵矢のみ。その栗原もプレー中の怪我で長期離脱となり、まだ復帰の見通しは立っていない。それ以外の若手で、レギュラー獲得の兆しがあるのは三森大貴と柳町達くらいしかおらず、柳町は、同じ外野手である近藤のFA移籍で、来季は苦しい立場となることが予想される。

 なるほど最初の100試合以上出場した野手7人中5人が30代というのは一見すると世代交代が上手くいってないという根拠としては尤もらしい。ではその100試合以上出場した7人とは誰だったのだろうか。以下の通りである。

 柳田悠岐(34)、中村晃(33)、今宮健太(31)、甲斐拓也(30)、牧原大成(30)、柳町達(25)、三森大貴(23)

 これを見て「ん?」と思う方もいるだろう。そう7人中5人と言われたその5人の中の2人はシーズンの大半を29歳として過ごし、それぞれ10月と11月に30歳の誕生日を迎えた牧原と甲斐である。つまりシーズン中は7人中4人が20代だったし、仮に彼らが1月生まれなら今でもそうなるわけだが、その場合西尾氏はホークスは世代交代は成功と言うのだろうか。
 そもそもである。来季の大半を30歳として過ごす牧原や甲斐、来季30歳を迎える近藤は世代交代すべきベテランなのだろうか?まさに全盛期である30歳の選手を「30代」という大きな枠組みで括って世代交代されるべき対象というのは乱暴と言わざるをえない。
 
加えていえば、柳田と今宮は今季ベストナインを獲得している。つまりは少なくともパリーグではどの球団でもレギュラーという評価をされているわけである。彼らが試合に出ていることが世代交代の失敗を表すのだろうか?  
 ツッコミどころは後半にも続く。
まず復帰時期未定とされている栗原だが一説には日本シリーズに出場した場合に代打で復帰すると言われていた。 

 これを完全な復帰と言えないまでも、秋季キャンプに参加し、打撃練習だけでなく守備練習を行っていたことや、同様の怪我をした小久保やアクーニャJr.が1年経たずに復帰していることからも来季開幕に間に合うと考えるのが自然だろう。少なくとも「復帰の見通しはたっていない」という表現は誤りであると言わざるをえない
 またレギュラー獲得の兆しがあるとされているのが三森と柳町のみとなっているのも疑問である。今季コロナの時期を除けばシーズン終了まで42試合連続スタメンの周東や10本塁打10盗塁を記録した野村勇、CSにも出場した正木は少なくとも候補として名前が上がるはずだ。
 恐らくは上記の100試合出場という点でしか見ていないのだろうが、なんとも短絡的である。
 さてここまで野手の世代交代が上手くいっていないという点に突っ込んできたが、とはいえコロナの影響もあり今季ホークスで規定打席に到達したのは柳田と今宮の2人、若手は台頭の足がかりとなった年であることやセイバーメトリクスによる観点でいうと打撃だけでなく守備による貢献が大きく旧来的な指標では気付きにくい点を踏まえると世代交代が上手くいっていないという固定観念があれば(ジャーナリストを名乗りながらそんな固定観念を持つなという話だが)、それを払拭できないのもわからない話ではないのかもしれない。 
 では西尾氏はセイバーメトリクス的な指標の知識がないのだろうか?実はそうではない。以下の記事がその根拠だ。 

岡田阪神に“不安材料”が山積…ドラフトや補強戦略に他球団から疑問の声
https://news.yahoo.co.jp/articles/95fa5150e66c9db9318fa2abbe1c70618a0d5d1f

 この記事の内容については割愛するが、注目するのは記事内の以下の部分だ。

実際に渡辺は19年から3年間、チームで最も多くセカンドとして出場している。だが、野球データの分析を行う「DELTA社」が発表しているセイバーメトリクスで示す守備範囲の指標を見てみると、20年、21年連続で規定守備イニング(所属チームの全投球回数の1/2)をクリアした選手の中では、最も低い数字になっている。

 このDELTA社こそNPBにおける「WAR」を算出している企業であり、有料会員であればその数字や記事中の守備指標とされているUZRの数値を閲覧することができる。西尾氏は少なくとも上記記事が出ている1ヶ月ほど前の時点でその数字が確認できる環境にあったということである。

 なぜ西尾氏は充分な知識を有しながら特定の数字だけを用いて結論を出すのか

 私の完全な予測ではあるが、まず西尾氏の中で結論ありきで記事を書いているからだろう。氏がホークスの野手世代交代が上手くいっていないと主張しているのは何もこの媒体や今オフに限ったことではない。何度も主張するうちに引っ込みがつかなくなってしまった部分もあるのだろう。
 また、アクセス稼ぎの面も有るかもしれない。上記の様なゴッシップ紙まがいのタイトル記事なら閲覧数は増えるのかもしれない。
 どちらにせよ充分な知識がありながら特定のデータのみを用いて結論を出すのは悪意があると言わざるをえないだろう。

育成枠選手に関する懸念 

 この部分に関しては誰かもわからない関係者が語った選手のモチベーションに関する話であったり、せっかくとった選手が流出するかもしれない(だから何だというのか、やった方が少なくとも自球団にとってプラスなのは明らかである)というあまりにも程度が低いものが大半なのでここでわざわざ反論する気もないが、以下の部分については突っ込みたい。 

そのために育成選手を多く獲得し、4軍制を導入しているのだから備えはできているという声もありそうだが、よく見てみると10年に指名した千賀、甲斐、牧原大成以降はそこまで多くの選手が成功しているわけではない。  現在一軍の戦力となっている選手は、石川柊太や周東佑京、大関友久がいるが、いずれも大学卒であり、千賀や甲斐ほどのスケールは備えていない。

 千賀ほどのスケールを備えていないから成功ではないとはなんとも暴論である。そもそも投手三冠を取りメジャーで大型契約を得た千賀以上といえる選手は支配下選手含めて何人いるだろうか。
投手としての総合力でなく「スケール」という点でのみいえばあの山本由伸さえも千賀に劣るかもしれない。
 西尾氏は彼らも全員成功ではないと思っているのだろう。それならばタイトルホルダーで侍ジャパンにも選ばれている石川や周東、オールスター出場を果たした大関が成功扱いでないのも納得では有るが。

問題の記事例2.年俸と“釣り合わない”成績 巨大戦力も今は昔、ソフトバンクの「大甘査定問題」

 先んじて言っておくが以下の記事を見た後ホークスファンはあまりの嫌悪感に吐き気を催したり、怒りで震えるかもしれない。先の記事についてはどちらかといえば不快感より呆れが勝る記事だが、以下の記事はまさに不快である。気をつけて読んで欲しい。

年俸と“釣り合わない”成績 巨大戦力も今は昔、ソフトバンクの「大甘査定問題」

 
 端的にいえば「選手の評価(記事内では特に生え抜き選手)への評価が他球団に比べて甘すぎる。そのため選手に甘えが生じている。他球団並みに見直すべき」という記事である。
 どうしようもない記事である。選手へのリスペクトがあればこの様な記事は書かないだろう。

そもそも適正年俸とは何か?

 これは西尾氏に限ったことではないが、近藤の年俸報道が出て以降、「適正年俸に比べて高い」旨の記事や意見が散見される。では上記の記事内でも言及されているFA権を持つ選手、またはそれに近い選手の適正年俸とはいくらだろうか? 
 結論からいえばペイロールを考慮しない場合、適正年俸とは獲得できる年俸(残留させることができる年俸)だろう。
 近藤の例で見てみよう。近藤獲得のためホークスの7割や8割を提示した球団は結果的に近藤を獲得できていないどころか、近藤より若干のバリューが落ちる選手の獲得もできていない。つまり流動性の低いNPBではその選手を獲得できたか、誰も獲得できなかったかの2択が大半なのである。
 それは西武や広島の例でも明らかだ。2連覇や3連覇を果たした両球団だが、浅村や丸といった主力の流出であっという間にBクラスに転落してしまった。彼らがFAしたときに両球団は他球団の選手と比較して相応の条件を提示し、引き留めをはかったはずである。しかし結果としては流出を許し、低迷することになる。それを考えた時に彼らへの条件は適正であったと言えるだろうか?引き止めができる年俸こそ適正であったのではないか?
 ホークスは2014年から2021年を除き2位以上を記録している。一方この間他球団は最低2回以上Bクラスに低迷している。世代交代を叫ばれながらもこれだけ長い間優勝争いができているのは主力の流出がほとんどないからであろう。西尾氏(に限ったことではない)は選手を流出させ、下位に低迷しててでも「適切な年俸」を提示するのが大切だと思っているのか。

"高い年俸による甘え"

 もっとも、私が言いたいのはそんな理論じみたことではなく、高い年俸によって選手に甘えが生じているという点である。
 ホークスファンからすれば今季終盤の選手たちを見て誰1人として甘えているとは思わないだろう。彼らがあれだけ優勝に懸けて戦っていた姿を見ている我々ファンからすれば到底許すことのできない記事である。
 選手へのリスペクトがあればこんなふざけた文言はでないはずなのだ。

おわりに

 さて、長い文章になってしまったが、西尾典文氏に今後の改善を望むばかりである。何も批判記事を書くなというわけではない。恣意的な情報の抜き出しを行った結論ありきの記事や選手へのリスペクトに欠いた記事を書くのをやめて欲しいのである。

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