見出し画像

原監督、クレディスイスで損しちゃったって ③ (愚痴日記 第10日)

 今回のオンエアは、楽しかった。
 初めて褒められたんだもの。

 番組では、スタジオに金融専門のアナリストを呼び、クレディスイスの問題を議論した。

 大嫌いな先輩キャスターM。
 事前の打ち合わせで、クレディスイスのAT1債、
 青学大の原監督が大損したやつだけど、
 その正式名称を知らなそうだったので、
 オンエアで突然聞いて、慌てさせようとしたんだ。

 でも、逃げられた。
 一瞬、困った表情になったけど、ゲスト出演していたアナリストに
「あまり知られていないですよね・・・」と話を振って、代わりに答えさせたんだ。
 
 するとアナリストは、
「AT1を知っている人は少ないと思いますよ。」
「銀行の自己資本の中の「Tier 1」追加できる「Additional」債券という意味ですけど、メディアからも、たくさん取材が来ましたから、これ何?ってね。」

「この債券はリスクが高いですよね。株式よりも先に紙くずになるなんて、ちょっと信じられません。それほど危ない金融商品なのに、原さんは気づかなかったのでしょうか?」と聞いてみた。
 オンエア前、プロデューサーSから聞いたことだけど、知ったかぶりしてみたんだ。

 するとアナリストは、大きく頷いた。
 『よく知ってるね・・・』ていう感じで。
 キャスターのMは、経済音痴だと馬鹿にしてきた私の発言に驚いてた。
 
「もし、この債券の金利が50%だったり、『1ヶ月で2倍になります』なんて話だったら、原さんは疑ったでしょう。『あまりに高すぎる。何かウラがあるはず』、『そもそも詐欺じゃないの?』ってね。」
「でも、このAT1債の金利は10%弱。一般的な金融商品より高いけど、ものすごく高いわけじゃない。それほどハイリターンではないから、それほどハイリスクじゃない・・・と、原さんが考えても不思議じゃないでしょう。」

「微妙に高金利というわけですね・・。」

「そうですね。原さんに販売した証券会社の人も、騙そうと思ったわけではなく、単純にお勧めだと思っていたかもしれません。発行体もクレディスイスという、世界屈指の金融機関だし、実際、多くの投資プロ集団や富裕層も購入していた人気商品でしたからね。」
「この債券は日本国内でも1400億円ほどが販売されているようですが、一流の証券会社が扱っています。もし、ほんとうにヤバいと思っていたら、信用問題になりますから、原さんのような有名人には勧めなかったでしょう。」

なるほど・・・
あれ・・・Mがついてこない。
アナリストも、私の方だけ見てしゃべってる。
主導権握ってるみたいだったよ。

「いずれにしても、よく分からない金融商品は、証券マンから勧められても、手を出さない方が得策ですね。金融の世界では、様々な専門用語が飛び交っていて、プロでも全てを正確に把握しているわけではありません。今回大きな損失を生んだクレディスイスの債券も、AT1債、あるいは永久劣後債と呼ばれていました。」

「Coco債とも呼ばれていましたよね。」
 Sから聞いていたもう一つの呼び名も紹介してみた。

何じゃそれ?ニワトリ?カレー屋?って顔をしているM。
私とアナリストの会話に、完全に置いてゆかれていた。

「その通りです。ほんとうにややこしいです。過去にもリーマンブラザーズを潰したサブプライムローンとか、デット・エクイティ・スワップとか、様々な金融商品が登場し、大きな混乱を引き起こしてきました。」

「訴訟が起こされていますが、原さんたち投資家が、お金を取り戻す可能性はあるのでしょうか?」

 ようやく、Mが割り込んできた。

「そうですねえ・・。クレディスイスのAT1債の場合、弁済順位が逆転したことは、金融のプロたちにとっても想定外でした。彼らにもメンツがありますから、訴訟を起こして挽回を図っているんです。」
「でも、株が紙くずにならなかったとはいえ、保有者が受け取るのは30億ドルほどです。一方で、紙くずになったAT1債は、総額170億ドルもあります。仮にこの30億ドルが、弁済順位通りにAT1債保有者に支払われたとしても、戻ってくるのは投資額の18%です。いずれにしても、大損となるでしょう。」

5分の1以下か・・・。
厳しいなあ・・・。

こうしてオンエアは終わった。

アナリストがスタジオを出る時、
「よく勉強してますね。ビックリしました。」と、褒めてくれた。
素直にうれしかった。
今日は愚痴ってない。
愚痴日記はお休みだ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?