つち

高校生です。短編小説やっています

つち

高校生です。短編小説やっています

最近の記事

雨が止む前に...

篠突く雨が静かに、頭を垂れた若葉を濡らした。2度目に会った彼は、心で温めていた想像よりもずっとくたびれていた。しかし自分の尊敬する気持ちは変わっていない。あの日、川端でうずくまっていた自分に黙って傘を差し伸べてくれたのは、その肩幅の広い大きな背中だったのだから。雨の音に鳴動する追憶は、彼の低い声に阻まれて消えた。 「それで、どうしたいというのかね。」 「どうしたいって、この傘を貴方に。」 遠い街灯りのぼやけた窓越しに、濡れた貴方の姿を認めるなり駆け出してい

    • 人間モノカルチャア(小説)

      私の友達に、今日において珍しいタイプの子がいた。SNSを一切やっていない人なのだ。津々浦々、ネット上の、対面としてのコミュニケーションも等しく人間関係を維持する1つのツールに収まり、ネッ友リア友という言葉も使われなくなって等しいこの時世にだ。理由を尋ねると、「依存したくないから」という単純なものだけれども。それでも、小柄で華奢な見た目に沿う朗らかな性格のおかげか、ある程度交友関係も広いようだったので別段不便そうな様子でもなかった。 確か私が某人気投稿型snsアプリ

      • 草木雑踏捕物帖2 白衣の吐く息に頬を濡らして 後

        向かい風がびゅうと吹いて、コートの端がめくれ上がる。「道案内って、方角わかるのか!?」「僕にも分かりません。」柴田の絶望的な勘に従って山を下り続けると、とうとう荒れ果てて畑だか果樹園だか分からない荒地に着いた。全員びしょ濡れでほそい農道を下っていくと、作業じまいをしていたお婆さんが百鬼夜行のパレードでも見るような目で唖然としていた。 麓の国道にやっと出て、そのまま夜風の寒さに体を寄せ合いながらタクシーを待った。まもなく空全体の冷気が浮き上がるようにふわふわと白い粒が

        • 草木雑踏捕物帖2 白衣の吐く息に頬を濡らして 前

          窓を叩く雨粒に、ライトアップされた街が遠くにじんで見える。今年の冬は記録的な暖かさで、例年最深積雪が20cmを超える町でもこの有様である。バスのドアが音を立てて開くと、雨がアスファルトを穿つ音に混じって微かにクリスマスソングが流れてきた。我らがN市公園管理課の同僚、柴田がこの停留所で乗ってくるはずだ。間もなく、山伏と落ち武者を足して3で割ったような男が乗り込んできた。 「手に下げてるものはなんだ、柴田」 「見ての通り、数珠ですよ。雪女が出るんでしょう。」 いくら心霊

        雨が止む前に...

          Elephants

          窓を開けて夜の境目を越えると、そこにはいつも象がいた。松の幹のようなゴツゴツした温かな皮膚に、乗ったりして遊んだ。部屋の奥にはいつも水墨の障子があって、これが蜃気楼のように何枚も立ちはだかっていた。「この先には何があるの?」「君には尋ねる必要もないようなところだよ。」象は眩しそうに目を細めて言った。 ある日、いつものように僕が象と遊んでいると、突然ジリリリとけたたましい音が響いて象の上に巨大な円盤の時計が落ちてきた。象はぺしゃんこになった。僕は泣いた。それから

          Elephants

          草木雑踏捕物帖

          煌びやかな午後ののんびりした陽光も、かくも休日出勤のタクシーの中となっては台無しである。俺は手元のシートベルトをいじりながらため息をついた。隣にいるのは同僚の柴田。ここから遥か北へサケのように遡上し福井県まで行けばそこには甕割り柴田が豪名を轟かせていると言うがこちらはバイト中に食器一つも割らぬ保身型もやし柴田である。ついでに腹も割らないので何を考えているか見当もつかない。 我らがN市公園整備課がいつものように職場の桃源郷でなくなったのは昨日の課長のメールのせいである。ど

          草木雑踏捕物帖

          月暈

           月に暈がかかって、綺麗だと思った。久しぶりに外に出てみて、その美しさに圧倒された。夜遅く、あらゆる地面の底から何かもやのようなものが沈黙しつつ、また沸き上がってもいるような日で、遠くの街灯もちらちらと錯綜して見える。     十五夜。9月の風はこんなに冷たかっただろうか。当時は学校へ行かなくなっても、半年なんかあっという間に過ぎるなんて思っていた。しかし萩野や大寺 ー上の名前は良く憶えていないー とも連絡が絶えた今、学校というシェルターから完全に追放され、孤独の嵐に打ち

          地学のすゝめ

          最近僕は始終日本地図を見ている。日本の地形は海に向かって放射状に延びているから面白い。 僕が日本地図鑑賞家から地学へ鞍替えしたのは、中央構造線の作る地形に感動したからだ。何故香川と徳島を隔てる讃岐山脈が直線状に延びた形を呈しているのか、なぜ佐田岬があれほど細長いのか、考えたことはあるだろうか。断層の作る不自然に直線的な地形は、いくら見ても見飽きない。 勿論地「学」である以上内容は日本海溝よりも深く、自分などはまぐれの物好きとしか形容できないが、これから頑張って独学で知識を

          地学のすゝめ

          時計志向

           「時間の無駄」という言葉がある。よくよく考えてみれば面白い言葉だと思う。言葉には曖昧さが付き物だが、この場合の無駄とはどう言うことか、詰まる所もっとやりたいことがあったのに、という余念のある時に使われる言葉だろう。時間は有限だからこその勿体なさなのだろう。  ところで時間についての考え方は、「未来志向型」と「現在志向型」の二つがあるという。簡単に言えば、前者は定めた目標に向かって具体的なアクションを起こそうとする考え方のことで、後者は反対に「今」に重点を置く考え方だ。狩猟

          時計志向