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莉波お姉ちゃん

学マスをプレイしている。

伸び悩んだ/爆弾を抱えたキャラクターたちの魅力をちょうどよい塩梅で引き立てるプロデュース術は、どのコミュをみても毎度驚かされる。

それに、仏頂面のプロデューサーが次々とアイドルを籠絡していく様は、みてて気がせいせいする。言い方悪。

だが。

例外も然り。

姫崎莉波さん。(以下、「莉波お姉ちゃん」という。)

莉波お姉ちゃんだけ、『学マス』本編以前から関わりがあるのってズルくないか?

他のキャラクターがゼロからせっせこ作った関係性をひょいと乗り越え、それはそれは、明らかな、ぶってえ一線を画している。

卑怯だ。強くてニューゲームだ。

莉波お姉ちゃんの親愛度コミュは、プレイヤーが「傍観者」であるという事実のみを無慈悲に突きつける。傍観者の我々は、ただショーケースの中でキラキラと輝くケーキを眺めることしか許されない。

莉波お姉ちゃんと、“P“というプレイヤーとは独立したいちキャラクターとの魂の喝采。これはジャズだ。ふたりのセッションの副産物を、僕は拾い集めるほかない。

拾い集めた。いや、ただの一度、記憶の欠片に触れただけだった。




突如、ぞくの脳内に溢れ出した

・・・・・
存在しない記憶。

莉波お姉ちゃんとPの出会いは、バス停で寂しそうにしてたPに声をかけたことから始まる。きっとPは昔から口数が少なくて、子どもたちの輪に上手く入れなかったのだろう。親に心配かけたくなくて、ひとりで途方に暮れてたところを莉波お姉ちゃんが見かける。「ぼく、ひとり?」「うん」「お友達は?」「帰っちゃった」嘘をついてしまった。不意に目を逸らす。そんな僕をみて、その子はいたずらに微笑んだ。「お姉ちゃんと遊んでくれないかな」僕は顔を見上げた。「いいの?」「私もひとりなんだ」横に座って、1時間に1本くるかもわからないバスを何度も見送った。莉波お姉ちゃんと言うらしい。喉の奥でコトコトと鳴らす声を聞くと、引きつった頬も自然とほころんだ。まだ、お姉ちゃんの声を聞いていたい。もっと、レースのカーテンのように透き通る肌を眺めていたい。18時のチャイムを皮切りに、何処に潜んでいたのか、ひぐらしが一斉に鳴き始めた。「そろそろ帰らないと」「また会える?」「明日もここで」「うん」その日から莉波お姉ちゃんと僕はいろんなとこに出かけた。ひとりだとつまらない虫捕りも、川遊びも、お姉ちゃんとなら楽しかった。同級生なら竦んでしまうような鬱蒼とした森にも、お姉ちゃんは奥へ奥へと引っ張ってくれた。神社の縁束にふたりで隠れて、みえない敵とかくれんぼすることもあった。お姉ちゃんはいつだって、僕の歩幅に合わせてくれた。まるで本物の姉のように慕った。どこへでも行ける気がしたし、いつまでも一緒だと思っていた。2学期が始まった。放課後いの一番に校門をくぐり、待ち合わせのバス停へ向かった。9月のカラッとした暑さにTシャツの裾で汗を拭いながら待っていた。17時のチャイムが鳴った。とうとう、お姉ちゃんの姿はみえなかった。西日を背にして帰路についた。ここで初めて、僕の夏は終わった気がした。やがて季節は巡り、それなりに気の合う友だちもできた。遅れてきた成長期のおかげで、最後に会った時のお姉ちゃんの身長はゆうに越えていた。朧気な記憶がフラッシュバックした。「お姉ちゃんは何年生なの?」お姉ちゃんは首を傾げ、人差し指を口に手を当てた。考えあぐねた挙句、「女の子に何歳か聞いちゃだめなんだよ」とからかってみせた。本気にして慌てふためく僕に脇目も振らず、お姉ちゃんはただ、クスクスと笑っていた。

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