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⑩産院退院後、娘は肺炎を患い大学病院に入院した。でも、同意のない治療をされ、娘は窒息死した。

私は10代の頃、集団レ〇プされた。自殺未遂を繰り返していた。搬送先の病院はたいてい同じ。気づいたら救命救急の医師と交際していた。22歳も年上だった。私は、彼の愛で再生していく。彼は私の人生において、最大の恩人であり、最愛の人。私は彼のことが忘れられない。特に、彼との夜を。私にとってはリハビリだった。
彼は、子育てがリハビリ完了のきっかけになると考えたようだ。22歳年上の彼は、しれっと笑顔で私を妊娠させた。私は、20歳で出産した。でも娘は・・・。

娘は産院で1週間、自宅で5日間過ごした。肺炎になり大学病院の小児科病棟に入院した。次の日にはICUに転棟し生後15日で医療ミスで窒息死した。 娘の人生は、自宅で過ごした時間より、病院で過ごした時間の方が長かった。とても悲しい。

両肺のレントゲン画像は真っ白。痰が詰まり無気肺になっていた。酸素吸入と呼気介助でギリギリ酸素化されていた。こども専門病院に緊急搬送して人工心肺につなげれば救命できる可能性はあると説明を受けていた。搬送の準備は整っていたはずなのに、なぜか搬送してもらえなかった。
そこに准教授が研修医たちを大勢引き連れてきた。娘のベッドを囲おうとするから「何をするんですか」と割って入ろうとしたけど、押しのけられた。 一瞬の出来事だった。准教授が注射器を持っていた。何の説明もなかった。その手を止めようとしたけど、間に合わなかった。何かを娘の体に注入した。 けたたましく心電図モニターのアラームがなった。娘の体が、みるみるチアノーゼを呈していき、そのまま亡くなった。あっという間だった。
彼が病院に駆けつけたのは、その少し後だった。緊急搬送されるはずだったのに。助かるはずだったのに、なぜ? ひどく混乱した。

どれだけ時間が経過したのか、不意にナースにこう言われた。 「お風呂の準備ができました。最後のお風呂、一緒に入れてあげましょう」 こんなときに、何を笑顔で言ってるの?と思った。 エンゼルケアを一緒にやろう、ということだったようだ。 娘は全身紫色で痛々しかった。娘を抱くと冷たかった。 「うぁ~」涙が止まらなかった。娘を抱きしめたまま、病院の床に座り込んで号泣した。立ち上がれなかった。
少し離れたところで、たぶん別のナースが「え、ちょっとこんなところで。人の目に触れないところに誘導して」と言ってる声が聞こえた。この状況で、よくそんなことが言えるよね、と腹立たしかったけど、そのナースをひっぱたいてやりたかったけど、それどころではなかった。

私が号泣している間に、彼が葬儀屋の手配をしてくれていた。彼も泣いていた。 お寺に着くと、葬儀屋が手配した納棺師が娘に死に化粧をしてくれた。でも、紫色になった顔は、わずかに色が薄くなっただけで紫色のままだった。私が、娘の手をなでながら爪をみて眉間にしわを寄せていると、納棺師が
「よかったら、爪にマニキュアを塗ることもできますよ。どの色がいいですか?」
と言ってくれた。あのナースより納棺師の方が、はるかに人の痛みが分かるな、と思った。見習ってほしい。
娘のお葬式は、私と彼と極々コアな人たちだけ、最小限で行った。あちこちに連絡する気力を絞り出せなかった。
火葬場で、いよいよ娘の遺体が火葬炉に入れらるとき、私は思わず棺に抱きついた。
「もう一度だけ、顔を見せて」
「私も一緒に燃やして」
と泣きながら震えた。彼が私の手の上に、自分の手を重ねた。しばらく二人で棺を抱きしめた。
ついこの前、出生届を提出したばかりなのに、もう死亡届を提出しなくてはならないなんて・・・。あんまりだ。

普通は、四十九日を過ぎたら納骨するらしい。でも、そのタイミングでは納骨できなかった。娘を、少しでも近くに感じたかった。
毎日泣いた。水を一口飲むだけでも疲労を感じた。歯磨きすら、する気が起きなかった。唯一、体を動かせたのは、娘にお線香をあげることと、お花を供えることだった。それ以外は、ベッドに寝たままだった。 何ヶ月、そんな生活をしたのか、あまり思い出せない。喪失感がすさまじくて、思考が停止していた。
今、思うと、その頃、彼は毎日ここにいた。というより住んでいた。いつの間に? 自分の家庭は、どうしたのだろうか? 当時、私はそのことに気づけなかった。彼の気配を感じてはいたけど、何か話したのか、話してないのか、とても曖昧だ。

でも、これは覚えてる。22歳年上の彼が私に教えてくれた。
「とても辛いね。死んでしまえば楽なのに、とか思うよね。でも、自殺すると天国には行けないんだよ。地獄に落ちるんだよ。もっと苦しむことになるんだよ」
「神様の唯一の欠点は『人の寿命を理解できないこと』らしい。何億年と生きている神様には、人が赤ちゃんのうちに亡くなっても、120歳で寿命をまっとうしても『何が違うの? 同じでしょと』しか感じられないんだって」




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