クロノマギア表紙

アグロミル環境の真実【後編】

前編では、アグロミル環境がいかにして成ったかを、順を追って説明してきました。まず発端として『強すぎるトルヴィオミル』という存在があり、それをどうにか倒そうとしてアグロが開発され、そのアグロを倒すためにさらに速いアグロが開発されるという流れがありました。それらの流れが全てミルによって構成されていたことからも、いかにミルが強く、対応力が抜きん出ているリーダーかが分かると思います。
しかし、そのアグロはある程度までいくと逆にメタを張りやすくなり、シキガミのようなリーダーにやられてしまう可能性が出てきます。そこでメタ循環が生まれるはずでした。しかし、そうはならずにランキングマッチは終了し、結果として100位のうちほとんどがアグロミル使いで埋められるという事態になってしまいました。

その理由として僕は、アグロをメタることは可能ではあるが、それでも落とす試合が多く、さらに勝つまで時間がかかり、その上難易度も非常に高いからうまくメタが回らなかったと述べました。

では、なぜ勝つまでに時間がかかり、難易度の高いデッキは使われづらいのでしょうか?単純に考えれば、そりゃユーザーは楽をして勝ちたいからだよということに帰結してしまうのですが、それだけが理由なのでしょうか?

後編では、このような事態になった背景を分析していきます実は、アグロがここまで過度に流行った理由は3つあります。その3つを総合して考えると、『アグロが流行って当然だった』という結論が見えてきます。

1 ランキングマッチというシステムが抱える問題点

現状のランキングマッチというシステム自体を概観すると、本当にこれがクロノマギアにとってベストな形態なのだろうかという疑問が浮かんできます。現在のランキングマッチのシステムは、1ヶ月未満、平均2〜3週間というとても短い期間において優劣を競わせ、対戦回数の分母が大きいほど(つまり試合数をこなせばこなすほど)有利になる単純なシステムを採用しています。すると、ユーザーはその短い間により多くのポイントを稼ぎたいと考えるため、1試合の時間がなるべく短くなり、より多くの対戦回数をこなせるようなデッキを好む傾向が生まれてきます。

極端に言うと、前回の記事で紹介したようなLOエレナとアグロミルの2つの選択肢があり、両者の勝率が同じか、もしくはアグロミルの方が5〜10%ほど落ちる程度であれば、アグロミルを使う方がランキングマッチでは優位に立てるのです。当然、環境にはアグロが溢れます。
この論理は、試合を重ねた回数の数だけ有利に立てる『やりこみ最重要』のシステムにおいて成立するものです。開催期間が短くなれば、さらにそれに輪を掛けてアグロが多くなると考えられます。
本来、メタりメタられという循環の中で環境が熟成していくカードゲームにおいて、このようなシステムは環境の成熟を阻害していると思います。

2 初中級者にとってのアグロデッキとは?

1では主に、最上位クラスを狙うランカーでの視点で、『競争』という面でのアグロミルの優位性を説明してきましたが、例えば初心者や中級者といったランキングマッチの競争にはあまり影響されないはずの人たちにとってアグロミルというのはどうなのでしょうか。

ここでも、2つの点からアグロミルは優先的に選択される傾向があります。

 アグロミルを使えば、ゲームプレイに慣れた上級者にも簡単に勝つことができる。
②  アグロをメタるデッキのレシピが不足しており、有効なメタが認知されづらい。

1については、クロノマギアというゲームの特性とも関係しています。例えばマイセンさんなどがブログでアグロミルに関する記事を書かれたときに仰っていた通り、アグロミルは通常のデッキより比較的考えるパターンが少なく(トップになれば多少事情は変わるのですが)、本来非常に読み合いがシビアで難しくロングゲームが多発するクロノマギアにおいてスムーズに勝ちやすいという利点があります。
これが是であるか非であるかは色々と議論があるので、ここでどちらかに断定することはしません。しかし事実として、これがあることにより、初中級者がより勝てるデッキタイプを好んでアグロミルに辿り着くのは必然でした。

②については、これから説明する3の要素も絡んでくるので説明はしませんが、わかりやすいと思います。

3 メタデッキを広めるのが難しい

アグロミルをメタりつつ、アグロ以外のデッキタイプでランキングマッチをうまく回すためには、初手で思い切って1枚セットする動きや、畳返しをキープしておく動き、マリガンでカウンター火力を高める動きといった盤上でのプレイングに加え、アグロに対して勝率を取りながらも、アグロ以外と当たったときにもそこそこ勝てるようなデッキを事前に構築しなければいけません。

正直、それはとても難しいです。なので、例えば僕のようなブログを書く人間がランカーなどに話を聞いて最新のレシピを載せるなどの方法でシェアしなければいけないのですが、それができない理由がいくつかあります。
その理由の一つは、ランキングマッチの特性上、短時間に多くのポイントを稼がなくてはいけないため、情報アドバンテージがとても重要になってしまう点です。つまり、短時間で多くを稼ぐためにトップメタを研究しているランカーは、たとえアグロに対して有効な手段を見つけたとしても、それを公開せずに自分だけで使って優位に立とうとしてしまいます。
勘違いされてしまいそうなので釘をさしますが、これはランカーの問題ではありません。ランキングマッチごとの時間が短く、さらに速さ重視で全てが回っているため、そうせざるを得ないのです。
それにより、アグロに対してのメタが広まりづらく、アグロがその持ち前の使いやすさと速さから広まったとき、適切にそれらを『メタる』よりも、アグロという大波に『乗っかる』思想の方が優位に立ってしまいます。結果的に、過度にアグロが流行る環境が生まれてしまいます。

これは、アグロ環境に限らず、これまでの全てのランキングマッチに言えることです。ランキングマッチ中は、トップメタを研究しているランカーは情報をシェアしにくく、僕もなかなか出番がない。
そして、これが一番僕にとって深刻なのですが、クロノマギア運営はランキングマッチの直後にすぐに調整を入れるという癖があります。これのせいで、たとえランキングマッチが終わってランカーのレシピが徐々に出回るようになり僕がその環境の記事を自由にかけるようになっても、その記事をアップロードする頃には違う環境になってしまっているため、記事がゴミ箱行きになってしまうのです。実際、これまでいくつもの記事を書いてはそのまま消去してきました。
結果として、ランカー以外は、ワンテンポ遅れた環境でプレイせざるを得なくなってしまいます。メタが循環し、やっとトップデッキに対する回答が見えた頃にはそれが意味をなさなくなってしまう現状は、とてもきついです。

さて、これまでの僕の分析を要約したいと思います。

これは、前編を合わせた総括的な文章です。

アグロはメタ可能であり、アグロ自体が必ずしも不健全なデッキタイプではありません。むしろアグロによって光が当たるデッキタイプも存在します。しかし、トルヴィオミルというクロノマギアにおいて強い要素を全て詰め込んだデッキタイプがいることにより、事実上他のコントロールデッキの選択肢がほぼ消失し、消去法的にアグロを使わざるを得ない状況はかなり不健全だと考えられます。アグロはあくまで選択肢の一つとしてあるべきであり、使わざるを得ないという状態は避けるべきです。

加えて、開催期間が短く速度優先なランキングマッチのシステムや、メタが広まりにくい環境がそれを後押ししているので、さらに流行りが極端になってしまいます。それにより、本来その環境で活躍できるはずのポテンシャルを秘めていたキャラクターやデッキタイプに光が当たらずに次の環境になってしまうリスクがあります。これもまた、改善しなければいけない点です。

では、これらの問題点は、いかにして改善可能なのでしょうか?僕はこれらの分析をもとに、3つの提案をしたいと思います。

1 『ハンドブレード』の下方修正

現環境をすぐに良くする、という視点から言えば、クリーチャーや他のキャラをどうこうするよりもまずこれだけはやらなければいけません。MP5回復のリーダーが、使いやすいダメージスキルを備えてしまってはいけないのです。なんらかのリスクや使いにくさが伴っていなければなりません。トルヴィオミルもアグロミルも結局このスキルを基軸にしているので、ここに手を加えるのが最も効率的でしょう。

例えば、ゼータの捨て身の一撃のように、『2コスト使って1ダメージを受ける』システムに変える方式があります。ハンドブレードの使いやすさを残したまま、使いすぎると自滅に繋がってしまうように調整するのがいいと思います。
他にも、同じMP回復5のエレナのパラソルアタックのように、『0コスト2ダメージ』にして除去力や削る能力を落とす手もあります。
正直、どちらにしてもまだ他のリーダーより強い感じがしますが、ミルはギア3の爆発力を実質封じられているので、だいぶマシです。必要であれば、ギア3のそれぞれにデメリットを付けるなどしてもいいでしょう(例えば、MPブーストであれば体力−2になり、チャージブーストなら初期MPが−2されるなど。)。
これと他リーダーの軽微な調整を合わせれば、かなりいい塩梅になるでしょう。

2 ランキングマッチシステムの見直し

これまでで、再三ランキングマッチというシステムがいかに環境の偏りを生み出してきたかを説明してきました。いっそ、思い切ってシステムを変えてしまうのもありだと思います。
例として、レーティング制があります。勝率と勝利回数が影響するレートによってランクを決める方式です。これによって傾向が『速さ優先』から『環境を読んだメタ優先』になり、うまくメタが回るようになります。さらに、レート差によってポイント数に増減がつけられるため、例えばレートの高い人とマッチングした場合は負けて減少するポイントの数が軽減されるなどの措置も取りやすくなります。
他にも『回数制限制』にする方法があります。回数制限制にすれば、じっくりメタを読んで選りすぐりのデッキを持っていく人が増えるためランクマッチの質が上がりやすく、フリーマッチとの差別化も図りやすい。さらに、忙しくて時間をかけられない人にも入賞するチャンスが生まれます。
ここまで根本的に変えるのが難しければ、例えばカードの調整と調整の間に2つのランキングマッチを設定し、間にランキングマッチのないインターバル期間を設けるなどでも十分です。それにより、ユーザーに余裕が生まれます。前半ランキングマッチを走ったユーザーが情報をシェアしてくれたり、様子を見たユーザーが他のデッキの研究を進めてくれたりする可能性が出てきます。

3 頂上決戦リプレイモードの追加

僕が最も望んでいることでもあるのですが、(なるべくなら)その日ごとに、ランカーの対戦のリプレイをアプリ内で3戦ほど見られるようにしたらどうかと考えています。

この頂上決戦というシステムは、すでにアーケードゲームの『コードオブジョーカー』で採用されているものです。
クロノマギアは非常に戦略性の高いゲームなため、デッキレシピを見ただけでは、そのデッキでどうやって勝てばいいのかがよくわからないことが多くあります。20枚に絞られたデッキの1枚1枚がなぜ採用されて、それがいつ使われるのかを想像することは初中級者にはとても困難です。
コードオブジョーカーも同じく、プレイングの速度やプレイの順番が非常に大事なゲームでしたので、このリプレイモードは必須でした。

↑アグロミル環境においてトップランカーが開発したデッキの一つ。(提供者:きしりーさん @xlysh36)アグロ対策の札を絞りつつもギリギリで勝てるように構築されている。しかし、絶妙なバランスでデッキが構築されているため、一見するとどうやって勝てばいいのかすらよくわからない。こういったデッキにこそリプレイが必要ではないだろうか。

もしランカーのリプレイが毎日見られるとなれば、初心者中級者ランカー問わず、良質な対戦にじかに触れることができます。もちろん、頂上決戦リプレイモードの追加は、どのようにランカーが環境のデッキを使い、それを逆にメタっているかを誰もが理解しやすくすることに大きく寄与します。さらに、それに載ったランカーにゴールドなどをプレゼントするインセンティブを与えれば、双方にとってメリットを生み出すシステムになりえます。

現在でも、ランキングマッチ終了ごとに能力者のリプレイは公開されていますが、遅すぎて全くメタ循環に寄与できていません。なぜならそれが掲載される頃にはカードの調整が入っているからです。これは矛盾ではないでしょうか。よりアグレッシブにしてもいいのではと思います。

もう一度、僕なりの提案をまとめます。

ハンドブレードの下方によるリーダー間格差の緩和。全ての要素を満たしたリーダーがいないようにすること。

ランキングマッチのシステムを変え、ユーザーにゆとりをもたせると同時に適切な刺激を与え、メタが回るのを促進すること。

頂上決戦リプレイモードを追加し、ユーザーが質の高い対戦に触れる機会を増やすとともに、メタが回るのを促進すること。

どれもシンプルですが、有効な策だと思います。逆に、これを実践しなければ、またいつかトルヴィオミルのような盤面の取り合い最強のデッキが出てきたときに、同じ轍を踏むことになります。何も、消去法的にアグロばかりになってしまうのは、今回ばかりとは限らないのです。

いかがでしたでしょうか。決してアグロミル環境はミルだけが悪いわけでもなく、アグロが悪いわけでもありません。そうさせた背景があるのです。その背景にアプローチしなければ、根本的な問題は解決しないでしょう。単なるアグロ環境であれば、それはそれとして楽しめば良いのですが、メタがうまく回らなかったがゆえの過度な使用リーダーの偏りとアグロ環境なのであれば、それは修正するべきです。

現環境の分析記事は以上になります。ありがとうございました。

最後になりますが、この記事は全面的にモリシーの協力を得て作っています。むしろ、自分だけではここまでの考察をすることは不可能だったので、モリシーがこの地獄のような環境でランキングマッチ4位まで上り詰めた経験と知識をシェアしてくれなければ完成すらできませんでした。ありがとうございました。

次回は、初心者向け記事を書く際に様々な協力をして下さっているきしりーさん と一緒に【クロノマギアの面白さの本質】を深掘りする記事を書きたいと思います!そちらもリリースされたらよろしくお願いいたします。

ちなみに、最近は並行して『L2枚、SR4枚以下で作れる本格的なデッキ』の紹介記事も書いているので、そちらも是非見ていってください。


それでは。