さぁ言っちゃえよ卓ちゃん

 早速だが皆様、CreativeDrugStore(以下CDS)をご存知か。結成11年目を迎えたBIM、in-d、JUBEE、VaVa、doooo(DJ)、Heiyuu(Camera)の6人組(PalBedStockを含む7人組と紹介されることもある)ヒップホップクルーである。各々既にソロや別のグループで活躍しているためヒップホップをある程度愛好する人たちには耳馴染みのあるメンバーばかりなはずだ。しかしながらこのクルー、実は今までCDS名義で曲をリリースしたことがなかったのだ。ヒップホップクルーと言われると例えばNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDやWu-Tang Clanのように大所帯でMCが入り乱れる象徴的な楽曲があってそれがクルーのイメージと直結すると思う。だがCDSは地元も違えば年齢もばらばらで各メンバーがそれぞれの方向で多岐にわたる活動を展開してきた。マルチに活躍するアーティスト集団というニュアンスが一番伝わりやすいかもしれない。

 そんな彼らが満を持して2023年6月14日(水)に初めての楽曲「Taste Test」をリリースし同日21時にはMVも公開された(MVの監督はもちろんHeiyuu)。とにかく「Taste Test」が我々ファンの期待を軽々と上回り最高にドープな曲とMVだったことは間違いない。まずはMVを観て、聴いてほしい。


 この楽曲で取り上げたい点はあまりに多すぎるのだがその中で筆者が今回特に言及したいのがマイクリレーの2番手を担ったin-dのヴァースである。これぞまさに理想的なリリックではないかと思わず舌を巻くラップだった。是非とも耳をかっぽじっていま一度よく聴いていただきたい。


ハッと(ハット)させるホットなちゃんぽん
Born in 93 水野家次男坊

 まず直前の一番手BIMの歌いだし"6人の個性がちゃんぽん"を受けてin-dも〈ちゃんぽん〉から始めて〈(次)男坊〉で踏む意表を突く幕開け。そして"ハッと(ハット)"だが、in-dはMVにも反映されているように熱烈なサッカーファンなのでおそらくハットトリックのことなのではないかと推測する。

DJdoooが針落とす溝
4MCしてきたみぞみぞ
中盤ライン ゴールデンなカルテット
耳肥えたあなたならわかるね?
書き上げたバース CDSだけにカルテ
掛布 バース 岡田より カナリヤ ya ya ya

 "溝"から"(してきた)みぞみぞ"を連想している。この「みぞみぞしてきた」とはTBS系で2017年1月期の火曜22時に放送されたテレビドラマ「カルテット」で満島ひかりが演じた世吹すずめの口癖のことである。そしてリリックでは直後に〈カルテット〉が使われ、ここから〈(わ)かるね〉〈カルテ〉と韻を展開していく。さらに〈カルテ〉を導く際に出てきた"バース"が次の小節で"掛布 バース 岡田"に変化している。この「掛布 バース 岡田」は阪神タイガースを象徴する一番の出来事「バックスクリーン三連発」をかました85年優勝時の通称「ダイナマイト打線」の中核3、4、5番を担った野球選手のことである(ちなみに本来の打順は3番バース4番掛布5番岡田。小節頭を〈か〉で揃えたのかと思われる。蛇足だが〈(お)かだ〉と〈カナ(リヤ)〉も踏んでる)。


 そしてこの"カルテット"がin-dのヴァースで最も重要な結節点となっていて複層的な意味を持つ。まず上にも書いた「みぞみぞしてきた」の元ネタであるドラマのタイトル。次にCDSのMCであるBIM、in-d、JUBEE、VaVaの4人を指して。そしてin-dの好きなサッカーである。直前の"中盤ライン"と後にある"カナリヤ"が"カルテット"にかかってくる。"カナリヤ"はサッカーブラジル代表の愛称であり、"中盤ライン"はサッカーのポジションでMFの位置取りを指す。そしてブラジル代表の歴史を紐解くと、1982年スペインW杯でMFを務めた当時最強の4人組ジーコ、ファルカン、ソクラテス、セレーゾをまとめて「黄金のカルテット」と呼んでいた。サッカー好きのin-dからすれば阪神最強のクリーンナップよりもカナリヤ軍団最強の中盤の方が断然クールというわけだ。さらに言えばドラマの方の「カルテット」の主演4人も松たか子、高橋一生、満島ひかり、松田龍平という実力者揃いで屈指の人気ドラマとなっている。in-dはここでCDSの4MCを二組の名役者たちとなぞらえて最大級のボースティングをしているのだ。そしてin-dはクルーだけでなくリスナーに向けても信頼を込めてこう言い放つ。"耳肥えたあなたならわかるね?" ヘッズたちは当然期待に応えMVのコメント欄やヒップホップ系YouTubeチャンネルなどで上記の事項について既にリアクションを見せている。

Move on to da next
今、優人からme
流れるフロー 縦横無尽
まるでベルナルド・シウバ
つまりは止まらねぇ

 ここでもサッカー愛が炸裂している。〈Move on〉〈優人〉〈縦横〉(さらに言えば〈フロー〉)と先ほどまでとはまるで違うフロウをかまし、そのさまを今季三冠を達成したマンチェスター・シティの中心選手かつポルトガル代表の(またしても)MFベルナルド・シウバに例えた。ちなみにin-dはシティのサポーター、シチズンである。

イニシャルはCだけどランクはA
トーテンや大迫ばり 半端ねぇ
つける句読点 それと話のオチ
No Problem 腹パン これでゴチ

 前の小節の〈(止ま)らねぇ〉から〈(ランク)はA〉〈(半)端ねぇ〉とつなぎ、"半端ねぇ"をすっかりミームと化した高校サッカーでの「大迫半端ないって」だけでなくお笑い芸人トータルテンボスの鉄板フレーズとしても引用した。そしてトータルテンボスの略称〈トーテン〉から〈(句)読点〉〈(No)Problem〉とさらに畳みかけ、最後は〈(話の)オチ〉と〈ゴチ〉で締めた。"これでゴチ"も入りが"ちゃんぽん"だったことを考えると見事に出発点に戻ってきていて非常に収まりがいい。


 私がこのin-dのヴァースが好きな理由は意識の流れがはっきり分かることにある。作為的であるかはさておき、「思いついたのをそのまま採用しました」的な軽さと継続するライミングの緻密さが共存していると思った。溝→みぞみぞ、バース→ランディ・バースという同音の連想を直後の小節で使う即興性のある展開がとても好きである。ガチガチに要素を固めたリリックも知的で良いがこれくらいラフさが残ってた方がラップ然としてる気がするのだ。

 今回はin-dのヴァースだけを取り上げてみたが彼以外のMCもそれぞれの持ち味を生かした最高のヴァースを蹴っていて何回聴いても新しい発見がある。さらにCDSはこの曲だけでなくアルバムのリリースも予告している。リリースが実に楽しみだ。


参考インタビュー記事


ライブバージョンはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?