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【詩】理由

流龍は泣いていた
何故か
別にこれと言った理由などない
ただ、泣きたいのだ
流龍は今、生まれたばかり
母親の安全な胎内から出されたばかり
身体がねとねとする
怖い
怖い?
怖くなんかない
だって自分を一生守ってくれる存在がそこにいる
暖かな水が身体を包んで
次にそれ以上に暖かなものが包む
柔らかい手
この人が自分を愛してくれる人

流龍は泣いていた
何故か
自分を愛してくれた人が死んだ
めいっぱい愛してくれた人がもういない
あの温かい手が、
あの優しい微笑みがもうない
遠い遠い誰も知らないところへ行ってしまった
自分を置いて
約束したのに
ずっと一緒にいるって言ったのに

流龍は泣いていた
何故か
愛しい人にたくさん出会って
今、生に別れを告げられる喜びを
涙と共に伝えたくて
そして
愛する喜びを教えてくれた人に
再び出会える嬉しさを思って

今、行くよ
そしたら今までのこと
嬉しかったことも悲しかったことも
全部話してあげる
きっとあなたは変わらない笑顔で
ただ黙って聞いてくれるだろう
今、行くからね。

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