食べる夜 #シロクマ文芸部

「食べる夜には、求めないように
気をつけなさい。」
昔から僕らの村では、祖母からそのように
口酸っぱく聞かされたものだ。
その時の僕には意味がわからなかった。

ある日同級生のカズマ君は、
溶けそうなほど暑い中を歩く僕らを
嘲笑うようにタクシーで校門に現れた。

僕「カズマ君!なんでタクシーなの!?
ずるいよ!」
カズマ「いいだろ?歩くのはだるいからタクシーで来たんだ!それにもう俺はどんなおもちゃだって買えちゃうよ笑」

元々嫌なやつだが、暑さとのコラボレーションで苛立ちが隠せない。
でも、今までは僕らと一緒に文句を言いながら通ってたはずなのに急にどうして?

僕「へー。で、なんで急にそんなお金が手に入ったのさ!カズマ君のお父さんは厳しい人でそんなこと許してくれないだろ?」

カズマ「え?タクヤ知らないの??
何でも願い事が叶う夜のこと!
願いを 1日の深夜0時満月に向かって頼めば、
願いが一つだけ
次の朝にはそれが叶ってるって感じだぜ!
こんなの願わなきゃそんだろ!
それで俺はありったけのお金を下さいって頼んだわけ!!」

そう自慢げに言うと、カズマ君はそそくさと校舎に入っていった。
僕はそんな話聞いたことなかった。
いや、まだ幼い自分にはその話があんな事態と繋がるなんて思いもしないのは無理はない。

カズマ君の態度に苛立ったのもあり、僕は学校から帰った後、1日の夜で満月となる日を調べた。
2ヶ月後の1日だ…。
それからの僕はその日のことと、願い事だけを楽しみに日々を過ごした。

そしてその日。
僕は満月に向かって、
「大好きなアヤカちゃんが僕に振り向いてくれるようにして下さい!!」
そう目一杯願った。
そしていつの間にか寝ていたようで、
母の「あんた遅刻するよ!!」の声で目を覚ました。

いつもの朝過ぎて、昨日の朝願った事など忘れて家を飛び出した。
学校までの道のりをダッシュする中、目に飛び込んできた景色で昨日の夜のことを全て思い出した。
いつもはそっけないアヤカちゃんが、
「タクヤ君!そんなに急いでどうしたのよ笑
まだ遅刻にはならないし、一緒にゆっくり歩いていこ!」

僕はあまりの出来事と気恥ずかしさもあり、今度は自分がそっけない態度で返事をしてしまった。
した後で(やってしまった…)とは思ったが、
そんな返事をした後でもアヤカちゃんは笑顔を向けて僕に話しかけてくれた。
(願いが届いたんだ…!!)
その時に僕は確信した。最高の気分だった。
学校までの道のりがこんなに楽しいなんて…。

そんな最高の気分のまま、教室に行きにんまりをにやけ顔を戻せず困っていたが、
かなり早い時間帯に先生が教室にすでに来ており、他のみんなが暗い顔をしているという異様な雰囲気にすぐに落ち着きを取り戻した。

僕「何があったの?」
先生「先生から話す。カズマの両親が亡くなった。それでカズマは、親戚のところに行くため転校することになった。」

急なことでびっくりした。
両親が亡くなったのもそうだが、転校までするなんて…と少し可哀想に思ったが、
「親戚のおじさんのとこは、何もなくてお金もないから行きたくないんだよね。」
と言っていたのを思い出して、
ざまあみろと少し思ってしまった…。
僕は少し罪悪感を抱いたが、その後のアヤカちゃんとの楽しい日々でそんな気持ちも薄れていった。

願いも叶えて、すっかり忘れていた 1日の満月の夜が明けた朝。
僕は目を覚ました。でも、真っ暗だった。
まだ夜中か、珍しいなと思ってまた目を瞑った。
普段途中で起きることなく朝を迎えるからだ。
だがそこに、
「あんた遅刻するよー!
何度起こせば気が済むの!!」
聞き慣れた母の声が響く。
飛び起きて目を開けるが、真っ暗だ。
おかしい…。何も見えない…。
母が痺れを切らして部屋に来た。
母「何してんの!遅刻だよって…どうしたの?」
僕「まだ夜なの?暗くて何も見えないんだ…。」

その後すぐに病院に行った。
医者に診てもらったが、
僕の目は光を失った…。
原因もわからないとのこと…。

僕は絶望した。学校に行くのをやめ、引きこもるようになった。希望の光はもうないのだ。
そんな僕を祖母が、面倒を見てくれた。
初めは何も話す気になれなかったが、ずっとそばにいてくれる祖母にだけはあの幸せなひとときを聞いてほしいと、願いのこと全てを話した。

最初はうんうんと、優しい笑顔で聞いてくれていた祖母の声色がどんどんと曇るのを感じた。
そして、
「なんでそんなことを願ったりしたんだい!
あれほど気をつけろと言っておいたのに!!」
祖母は急に声を荒げた。

祖母から聞いた話はこうだ。
食べる夜。
それは遠い昔に、今の僕らの村は作物の育ちが悪く、皆飢えに耐える日々が続いてたそう。
そんな中で神への生贄を捧げることで、村へ富を授けてもらおうという考えが生まれた。
そこで、村で両親がおらずとても貧しかったとこの子が生贄の対象となったそうだ。
それは1日の満月の夜に神へと捧げるとして、
亡くなられたそう…。

その後、作物の出来はとても良くなり、村の人々は飢えとは無縁の生活ができるようになったそうだ。
だが、次の 1日の満月だった日の朝から、原因不明の病が流行り出した。
次々とみんなが亡くなっていくことで、これは生贄にされた子の祟りだと言われるようになった。
「あの1日の満月の夜は、
人の欲望を食べる夜だ…。」と。

求めた願いと対になるものが奪われる。
アヤカちゃんに振り向いてもらいたかった僕は、その振り向いてくれた姿を二度と見ることを許されなくなったのだそうだ。
もう心からも光が消えた。

あれから5年。
何もせず時が過ぎた…。
大好きな祖母は寝込んでしまい、起き上がることも出来なくなってしまった。
全部僕が狂わせた。取り戻したい。
もう一度、光を浴びたい、
祖母の目を見て謝りたい。
僕は見えない中、
毎晩必死に願い事をしている。
「食べる夜」が来るまでずっと。


おわり。


「シロクマ文芸部」さんの小説作成に、初めて参加させて頂きました。
参加させて頂き、ありがとうございました。
とても楽しく書けたのではと思います!
普段は歌詞を趣味で書いていますが、小説を書くのは初めてで少し長ったらしく、そして浅い部分もあるものが出来上がってしまいましたね…。
食べるということで、初め幸せを連想しましたがあえてのテイストでいかせてもらいました笑
もし、よろしければ一読頂けましたら嬉しく思います。

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