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爆裂愛物語 第十四話 地獄を彷徨う子供達

 厳しく冷たい海、凍るような大気……荒波は白い泡を立て飛沫を上げる……今にも巨大な波がすべてを呑み込んでしまいそうな雰囲気だ。空は鉛色に静まり返り、凍てつく邪気に恐怖と畏怖を抱かせるように陰鬱とした空気に包まれている……洋上に浮かぶ船は、まるで死そのもののように暗く淀んでいるのだ。最新鋭の機器に覆われた船は、白骨の死者を乗せる幽霊船となり、死の気配を振りまきながら悠然と海に浮かんでいる。そんな中でただ一人、禍々しい気配を放つ者が静かに嗤っていた……悪意、絶望、憎悪、怨念、頽廃、邪心、魔性、そして狂気……それら総てを内包した圧倒的すぎる闇。絶対悪にして完全悪……殺志……彼の黒い眼球に浮かぶ赤い瞳は、的にめがけて一直線に狙う弓のように鋭く、澄んでいた……その瞳は、
「⁉」
 レーダーと電子機器……それらの微かな狂いを見逃さなかった。常人ならば、いや……最新鋭の機器を持っても気付けないだろう狂い……だが彼の眼光は、一瞬の狂いを見逃さなかった。同時に……未来予知とも言える優れた洞察力は、総てを理解し……
「来た」
 ニヤリと嗤った。彼はこの日この瞬間を待ちわびていたような笑顔を見せた。今から遊びに出掛ける子供のように、無邪気さと残酷さが混在したような表情だ。
「我路」
 その言葉には、凄まじいまでの殺意を感じた。同時にとてつもない邪気と期待、高揚、喜びといった感情も感じた。まるで生ける闇そのもののような感覚だ……
「……待っていたぞ」
 そう言う殺志の顔はどこか嬉しそうに見えた。まるで玩具を与えられた子供のような笑顔だった……

 セリオンより十キロ圏内……大日本翼賛会船舶……小さな船だが、アイの施した完全なステルス処理により見つからないようになっている……ハズだが
 一発の巡航ミサイルが正確にやって来る。殺志にはステルス機能などほとんど無意味だ。彼はレーダーや電子機器ナシに正確に敵影を認識している。狂気染みた洞察力、反射神経、そしてカン……総ての感覚が研ぎ澄まされた大量殺戮兵器を前に……

 ドカーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!! ちっぽけな大日本翼賛会船舶は、ただの一発で海の藻屑と化した。だが、殺志はそれを見てなお不気味に嗤っている。むしろ歓喜の表情さえ浮かべているのだ。彼にとって今の爆発さえも、余興にすぎないのだ……地獄の悪魔の化身ともいえる狂人は、ますます笑みを深めていった……
「そろそろ上陸かな……」
 ニヤリと嗤った彼は、瞳をますます鋭くするのだ。

 ちょうどその時……厳しく打ちつける波に、二人のダイバーが顔を出した。そして……イージス艦セリオンの船体に強力な磁石のような道具を使い、器用に昇っていく。
「さすがだぜハンス。お前の作戦通りだ」
 二人はセリオンの船体を伝う。肩に荷物を背負いながら進むその姿はまさに決死隊のそれだ。
「ふん、これぐらいの洞察は猿にでもできる」
 やがて二人は……セリオンの甲板に上陸した。
「っへ……褒めてやってんのに。お前ほんとに捕虜の自覚あんのかよ?」
 そして我路はダイバー服を脱ぎ……ウ冠に神、主……“ソシジ”の黄金一文字を背に背負った、黒い特攻服をなびかせた。
「ここからは二手だな。ボクが核兵器の阻止を、君が殺志の抹殺を」
 ダイバー服を脱いだハンスは、白いスーツ姿だ。手にはビジネスバッグを持っている。
「ふむ……せっかくここまで来たのだから君の意見を聞いておこうかな? どんな気分だい? 我路」
「……別に……」
「殺志と今からたった一人で対峙する。恐怖はないのか?」
「恐えぇよ!! 恐えぇに決まってんだろ!! でも、オレがやらなきゃ誰がやんだよ?」
「では質問を変える。勝算はあるのか?」
「……ああ、半分、カン、だがな」
 そう言うと我路は、ハンスの耳元で……コッソリと戦略を語った。
「⁉ それって」
「ああ……半分、いや、それ以上カンだ。だがな」
 我路はニヤリと微笑んだ。
「お前が核を止めるには十分だろ?」
 そう言って親指を立てた。ハンスはそんな我路を……鋭い眼でジッと見つめた。

 二手に別れた二人……我路は、イージス艦セリオンの艦橋へと歩き出す。
「……スゲェ死臭だな」
 歩く途中、幾つも白骨と血糊、肉片と臓物が散らばっていた……床も壁も天井にも血痕が飛び散り、床には大きな人間の頭部が転がって、そこから夥しい血が床に流れ出している。
(まるで殺人現場だぜ)
 そう思いながら、一歩ずつ進んでいく……
「⁉」
 すぐにわかった。空気が変わった。あまりにも強大すぎる闇に……緊張感と共に空気が凍てつく。コツン……コツン……闇から響く跫音は、一歩ごとに凍てつく狂気を撒き散らしていた。やがて……ハー……ハー……ハー……という吐息が聴こえてくる。吐息は恐怖と畏怖を掻き立てるように響き、まるで闇の深淵の中から死神が覗き込むような視線を感じるのだ。暗闇の彼方に、赤く輝く眼光が見える。やがて……邪悪なる支配者が姿を見せた。
「闇よ、オレを照らせ」
 逃げも隠れもせず堂々たる振舞は、支配者としての、決戦兵器としての威厳すら感じた。
「殺害の志を」
 その笑みには、余裕と共に歓喜のようなものさえ感じられた。
「殺戮の志を」
 靡かせる黒と赤のロングコートの裾から覗いたその手には、妖しく煌めく血塗られた日本刀があった。
「大量虐殺の志を」

 我路は日本刀を手にとって構えた。不思議だ……静かだ。心が……まるで研ぎ澄まされた水面のように静かに澄んでいた……この感情は一体なんだろうか……? そう……これは……
(ああ……心地いい……)
 そう思った瞬間だった!
「!!!!」
 突然、目の前の光景がスローモーションのように見え始める……! ゆっくりと流れる風景の中で、唯一高速で動く黒い影が迫ってくる……!! その影は漆黒の刀を袈裟懸けに振り下ろす……! ガシッ!! 我路は間一髪斬撃を防ぐ……同時に抜刀して横薙ぎに一閃した。ガキンッ!! 金属同士がぶつかり合う音が響き渡る……我路の刀と殺志の漆黒の刀が鍔迫り合いを起こしていた……。
「よう、逢いたかったぜ」
「……」
「オレを見てビビらねぇとはなぁ……」
「……ふん」
「貴様なら、オレのこの『飢え』を満足させてくれそうだ……」
「……オレはお前を殺しにきた。女の仇なんでな」
「ああ、知ってるよ……貴様の女」
 殺志はニヤリと嗤う。
「いい締め付けだよな?」
「⁉」
 そう嘲嗤う殺志を前に、我路は……なぜか静かだった。以前の我路ならどうか判らないが、今の我路は……自分でも不思議なくらい落ち着いていた。総てを受け流している? 冷静に見ている? いや、そのどれでもない……まるで人知を超えた何かに、天の御心に従い委ねるように、静かに、落ち着いて、研ぎ澄まされている……まるで水面に浮いているかのように……そんな静けさだった……。
「……貴様……」
 そんな我路の様子をみて、今度は逆に殺志の方が怪訝そうに眉を潜め……。
「ハッ……肉の限界を見せてくれ」
 そう言うと殺志が我路の肉体を切りつける。
「ッグ……」
 痛みをこらえるが、すぐに再生する……我路も振りかざす。
「ッハ」
 殺志は痛みも恐怖も感じることなく、寸分の躊躇も容赦もないまま振りかざす。
「ハハハハ!!!!!!! これが貴様とオレの違いだ!!!! 貴様は生物である以上、痛みに身体が引くが、オレは痛みを感じない!! 引くことなく攻め続けることができるのだ!!!! これが帝国の決戦兵器だ!!!!!!!!!」
 そうして殺志は刀を振りかざす。だが我路も容赦なく刀を振りかざす。飛び散る肉片、臓物、返り血。再生する肉体、内臓、血液。繰り返し、繰り返す。それを愉しむように殺志の攻撃がますます激しくなっていく! まさに血飛沫舞い散る死闘であった! もはや普通の人間には立ち入り隙もない。闘い? 殺し合い? もはやそんな言葉も生ぬるい……人外のモノ同士の血で血を洗う狂気……次元が違いすぎる。血で血を洗い、肉を喰らい、骨を砕き、魂を削ぎ落としていく……それこそが彼らの運命なのか? 狂喜にも似た叫びはもはや止められないのか⁉

 一方その頃、イージス艦セリオン艦橋……ハンスは核発射システムを止めるべく電子機器の操作をしていた。まるで機械のように、冷酷に、正確に、着実に……
 換気口から侵入したスーパーコンピューター内部。そこには巨大な電子回路と無数のケーブルがあり、ピコピコと点滅を繰り返している……あまりにも緻密であまりも精密であまりにも複雑だが……ハンスには一目見ればすぐにその機構を理解することができた。彼はハシゴを昇っていき、やがて中枢にある制御パネルへたどり着いた……ドライバーを取り出す。テキパキとネジを外し、基盤を開けると……中は複雑な配線と部品で詰まっている。ハンスは手慣れた手つきでコードを引っ張り出し……ノートパソコンを取り出した。カチャ……そうして、スーパーコンピューターを自身のノートパソコンに繋げると、パソコンを操作しはじめた……
「なるほど……コレだな……」
 ディスプレイを見つめながらカタカタとキーボードを打つ……まるで機械のように冷徹な表情で……ハンスはまるで動く人形のような顔を見せ、黙々と作業をすすめる……そのうち、
「……」
 作業をしながら、今まさに殺志と闘う我路のことを考えていた。
「彼には感情がある。イタミも感じる」
 彼の覚悟が伝わってくる。
「恐怖もある。苦痛も激痛もある。なのに……」
 誇りも、正義も、想いも……
「なるほど、第三帝国と大日本帝国。かつての盟友」
 大和魂が伝わってくる。
「気が逢うようだな」
 ハンスは言った。そしてスーパーコンピューターを操作する……淡々と、的確に……あっという間に処理していく……ハンスに焦りはない。鮮やかな手つきだ。まるで熟練のピアニストを思わせるように流れるように……流麗な手つきでパソコンを操作していた。あまりの速さに残像すら見えるようだった。その間ずっとカタカタという音が響いていた…………

「っち! 判っちゃいたがマジでバケモンかよ!!」
 我路は殺志に自分を追わせるようにセリオン艦内を走り回る。
「ハハハハ!!!!! 恐れをなして逃げるか? それとも再生までの時間稼ぎか?」
 走り回る間にもあっという間に骨が修復し、肉が戻り、血の気が甦る。再生を実感しながら、しかし意識は研ぎ澄ませながら走る……
 殺志もまた、弄ぶように確実に我路を追いかけていた……互いに相手を仕留めるために……互いを殺すことだけを考えて……二人はひたすら走り続けた……。
「チッ……」
(さすがだ……)
 思わず感心してしまうほどのスピードだ……しかも、恐らくあえて手加減している。できるだけ永く、ゆっくり、愉しむために……このままでは埒が明かないと思った我路はいったん立ち止まり、深呼吸をした。そして息を整えると、静かに眼を閉じたのだった…………
「なんだ……?」
 急に足を止めた我路を見て殺志は思わず首をかしげた……
「フッ……諦めたのか……?」
 殺志は薄く嗤うとゆっくり近づいてくる。ハー……ハー……という吐息を木霊させ、黒と赤のロングコートを揺らめかせながらゆっくりと歩いてくる……その姿からは殺意どころか覇気すらも感じられなかった。ただ邪心だけがあった……まるで散歩でもしているかのように余裕のある表情で悠々と近づいてくる。一方、我路は張り詰めた緊張感のまま身構える……
「殺志……ここが何処か判るか?」
 と……ボソリと呟くと、彼は特攻服の裏から、
「⁉」
 手榴弾を取り出した。

 ドカーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「⁉」
 作業中のハンスも驚いた。艦内総てに衝撃が伝わる。セリオン全体が大きく揺れる程の大爆発だ。爆風の余波で窓が割れ破片が飛び散り炎が噴き上がる……そして次々と起こる誘爆……炎に包まれる艦内……煙で視界が塞がった……………………
「………………ック」
 炎と瓦礫の中から、我路が日本刀を片手に立ち上がった。
「痛ってぇ……」
 立ち上がった我路は、左腕と右の眼球を丸々噴き跳ばされ、右足を引きずりながら歩いていた。
「……弾薬庫に手榴弾……まさか一発でここまでたぁな」
 炎を背に我路は日本刀を肩に乗せ、ギロリと炎を睨む。隻眼の左眼でしっかりと捉えていた。炎の熱気に炙られながらもなお、集中力を切らさない……。やがて煙が晴れてくると、炎の中に人影が浮かび上がった……
「……」
 燃える炎から見え隠れする人影は……殺志だ。服を総て焼かれ、一糸纏わぬ姿になった殺志が……嗤っている……炎の中、完成された肉体が今もなお再生を繰り返し、片手に血まみれの日本刀を握りながら、血まみれの日本刀を引きずりながら、ゆっくりと歩いてくる。その姿はまるで不死鳥のようだ。不気味な黒い不死鳥が迫ってくる……輝く炎の中をゆったりとした足取りで一歩ずつ近づいてくる……死肉を喰らうように不敵に微笑みながら…………ゆらゆら揺れる影は怪しくも美しく……圧倒的な存在感を放ちつつ、燃え盛る業火の中……近づいてくる…………………………
「フハハハハ!!!!!!! さすがだな我路!!!!!!! 愉しませてくれる!!!!!!!!!!!!!」
 そして殺志は……
「もっと愉しませろぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
 一気に間合いを詰めてくる。我路は左腕と右眼を無くし、右足を引きずりながらも……静かな心で刀を握った。ガチン!!!! そう刀同士が激しくブツかり合うも刹那。一糸纏わぬ殺志はまるで我流のように力任せのメチャクチャな刀振りで追い詰めていく。その力強い動きに圧倒させられつつも……徐々に冷静を取り戻す我路は静かに刀を捌きながら、隻腕の右腕でカウンター気味に殺志の胴を狙う! シュッ!! そんな鋭い太刀筋に対し……殺志もまた素早く反応して咄嗟に身をよじりながら避ける……! ズザァァァァ!!‼ 殺志の刃先がかすってしまったようだ……僅かに掠っただけなのに服ごと横腹あたりが大きく抉れてしまった……‼ 飛び散った血が辺りに飛び散る……一瞬にして真っ赤な血飛沫に変わったのだ……。殺志は左手で我路の懐を掴むと、力任せに壁に押し倒し、右手に握った日本刀を我路の肩に突きつける……そのまま、残った右腕を斬り堕としてしまった。
「ッグァ」
 血を吐く我路に、殺志が嘲嗤う。
「ハハハハ!!!!!!!! 再生するまで待ってやろうか?」
 そう見下ろす殺志。だが我路は……
「⁉」
 両手を失った身体で……服からスポリと抜け出し、上半身裸のまま……
「!!」
 殺志の首筋に噛みついた。まるで死を這う蛇の如く……。ブチっと首筋が噛み千切られ、血飛沫辺りに跳び散る。
「⁉」
 突然の出来事に驚く殺志。それを我路は……
「ウラァァァ!!!!!!!!」
 両足で蹴り飛ばした。殺志の肉体が炎の中に飛ばされていく。その間……カチャリ……我路の右腕が、堕ちた日本刀を、拾った。
「お待ちどうさま」
 我路は日本刀を両手で握り、しっかりと構える。
「完全再生だ」
 すっかり再生した肉体。服を脱ぎ捨てた上半身裸の姿で刀を構えながら間合いをつめてくる!
「ウラァァァ!!!!!!!!!」
 倒れる殺志を間髪入れず、メチャクチャに撫で斬る。何度も何度も執拗に攻撃を繰り返す……。グサッ……ザクッッ……! 肉を裂き骨を断ち……辺りに鮮血が跳び散っていく……!ガクッ……ゴキィッ……!! 殺志の身体が真っ二つに折れ曲がり崩れ落ちる……。床に広がる血溜り……辺りに響く鈍い音……。静寂に包まれる空間の中で微かに聴こえるのは…………あの不気味な嗤い声……!!!!!!!
「⁉」
 心臓に衝撃が走った。
「ハハハハハ!!!!!!!!!!! ハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!」
 全身の右半分を無くした殺志は、嗤いながら左腕で我路の心臓をワシ掴んだ。
「面白れぇ!!!!!!!! もっと愉しませてくれよぁ!!!!!!!!!!」
 殺志は我路を蹴り跳ばす。ドガッ!! 我路の肉体がコンクリートの壁に打ちつけられる! 壁にもたれかける我路……それを他所に、殺志の肉体が……再生していく。ウネウネと……まるで触手のように蠢きながら再生していく……!
「ハハハハハ!!!!!!! “頭の中の怪物”を見せてくれ!!!!!!!!!!!!!」
 そして完全再生した殺志が我路にゆっくりと向かっていく。血まみれの日本刀を引きずりながら。ゆっくり……ゆっくり……歩み寄る……。一歩、一歩と進むたびに床の血溜りが広がっていく……そして!!
「!!」
 刀を振りかざした!! 躊躇も容赦もないひと振りが、我路に迫りくる。しかし我路は!!
「⁉」
 ガチャン!! 日本刀でそれを防いだ。激しい鍔迫り合いが起きる。殺志はさらに力を強めた! ギリギリギリッ……! 刀同士の擦れ合う音……凄まじい金属音が響き渡る……ッ!
「貴様⁉」
 殺志にはその一瞬の鍔迫り合いで、総てを理解した。
「“頭の中の怪物”が目覚めない⁉」
 我路が未だに凪いだ水面の如く静かな精神(ココロ)でいることを。
「ッフ……」
 我路はニヤリと口元を歪めて言った。
「“頭の中の怪物”ってなぁ、要するに傷ついた自分自身のことよぉ」
 彼は自信が奮い立つように嘲笑った……ッ!
「オレはいま、かつて自分を傷つけた何モノにも囚われていない!!」
 血まみれの笑顔は、まるで水を得た魚のように、いや……
「“わが路”を生きている」
 愛に支えられた強さ……それは殺志を苛立たせる。
「なるほど、生きる覚悟がある、ということか」
 憎しみさえ受け止められる心の豊かさ……!! それは、殺志をますます苛立たせる。
「面白れぇ」
 だから彼は、血まみれのままほくそ笑み叫んだ。
「なら死ぬまで弄んでやる!!!! 考えられないぐらいの地獄を見せて!!!! 挙句の果に殺してやるぞ!!!!!」
 殺志は狂気的に叫ぶ。まるで認められない、認めてはいけないものを否定しようとするかのように……ッ! 怒りのあまり拳を握り、震わせながら殺意を込めて言い放った!
「……」
 ここから殺志は、勝利よりも心折ることを考えるだろう。生かさず殺さず、ジワジワと嬲りながら、地獄のような痛みを与え続ける。そして、死すら許されない無限地獄へと突き落とす……!それが、この勝負の結末になるだろう……。そんなことを考えているに違いない。その証拠に……彼の口元はニヤニヤと嗤っていたのだから……。そんな殺志を見て我路は……
「……」
 ニヤリと嗤った。

つづく

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