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爆裂愛物語 第八話 心臓に向かう折れた針

 大日本翼賛会の寮へ、凪とアイが帰ってきた頃には……もう昼だった。
「何処に行っとったんや! 心配したぞ!!」
 フォルクスワーゲンVW38で帰ってきたアイと凪を、一番最初にそう出迎えたのは我路だった。
「つーかなんやねんこのモダンな車は! ってかアイはサングラス着けとるし、なにキメとんねん!」
「私は眼も含め、紫外線に弱いためこのような対策が必要なのです」
「……だからってなんでフォルクスワーゲン……」
 我路がツッコミをいれつつ、ちょっと怒り気味だが、
「まぁまぁ、凪もアイも疲れてるだろうからとりあえずそこまでで」
 ダンがなだめるように言う。我路は不承不承と言った様子で口をつぐむが……
「私は構いません。事情を説明します。重要な内容ですし」
「重要?」
「私たちナチスに拉致された上、ハンスにも殺志にも会ってきました」
「!?」
 大日本翼賛会の全員が困惑した上、緊張感が走った。
「……話を聞こうか?」
 並さんが言った。
「はい」
 アイが全員に拉致された経緯を話す。冷静に、順序立てて、淡々と。
「……」
 話を最後まで聞いたみんなは、ようやく平静を取り戻したようだが、
「……」
 アイは我路を気にしているようでチラッと見ている。
「引きますか?」
「引きはしねぇ。オレやみんなのためにやったことならな。だが……オレが怒ってんのは自分(テメェ)が自分(テメェ)の判断で勝手に行動したことだ。現に捕まってんじゃねぇか」
「……ごめんなさい」
「だから」
 と、そこまで言ってから、我路は首を振り。
「いや……いいや。とにかく危険なこと下手に首を突っ込むな。何があるかわかんねーぞ?」
「……」
 アイは無言でコクリと頷く。
「で? 得られた情報は?」
 並さんは鋭い目つきでアイに訊いた。
「はい」
 アイは頷く。
「ここではまとめて端的に話します。まず、彼等の本拠地は沖縄県宮古島の離島、大神島にあります。その詳しい場所や防衛ラインの情報も突き止めました。
 次に、彼等の最終目標は、沖縄本島米軍基地の占拠と琉球をナチス第三帝国として独立させることです。
 また、その計画において邪魔と予想される、永遠学園の生徒ならび卒業生の暗殺活動を彼等は軍備増強と資金調達に並行して行なっており、来月、Vの日と称される13日に、GMC本社の襲撃を計画。」
「!?」
 みんなが騒然とした。まるで的にめがけて一直線に狙う弓のような野心に。そして、その野心は、この物語が、この世界が、 世界そのものの未来をも左右する。
 そう……矢は放たれた。もう止められないし、止めない。
「……話がでかいな。いや、わかってはいたツモリなんだが……。本格的に面倒臭い状況だな」
 ダンは頭を抱えた。
「遅かれ早かれ大神島を叩く手ハズは必要だな。準備しよう」
 並さんが言った。
「いえ、まずGMC本社からでしょう。来んのがわかってんならこっちから攻めるべきです」
 宮さんは、汗だくになりながらも冷静に言う。
「詳しいお話を並さんと宮さんに話します。戦略会議をしましょう」
「ああ、わかった」
 そうして一同は解散する。緊張感はあっという間に霧散した。
 そんな中、凪だけは虚ろな瞳で足元を見つめていた。まるで何かにとり憑かれたように寮の部屋へと戻っていった。
「……」
 一同の中でアイ一人だけがその様子を繊細に観察し、分析していた。なんだか嫌な予感がする。
「ダン、夏凛、ちょっといいですか?」

 その夜……凪は悪夢にうなされている。夢の中で苦しんでいた。
「あ、ああ……いや! いやあああ!」
 凪の悲鳴が木霊する。その木霊はやがて消えゆく。消えてゆくのだ。しかし……それは、まるで呪いのように永遠に続くかのようにも思えた。
「助けて! もう許して! やめて!」
 そう叫ぶと、彼女は再び泣き出す。もう嫌だというように首を振るが、それでもまだ終わらないのだ。黒い影が彼女を襲う。胸に傷をつけられる。切り裂かれる。強烈な痛みが彼女を襲った。
「嫌よ……もう嫌! もうやめて!」
 彼女は泣き叫ぶが、それでも終わらないのだ。そして、また、彼女の胸から血が流れた。
「助けて! もう許して! いやっ!」
 そう叫んでも誰も来ないし、何も変わらない。ただ、自分の胸が痛くなるだけ。その痛みはどんどん強くなっていく気がする。でもそれは錯覚だ。だってこれはただの悪夢なのだから。しかし……この悪夢はいつまで続くのだろう?
「っいや……いやだ……」 
 と凪は呟くように言い続ける。すると突然目の前に白いスーツの青年が現れる。彼は優しく微笑んだまま彼女に言ったのだ。
「キミは素敵な女の子だね、凪。従順なところがね」
 彼は残酷に優しく笑いながらそう言った。
「きっと我路も喜んでくれるよ、従順な駒と甘い死。平等の死と永遠の愛。そして二人きりの時間、二人きりの人生、二人きりの死」
「あ、ああ……あああ……」
 凪はその笑みに魅入られた。そして彼の言うがままに、自分の中の何かが変わってゆくのを感じる。
「ほら、キミはこんなにも美しい」
 彼はそう言って凪の顎を掴みながら顔を近づけた。
「……っ!」
 彼が何をしようとしているか分かった凪は、恐怖した。
『もうやめて!』と心の中で叫ぶも、それは声にはならない。
「そう、これがキミの我路への気持ちそのものだ。なら何を成すべきか、わかるよね?」
(いや!)

「!?」
 眼を覚ました凪は、フトンの中、汗だくでガタガタと震えながら、潰れたカエルみたいに丸まって、フトンにしがみついた。凪の眼は恐怖に染まり、その身体は恐怖に震えていた。
「……」
 夢から覚めてもまだ夢の中にいるようで、でもこれが現実であることも同時に理解し、そして自分が今いる場所が現実であることも同時に理解してしまった。
「あ……ああ……」
 周囲を見渡してみても誰もいない。ただ、自分の荒い息遣いが聞こえるだけ……。だが、その声は静かな夜の中に吸い込まれていくだけで……。
「……」
 凪は落ち着くために水を飲もうと一階の台所へ向かおうとした。だが、扉を開けようとする直前で……
「あ……」
 ガタン……と、干していた昨日の服から抜け落ちた……ワルサーP38拳銃が眼にとまった。
「……」
 ハンスから昨夜渡されたワルサーP38をジッと見つめる凪……本物の拳銃……言いようのない魔力にとり憑かれる。
「……っ!」
 凪は唇を強く噛んだ。まるで金縛りから必死に逃れようとしているように、ふるふると顔を横に振り、目を強くつぶった。だがその目蓋の奥にある幻影は、異様に静かに凪の瞳を覗き込んでいた。凪は忌々しそうな口調で尋ねる。
「……これも芝居ですか?」
 すると目蓋の裏でハンスはニヤリと微笑んだ。
「君ならそんな風にできるさ」
 それを聞いた瞬間、凪の身体が大きく震え、その眼に闇が宿った。彼女は、まるでとり憑かれたように静かな表情になる。そして……ワルサーP38拳銃を握った。
「撃つとき、僕の言ったことを思い出せ。そして忘れるな。」
 凪は、ゆっくりと頷いた。

 一階へ向かう階段を降りる、凪の足取りには、迷いがないけれど……何処か暗く、重かった。彼女は光を宿さない瞳のまま台所へ向かう廊下を歩くと……

 我路の後ろ姿があった。
「あー、小腹空いた。ラーメンでもつくろ」
 彼は鍋を火にかける。そして、冷凍庫から余っていたチャーシューを取り出し、切っていた。
「……」
 我路は凪の存在には気づいていないようだ。凪は、
「……」
 背後からゆっくり迫ってくる。まるでとり憑かれたように、暗く、重く。そして正気を失くしたように、重く澱み沈んだように濁った瞳。その眼光が我路の背をとらえ……ワルサーP38拳銃の銃口が、その背に狙いをさだめていた。
「……」
 愛の苦悩からこれでラクになれる……そうとも言わんバカリに……。
「……」
 だが、その愛は、本当に正しいのか?
「……っ」
 この愛は、果たして本当に自分のためになるのか……?
「ッウ……ッア……」
 それは違う。そうとも違わない。
「!」
 だが……それでも! 彼女はワルサーP38の引き金を握った。だがそのとき!?
「凪ーー!!!!」
「!?」
 ダンが素早く凪の銃を握った手をひねり上げ、そのまま床に取り押さえる。
「ッ痛っ!!」
 凪は苦悶の表情で顔を歪める。
「大丈夫! 我路!」
 夏凛がすぐに駆け寄るが、我路は呆気にとられながらただただ成り行きを見ていた。
「なによ。なにをぼーっとしてるのよ!」
「あ、いや」
 我路は言葉を返すことができなかった。そんな自分に大きな疑問を持ってしまったのだ。うまく言葉にできないのだがなんだか……眼の前のことは、日常の崩壊、というより、ずっと望んでいたことのようにも思えて、妙にすんなり受け入れてしまえた。
「どないしてん?」
 部屋が明るくなり、宮さんをはじめとしたみなが入ってくる。
「凪が我路を撃ち殺そうとしたんだ」
「凪が?」
 ダンに取り押さえられた凪が虚ろな目で鳴咽を零した。
「離して! 我路を殺して私も死ぬ!」
「なんでだよ!!」
「私、もう……耐えられない……」
「はぁ?」
「私の胸には傷がある!」
「……」
「洗っても洗っても消えなくて、みんなに隠そうとして、学校にも、友達にも、パパにも」
「……ああ」
「私は誰にも愛されない! だから一番好きな我路を殺して私も死ぬのよ」
 凪はすすり泣いていた。それは心からの涙だった。我路はちゅうちょした。愛せないから殺して死ぬ、そう言っている凪を説得する言葉が見つからなかったからだ。
「……ハンスに何か言われたのですね?」
「!?」
 ためらいに声を出したのは、アイだった。
「ハンスが計算ナシに私たちを逃がすとは思えません。怪しかったのでダンと夏凛に凪を見張るようお願いしたんです」
「……」
「実際いい手です。上手くいってもいかなくても、私たちの間に不信と亀裂を築ける……これがSS、いえ、ハンスのやり方なんですね」
「……」
 泣きじゃくる凪の姿を、そこにいるみんなが見た。その哀しく重い姿に……

 第三帝国最終兵器、WereWolf三世……ハンスの影が見える。心を持たない横顔は、冷たい無機質さを帯びていた。あらゆる悲劇も絶望も、まるで虫ケラの死を見下ろすように動じることなく、何事もなかったかのように顔色一つ変えず……なおも饒舌に言葉を紡いでいく。
「殺志……女は弄ぶモノでない」
 その横顔はまるで、
「利用するモノだ」
 氷細工のように美しく、冷酷で、鋭い。
「我々はSSだ。一体何人殺してきたと思っている?」
 ハーケンクロイツの冷たいカタチが、その背に見えた。

「……」
 我路は凪の元へゆっくり寄り添うと、優しく肩に手をのせて話した。
「オレを殺りたいならそれでもいい」
「!?」
「凪になら殺られてもいい。それはここにいるみんなもそう。オレは頭の中に怪物がいるから。それに凪もみんなも、一人一人が平等に特別だから、オレの中では」
 そう言うと我路は、ナイフを凪の手に持たせ、自分の……左胸に切っ先を向けさせた。
「オレの胸を切り裂け」
「!?」
 ただ……涙を
「心臓まで、深く」
 君の、胸の、傷に
「再生しないぐらい、深く」
 ただ……愛を
「これでおそろいだ」
 君の、心の、傷に
「君がくれた、想いの、その応えに
 君がくれた、支えの、その応えに」
「あ……あ」
 凪は膝をつき
「私、我路が好き」
 涙し
「ほんとに好き。ほんとのほんとに大好き」
 そして我路の胸の中にくずおれた。
「私は我路のためなら悪い女にだってなれる! 私は我路が悪い人でもついていく! 支える!!」
「ありがとう……そんな凪が救いだ。オレは……ありのままのオレでいいんだと」
 ふたりはまるで、もともとひとつだった魂が、ふたつに分かたれ、再びひとつに戻ったかのように。
「オレは、凪を護りたい」
 しかし、その綺麗事は、あまりにも強烈だった。夢のような時間から目覚めた後も、なお。
「自分が感じることだけが総て」
 その綺麗事の余韻は、いつまでも残り続けたのだ。
「自分が信じることだけが総て」
 そこでは人々は純粋で、ひたむきで、美しく生きようとしていて、それぞれの人が自分だけの物語を生きていた。
「凪が教えてくれた」
 これは物語であり、魂の叫び。一つの響きだ。これから始まるのは、誰も通ったことのない、わが路なんだ。

「……」
 ふたりを見た夏凛は
「……」
 なんだかいたたまれなくなって
「夏凛?」
 その場を、立ち去ろうとした。
「夏凛!!」
 そんな夏凛を、我路は追いかけた。追いかけなければ、夏凛との距離はどんどん遠くなる。このままだと……
「夏凛! 待てよ!!」
 二度と逢えなくなるような……そんな気がしていた。
「夏凛」
「!!」
 追いついた夏凛の肩を握ると、夏凛は無言で腕を振りほどいた。
「触らないで」
 そう言われ、手を引っ込める我路。しかしすぐに、腕を伸ばして引き留めた。
「待ってくれ、夏凛!!」
「凪に集中しなよ」
「オレがなんで夏凛を追いかけたのかわかるか!!」
「知らないよ……」
「夏凛が必要なんだ!!」
 そう言われると夏凛は、
「そんな言い方、ずるいよ」
 自分でも気持ちがわからなくなる。
「僕だって考えなしじゃない」
 だから涙する。
「我路や凪のことも、真剣に考えてるよ……」
 夏凛は全てが見える。全てを感じる。全てを知っている。だから冷めている。冷めている……ハズだ。
「……僕はもう大丈夫。だから行って」
「はぁ?」
「ほんとに大丈夫だから」
「!?」
 そう言って我路を見上げた夏凛の、なんともいえない瞳は、確かに真直ぐだった。夏凛の瞳をみた我路は、思わず息を飲んだ。
「……わかった」
「ありがとう」
 だから我路は歩き出した。見送るのでなく支えられながら、確実に。

 夏凛は全てが見える。
「我路が真剣なのが見えた」
 全てを感じる。
「一人一人が平等で特別……という言葉が、ほんとであること」
 全てを知っている。
「僕もその一人ということ」
 だから冷めている。
「そして……」
 冷めている……ハズだ。
「追いかけてくれて嬉しかったよ……」
 夏凛は、そう言って微笑んだ。その夏凛の笑顔は……とても儚げで美しくて、そして切なかった。夏凛は自分が、変わっていっていることを、実感していた。それは嬉しいことな気がする。夏凛がその気持ちを言葉に現せるのは、もう少し先の話だ。

 それから……泣き疲れた凪を、我路は布団に運び、優しく彼女を布団に寝かせてあげる。泣き疲れたのか、そのまま凪は深い眠りに落ちていった。その寝顔を見てから、我路は部屋を出た。すると、そこには……アイがいた。
「泣き疲れて寝ちゃったんですね?」
「うん……まぁ、そんなとこかな」
 アイはいつもの無表情と、いつもの棒読みで言葉を続けた。
「なぜ凪には自分の胸を切らせようとしたのですか?」
「え?」
「あれは特別ですよね? たとえば私にはしない」
「おい、どうしたんだよアイ?」
「私と彼女で何が違うんですか?」
「アイ!」
「彼女には子宮があって、私たちには子宮がないからですか?」
「どうしたんだよ一体!!」
「彼女には感情があって私にはないからですか?」
「!?」
 ここまで話すと我路は……押し黙ってしまった。なんだか何を答えても、それが正解ではないような。そんな気がしたのだ。
「……ごめんなさい。言い過ぎました」
「……いや」
 ふたりは気まずくなって、そのまま沈黙した。会話もなく、お互い、違う方向を見たまま、その夜は別れた。

 翌朝……

 その日は、曇り。空が重く暗かった。
「まっくらー」
 と、凪は伸びをしながら言った。彼女は青い私服に着替えていた。いつも着ていた白い服より少し大人っぽい雰囲気がして新鮮だ。でもそれはいつもと違う服装だからそう感じるだけかもしれないなと思った。
「……」
 我路は黒いロングコートに黒いサングラスを掛け、ロングコートの下には黒いシャツだけ。黒いジーンズと黒いスニーカー。といういでたちで今を駆け抜ける新進気鋭のシンガーソングライターみたいだ……んなわきゃない。とにかく彼はそんないでたちで凪が降りてくるのを下で待っていると……
「どちらに行かれるのですか?」
「!?」
 アイの棒読みの文章に、我路が振り返る。
「どうして動揺しているのですか?」
「あ、いや」
「凪とデートに行かれるのですか?」
「!?」
 アイはしれっとそう言った。
「……」
 我路はアイのその発言に少し驚いたが、しかしすぐに納得したように頷いた。
「ああ……前から約束してて。あんなこともあった後だし、気晴らしにもなってくれたらと思って」
「ではもう少し服装に気をつかってください」
「へ?」
「彼女は我路が思うより雰囲気を大切にします」
「……ほう?」
「今の格好は目立ちすぎます。私がコーデします」
「いや……それは」
 我路が言いよどむも、アイは有無を言わせず服装のコーデを始めた。
「そこに座ってください」
 アイは衣装部屋のクローゼットを開き、山のような服を漁りながら、無遠慮に我路を手招きした。そこには様々な服並んでいる。まるでファッションショーだ。
「……これとこれと……あとこれ」
 アイが選んだ服はどれも、我路が着たことのないような服だった。
「はい、じゃあ服を脱いで。あ、下着は脱がなくていいですから」
 アイは器用に我路の服を脱がしていく。シャツもパンツも、全部だ。
「……おい!……何するんだよ!」
 と、我路が言うと、アイは淡々と言った。
「この方がお二人には似合います」
「え? これ?」
「はい」
 そして数分後。ようやく決まった服装は、白いTシャツと黒いジャケット、白いカーゴパンツ、グレーのスニーカというシンプルなコーディネート。そして黒いサングラスに黒い帽子を被った。
「シンプルだな」
「この方がいいんです。お二人がお二人とも映えます」
「そうか」
 我路は頷くと、アイにひとつ尋ねた。
「なぁ、なんでこんな風にしてくれるんだ?」
「我路を支えるという目的上、一番合理的で最適解と判断したからです」
「そうか」
 そう言うと、我路は外へ歩き出そうとした……が、ふと足を止めて
「なぁアイ?」
 アイに尋ねた。
「アイって、ほんとに感情がないのか?」
 その質問にアイはいつもの無表情と棒読みで答える。
「はい。私は感情がありません。しかし我路が前に向けるようサポートします」
 我路は一瞬間を空けたが、ちょっと考えて、ニコリと微笑んだ。
「ありがとう」
「どういたしまして、サポートできて光栄です」
 アイがペコリとお辞儀をする。その姿は、なんだかとても綺麗に見えた。だから我路は外へ歩き出す。アイに背を見送られながら。

つづく


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