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禁断の愛の行方3

再会の予感

退院してから数週間が過ぎた。田嶋裕一は日々の仕事に追われながらも、心の中にある一つの思いが消えることはなかった。それは、樋口杏香にもう一度会いたいという強い願いだった。彼女の優しい笑顔と、どこか儚げな雰囲気が裕一の心に深く刻み込まれていた。

ある土曜日の午後、裕一は仕事を早めに切り上げた。春の暖かな日差しが東京の街を包み込んでおり、彼はなんとなく病院の近くを歩いてみることにした。心のどこかで、杏香に偶然出会えるのではないかという期待があったのだ。

「田嶋さん?」

ふと後ろから声がかかった。振り返ると、そこには白いナース服に身を包んだ杏香が立っていた。驚いた表情の彼女は、しかしすぐに笑顔を浮かべた。

「樋口さん、こんにちは。こんなところで会うなんて、偶然ですね。」

裕一は少し照れくさそうに笑った。杏香も同じように微笑んだ。

「そうですね。でも、偶然でも嬉しいです。どうしてこちらに?」

「ちょっと散歩をしていたんです。樋口さんは休憩中ですか?」

「ええ、ちょうどシフトが終わったところなんです。よかったら、少しお茶でもしませんか?」

杏香の提案に、裕一は心から嬉しく思った。彼女ともう一度話す機会を得られたことに感謝しながら、二人は近くのカフェに向かった。


カフェは病院の近くにある、小さな隠れ家的な場所だった。二人は窓際の席に座り、コーヒーを注文した。店内は落ち着いた雰囲気で、心地よい音楽が流れていた。

「退院してからどうですか?お仕事は順調ですか?」

杏香はコーヒーを一口飲みながら、優しく尋ねた。

「ええ、おかげさまで順調です。脚の方もほとんど治りました。」

裕一は微笑みながら答えた。杏香の関心と心配りに感謝しながら、彼も彼女に尋ねた。

「樋口さんの方はどうですか?お仕事は大変でしょう?」

「そうですね、大変なことも多いですが、やりがいがあります。患者さんたちが元気になる姿を見るのが何よりの喜びです。」

杏香の言葉には、彼女の仕事に対する真摯な思いが込められていた。裕一は彼女の話を聞きながら、ますます彼女に惹かれていく自分を感じていた。

「そういえば、田嶋さん、今日は何か特別な予定があったんですか?」

杏香の問いに、裕一は少し考えた後、正直に答えた。

「実は、特に予定はなかったんです。ただ、なんとなくこちらに来たくなって。」

「そうなんですね。偶然とはいえ、こうしてお話できて嬉しいです。」

杏香はそう言いながら、にこやかに笑った。二人の会話は自然と続き、時間が経つのも忘れるほどだった。

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