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(第8話)「人を動かす言葉 〜新米刑事の真相解明〜」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/20公開

第8話 「心の奥底に秘められた真実」

翌朝、佐藤美咲は早くから署に出勤した。今日は再び山田太郎の妻、花子さんから話を聞く重要な日だ。田中警部も既に到着しており、二人で今日の方針を話し合った。

田中警部:「おはよう、佐藤君。今日は再び山田さんの奥さんから話を聞くことになるが、どう接するべきだと思う?」

佐藤:「はい…まず、花子さんの気持ちに寄り添うことが大切だと思います。大切な人を亡くし、さらに警察の取り調べを受けるというストレスの中にいるはずです」

田中警部:「そうだな。そして、もう一つ大切なことがある。それは、相手の話を批判せずに聞くことだ」

佐藤:「相手の話を批判せずに聞く…ですか?」

田中警部:「そうだ。人は往々にして、自分の行動や考えを正当化したがるものだ。だから、相手の話を聞くときは、まず理解しようと努めることが大切なんだ」

佐藤:「なるほど…でも、どうやって批判せずに聞けばいいんでしょうか?」

田中警部:「例えば、相手の立場だったらどう感じるかを想像してみるんだ。『そう感じるのも無理はありませんね』とか『その立場なら、私もそう考えたかもしれません』といった具合にな。そうすることで、相手は自分の気持ちが受け入れられていると感じ、より率直に話してくれるようになる」

佐藤:「わかりました。気をつけます」

二人は山田家を訪れた。ドアを開けたのは、前回よりもさらに疲れた表情の花子だった。

佐藤:「こんにちは、警視庁の佐藤です。こちらは田中警部です。お時間よろしいでしょうか?」

花子:「あ、はい…どうぞ」

田中警部:「山田さん、お気持ちの落ち着かないところ申し訳ありません。ご主人のことで、もう少しお話を伺いたいのですが」

花子:「わかりました…どうぞ、お座りください」

佐藤:「山田さん、前回お話を伺ってから、お変わりはありませんか?」

花子:「いいえ…相変わらずです」

田中警部:「山田さん、ご主人の最近の様子について、もう少し詳しく教えていただけますか?何か変わったことはありませんでしたか?」

花子:「そうですね…最近は仕事のストレスが大きかったようです。夜遅くまで電話で誰かと話していることもありました」

佐藤:「そうだったんですね。その電話の相手について、何かわかることはありますか?」

花子:「いいえ…はっきりとは…ただ、女性の声だったような気がします」

田中警部:「なるほど。山田さん、そういった状況で不安に思われたのではないでしょうか?」

花子:「はい…でも、主人を信じていたので…」

佐藤:「山田さん、そのお気持ち、よくわかります。大切な人を信じたい気持ちと、湧き上がる不安との間で揺れ動くのは、本当に辛いことですよね」

花子の目に涙が浮かんだ。

花子:「はい…本当につらくて…でも、主人を疑うなんて…」

田中警部:「山田さん、あなたのその気持ち、とてもよくわかります。ご主人への愛情が深いからこそ、そういった複雑な感情になるのは自然なことです」

花子:「ありがとうございます…そう言っていただけると、少し楽になります」

佐藤:「山田さん、ご主人は最近、何か悩んでいるような様子はありませんでしたか?」

花子:「そう言えば…事件の数日前から、何か考え込むことが多くなっていました。『全てを清算しなければ』とつぶやいているのを聞いたこともあります」

田中警部:「『全てを清算しなければ』…ですか」

花子:「はい…でも、その意味がよくわかりませんでした」

佐藤:「山田さん、その言葉を聞いて、どう感じましたか?」

花子:「正直、怖くなりました。何か大変なことが起きているのではないかと…」

田中警部:「そう感じるのも無理はありませんね。不安になるのは当然のことです」

花子:「でも、聞く勇気が出なくて…もし聞いていたら、主人は…」

花子は言葉を詰まらせた。

佐藤:「山田さん、自分を責めないでください。あなたはご主人を信じ、支えようとしていたんです。そのお気持ちは十分に伝わっていたはずです」

花子:「ありがとうございます…でも、もし私がもっと…」

田中警部:「山田さん、『もし』は誰にでもあります。今は、ご主人の真実を明らかにすることに力を貸していただけませんか?」

花子:「はい…私にできることがあれば、何でもします」

佐藤:「山田さん、ご主人の持ち物の中で、最近気になるものはありませんでしたか?」

花子:「そう言えば…主人の机の引き出しに、見覚えのない封筒がありました」

田中警部:「封筒ですか?中身は確認されましたか?」

花子:「いいえ…主人のプライバシーを守りたくて…」

佐藤:「山田さん、そのお気持ちはよくわかります。大切な人の信頼を裏切りたくないという思いは、とても素晴らしいものです」

花子:「ありがとうございます…でも、今となっては…」

田中警部:「山田さん、その封筒はまだありますか?」

花子:「はい…たぶん、まだ机の中にあると思います」

佐藤:「山田さん、もしよろしければ、その封筒を見せていただけないでしょうか?ご主人の真実を明らかにする重要な手がかりになるかもしれません」

花子:「わかりました…少々お待ちください」

花子は立ち上がり、隣の部屋に向かった。しばらくして、一通の封筒を持って戻ってきた。

花子:「これです…」

田中警部は慎重に封筒を受け取った。

田中警部:「山田さん、この封筒を開封してもよろしいでしょうか?」

花子:「はい…お願いします」

田中警部が封筒を開けると、中から数枚の書類と写真が出てきた。書類には複雑な数字の羅列が記されており、写真には見知らぬ男性の姿が写っていた。

佐藤:「これは…」

花子:「私も初めて見ました…一体何なんでしょうか」

田中警部:「山田さん、この男性をご存じですか?」

花子:「いいえ…見たことがありません」

佐藤:「山田さん、本当にありがとうございます。この資料は、事件解決の重要な手がかりになるかもしれません」

花子:「そうですか…私にできることがあれば、何でもしますので…」

田中警部:「山田さん、今日は貴重な情報をありがとうございました。これからも何か思い出したことがあれば、ぜひ教えてください」

花子:「はい…わかりました」

佐藤と田中警部は山田家を後にした。車の中で、二人は今日の聞き取り調査について話し合った。

田中警部:「佐藤君、今日の対応は素晴らしかったぞ。山田さんの気持ちに寄り添いながら、必要な情報を引き出せていた」

佐藤:「ありがとうございます。でも、まだまだ勉強不足です」

田中警部:「いや、十分だ。特に、『そう感じるのも無理はありませんね』とか『そのお気持ち、よくわかります』といった言葉で、相手の気持ちを受け入れていることを示せていたな。そうすることで、相手は自分の気持ちが理解されていると感じ、より率直に話してくれるようになるんだ」

佐藤:「なるほど…確かに、そう言った後は山田さんの表情が和らいだ気がします」

田中警部:「そうだ。人は自分の気持ちを理解してくれる人に心を開くものだ。そして、相手の立場に立って考え、共感することで、信頼関係が築けるんだ」

佐藤:「警部…私、もっと学びたいです。人の心に寄り添う方法について」

田中警部:「その姿勢が大切だ。これからも様々な人と接する中で、経験を積んでいけばいい。そして、常に相手の気持ちを想像し、理解しようと努めることを忘れずにな」

佐藤:「はい!頑張ります!」

署に戻った二人は、今日の調査結果をまとめ始めた。山田太郎の殺害事件に、新たな疑問が浮かび上がった。封筒の中身、「全てを清算しなければ」という言葉の意味…これらは一体何を意味しているのか。

田中警部:「佐藤君、今回の件で新たに浮かび上がってきたのは、山田さんが何か重大な秘密を抱えていた可能性だな」

佐藤:「はい。封筒の中身が気になります。あの数字の羅列と写真…何を意味しているんでしょうか」

田中警部:「そうだな。明日は早速、この資料の分析を依頼しよう。そして、写真に写っている男性の身元も調べる必要がある」

佐藤:「はい、わかりました」

新たな証拠を手に入れた二人は、次の一手を考え始めた。山田太郎殺害事件の真相は、まだ霧の中だ。しかし、少しずつその霧が晴れていくのを感じる。真実は、彼らが想像する以上に複雑で、驚くべきものかもしれない…。

登場人物:
・佐藤美咲:18歳の新米女性刑事。主人公。
・田中警部:佐藤の上司。中堅刑事。
・山田花子:被害者の妻。
・山田太郎:被害者。(本話では直接登場せず)

#創作大賞2025   #ミステリー小説部門

第8話 終わり
次は 第9話


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