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(第8話)ラクスル創業物語【創作大賞2025ビジネス部門応募作】2024/08/23公開

第8話:「新たな挑戦 - ダンボールワンの進化」

2021年4月、東京・六本木のラクスル本社。創業者の松本恭攝は、40歳の誕生日を迎えていた。12年前、小さなシェアオフィスから始まったラクスルは、今や東証プライム市場に上場する企業へと成長していた。

松本は、窓から東京の街並みを見下ろしながら、これまでの道のりを振り返っていた。印刷、物流、広告と、次々に新しい分野に挑戦し、デジタル技術で産業の非効率さを解消してきた。しかし、彼の表情には新たな決意の色が見えた。

「まだ足りない。もっと多くの産業の非効率さを解消しなければ」

松本の頭の中では、次の構想が描かれ始めていた。それは、2年前に立ち上げた「ダンボールワン」事業のさらなる拡大だった。

「ダンボールワン」は、ラクスルが2019年2月にスタートさせた、オンラインでダンボールの受注生産を行うサービスだ。中小企業向けに小ロットから対応し、最短3日での納品を実現。業界に新風を吹き込んでいた。

しかし、松本は現状に満足していなかった。

「ダンボールだけじゃない。包装資材全般に展開できるはずだ」

松本は、自身の原点を思い出していた。大学時代に訪れたシリコンバレーでの経験。そこで見た、テクノロジーの力で世界を変えようとする起業家たちの姿。その記憶が、今の彼の原動力となっていた。

「あの時から、テクノロジーで世界をより良くしたいと思っていたんだ」

松本は、ダンボールワン事業の拡大プロジェクトチームを立ち上げた。リーダーには、ラクスルの創業期からともに歩んできた山田進太郎を抜擢した。

「山田、君と一緒に新しい価値を創造していこう」

「はい、必ず成功させます」

二人の目には、新たな挑戦への期待と決意が交錯していた。

チームは、まず徹底的な市場調査を行った。その結果、ダンボール以外の包装資材、特にプラスチック製品に関して、多くの中小企業が調達に苦労している実態が明らかになった。

この発見を基に、松本は新たな戦略を立案した。

「ダンボールワンの仕組みを活用して、プラスチック製品や緩衝材なども扱えるようにしよう。包装資材のワンストップソリューションを目指すんだ」

2021年6月、松本は「ダンボールワン」の機能拡張計画を発表した。この発表は、包装業界に大きな反響を呼んだ。

「ラクスルが、今度は包装資材全般に参入か」
「小ロット対応の包装資材調達が可能になれば、中小企業にとって大きな助けになるかもしれない」

多くの企業から問い合わせが殺到し、松本たちは嬉しい悲鳴に追われた。

しかし、この新たな挑戦にも大きな壁が立ちはだかった。それは、プラスチック製品の環境負荷の問題だった。

ある日、環境保護団体から厳しい指摘を受けた。

「プラスチック製品の拡大は、環境破壊につながるのではないか」

この指摘に、松本は深く考え込んだ。確かに、環境への配慮は避けて通れない課題だった。しかし同時に、多くの企業がプラスチック製品を必要としている現実もある。

松本は、自身の幼少期の記憶を思い出していた。海辺で遊んだ際に目にした、プラスチックごみで汚染された砂浜。その光景が、今でも彼の心に深く刻まれていた。

「環境に配慮しつつ、企業のニーズに応える。そんな解決策があるはずだ」

松本は、プロジェクトチームに新たな指示を出した。

「環境に優しい素材の研究開発にも力を入れよう。バイオプラスチックや再生可能な素材の活用を検討しよう」

チームは、素材メーカーや研究機関との連携を進め、環境負荷の少ない新素材の開発に着手した。同時に、既存のプラスチック製品についても、リサイクル率を高める取り組みを始めた。

これらの取り組みは、徐々に成果を上げ始めた。2022年3月には、バイオマスプラスチックを使用した包装資材の取り扱いを開始。環境に配慮しつつ、企業のニーズに応える新たな選択肢を提供することに成功した。

さらに、AIを活用した最適包装設計システムの導入により、資材の無駄を最小限に抑える取り組みも進めた。これにより、コスト削減と環境負荷低減の両立を実現した。

これらの取り組みが評価され、「ダンボールワン」の利用企業数は急増。2022年9月には、累計利用企業数が100万社を突破した。

松本は、この成功を次のステップへの足がかりと考えていた。彼の頭の中では、すでに次の構想が描かれ始めていた。

「包装資材だけじゃない。物流全体の最適化にも貢献できるはずだ」

松本恭攝、41歳。彼の挑戦に終わりはなかった。

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」

このビジョンを胸に、松本とラクスルの物語は、さらなる高みを目指して続いていく。

2023年、ラクスルは創業から14年目を迎えた。「ダンボールワン」を含む包装資材事業の売上高は200億円を突破。全社の売上高は500億円に迫る勢いだった。

しかし、松本の表情に満足の色はなかった。

「まだまだ、やるべきことがある。変えるべき仕組みがある」

彼の頭の中には、すでに次の構想が描かれていた。AIとIoTを活用し、製造から配送まで一貫した物流のデジタル化を実現する。そして、その技術とノウハウを世界に展開していく。

松本は、自身のビジョンを従業員たちに語りかけた。

「我々の挑戦は、まだ始まったばかりだ。テクノロジーの力で、もっと多くの産業の非効率さを解消し、社会に貢献していこう」

従業員たちの目には、松本と同じ決意の光が宿っていた。彼らは、ラクスルが単なる企業ではなく、社会を変革する運動体であることを、深く理解していた。

松本は、窓の外に広がる東京の街並みを見つめながら、静かに微笑んだ。

「これからが本当の勝負だ。世界を変える、その道のりはまだ始まったばかりなんだ」

ラクスルの挑戦は、新たなステージへと進もうとしていた。松本恭攝と彼のチームが描く未来。それは、テクノロジーの力で、あらゆる産業の非効率さを解消し、より良い社会を作り出す世界だった。

その壮大な夢の実現に向けて、彼らの歩みは、今日も続いていく。

#創作大賞2025  #ビジネス部門

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