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青森ヒバはウッドデッキで使えるか―①強度面での考察

まず、結論から言えば、使える。ハードウッドではないため適材ではないかもしれないが、針葉樹の中ではヒノキに次いで硬い方だし、含有する七員環トロポロン成分であるβ-ツヤプリシンや、類似する構造を持つβ-ドラブリンにより、抗菌作用があることはよく知られている。そのため、メンテナンスを怠らなければ、そこそこの年数を持たせられると思われる。

ソフトウッドとしての対抗馬は国産ヒノキ、同じヒノキ科の外材ウエスタンレッドシダー(WRC)となるだろう。WRCはデッキ材としてとても人気であるが、ヒノキをデッキ材に使うという例はあまり聞かない。おそらく、WRCの独特の色味が気に入られていることと、WRCがヒノキアスナロ(青森ヒバ)と同様の防腐・殺菌成分を有することが関係していると思われる。
(この効能について、青森ヒバvsWRCでどちらが優れているかという話はまた別項にて研究例を紹介したい。)

繰り返すが、どれもヒノキ科であり、単純に加重に対しての強度面で大きな差は無いのでは無いだろうか。林業試験場等のデータにより、国産材のデータは収集が容易であるので、WRCの存在はひとまず置いておいて、ヒノキアスナロが、国産のヒノキと同等の強度を持っていればとりあえずは問題ないと考えることとする。

それでは早速強度(曲げ強度)についてのデータを紹介しよう。
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中村昇:木材工業, 65(6), 246-249(2010) 
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010792491
曲げヤング係数平均
ヒノキ  105 (10^3Kgf/cm2)
アカマツ 102
ヒバ   98
スギ   74

※(10^3Kgf/cm2)=10 (kN/mm2) 通常は後者の単位を使うことが多いようなので、換算する際は×0.10した値と考えればよい。

曲げ強さについての<平均>では
ヒノキ  53.2(N/mm2)
ヒバ   45.2
アカマツ 43.7
スギ   39.8   

曲げ強さの5%下限値は
ヒノキ  35.5(N/mm2)
ヒバ   29.7
アカマツ 27.5
スギ   26.4

設計上実際に重要視されるのは、曲げ強さの平均値ではなく、5%下限値である。木の曲げ強度をグラフ化すると、山のような形を描くグラフとなる。サンプルのにはバラツキがあるからだ。おそらく正規分布するのだと思うが、バラツキが大きいと、なだらかな裾野の広い山となり、逆に安定していると、ピーク周辺に集中したとがった山を描く。
よって、バラツキが大きい樹種において、単純に平均値をその材の強度として認定するには、問題があるのである。そこで用いられている指標が、この強度分布の5%の下限値を安全率として採用するというものである。このことについては、下記に詳しい。

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ここまででわかることは、国産針葉樹の中では、ヒノキが最も強度がある。
次にヒバ(ヒノキアスナロ)である。両者は強度のバラツキも少ない。アカマツは平均値は大きいが、ばらつきが大きく、安定感のある材とは言えない。
しかしまぁ、ヒバは、思ったよりもヒノキよりも差があるな、という印象である。ただ、当然ながら木材の強度は産地の気候によって大きく異なると考えられる。できれば〇〇産の、という形で比較をしてみたいものである。

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では次に、やや古いが、青森ヒバに絞った研究例を紹介しよう。
守田,託満.青森県林業試験場報告,43(84-92),(1993)
こちらはフリーでネット上で閲覧できる。

上記文献より下記の2つの図表を引用した。

この研究は、県内17ヶ所の製材所で製材した、105ミリ角
(これは通常の住宅の軸部での一般的な柱寸法である。)
の柱を含水率15%で人工乾燥をしたものを規格により3等級に分け、強度試験を行ったものである。

当該研究の結果、
曲げヤング平均(10^3Kgf/cm2)
1級  107.8
2級  110.7
3級  108.9

曲げ強度 平均値(N/mm2)
1級  55程度(グラフから推定)
2級  50程度
3級  45程度

5%下限値 (N/mm2)
1級 40.6
2級 38.8
3級 28.8

以上当該研究をまとめると、
まず曲げヤング係数は3等級であっても中村(2010)より上である。
5%下限値に至っては、1等級-2等級は中村(2010)のヒノキのそれを凌駕している。

測定の方法により結果は多少異なるのだろうが、これにより、少なくとも青森に生息するヒノキアスナロ「青森ヒバ」においては、ヒノキと同等かそれ以上の強度を持つことが分かった。

今回はこのくらいにしておこう。







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