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『読書感想4』

「落ちた偶像」短編
         "The Fallen Idol"
Graham Greene  (1904~1991) 

フィリップの両親は、2週間の休暇に出かけます。その間フィリップは、召使い頭のベインズ夫婦と生活する事になります。

子供部屋の中だけで過してきた7歳のフィリップは、初めて地下室に足を運ぶ事にも不安を感じながら、大人の世界に入って始めて人生に触れた快い気分で過しています。

フィリップは、ベインズは好きでしたが、ベインズの細君は好きではありませんでした。細君は、神経質に口うるさく、こぼしながら動き回り仕事をします。ベインズと細君の関係も信頼と愛情がなくなっています。


フィリップは、街に出かけた時、ベインズが彼の姪だというエミーと逢っているところに出くわします。細君には秘密の事です。

その秘密を嗅ぎつけた細君は、「私が、その秘密を知っていることはベインズに話してはいけない。」と口止めし、企みごとをします。

細君が、留守をした日ベインズは大喜びして邸宅にエミーを招き楽しい時間を持ちます。帰宅した細君は、階段の上で夫ベインズと闘いをしているうちに、誤って手摺りから滑り階下の玄関に落ちま
す。

フィリップは、恐ろしさの余り邸宅から逃げだしそして、街角で警察官に保護されます。

フィリップは、ベインズを愛していたのに、ベインズは、彼を秘密や何だか解らない恐怖の中に引きずり込んだ、人を愛するとこう言う事が起こるんだ。巻き添えをくうのだ。

フィリップは、情け容赦もない自己本位の気持ちに駆られて、愛を、人生を、ベインズを振り捨てました。大人に裏切られた思いを「大人は大人の世界を守っていくがいい、自分は自分の世界を守っていこう。」と責任感を捨て、利己主義的な考えを芽生えさせます。


警察官が、フィリップを伴って邸宅を訪れた時、細君は、ベインズによって地下室に移されていました。

フィリップは、フィリップの目に何かを訴えかけるベインズを無視して、「細君は玄関ホールで死んでいた事、エミーがいた事を」警察官に話します。警察管は「白状したまえ」「その女は、誰だね」とベインズを責めます。

 
フィリップ60年の生涯の間、二度と人生に敢然と立ち向かうことはありませんでした。物語の最後は、一人の少年が、生涯、罪の意識を持ち続ける姿を描いています。60年後のフィリップが、一人看護している秘書を驚かせた言葉は「あの女は誰だね?」「あの女は誰だね?」という言葉でした。
彼は、死への道すがら絶望したベインズ、すっかり泥を吐いてしまって、うなだれたベインズの姿を見かけたことだろう。と結んでいます。


「第三の男」で有名なグレアム・グリーンは、ストーリーテラーに徹する作家で大衆作家としての地位を築いています。


原罪をテーマとしているこの作品もストーリーの転回の面白さは抜群です。

この作品は、1936年「地下室」という題名で発表されたものです。


読んで頂きありがとうございました。

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