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捨てないで、取っておく。[Footwork & Network vol.25]

 香川県にいたころ、地元の料理人の下で、塩つくりの釜で火をくべていたことがあります。木には、燃えやすい材質のものと、そうでないものがあって、燃えやすい材質の木は逞しく火が熾るけれど、灰になるのも早く、一方燃えにくい材質の木は燃えるのに時間がかかるけれど、一度火が付いたらパチパチと静かに音を立てながら長い間持続します。
 ワーカホリックに、ひたすら仕事を頑張る。そんな人を見ると、一度消えた火は戻らないのに、燃え尽きたりしないのかな。と思っていました。そんな考え方にすこし変化を起こしてくれた人、三上己紀さんを紹介します。三上さんは、いくつもの種類の木を使いながら、ずっと少年のような火を熾しています。

三上さんの働く場

 普段三上さんは、エコッツェリア協会が運営する大手町のサードプレイス、3×3 Lab Futureというところにいらっしゃいます。エコッツェリア協会とは、大丸有地区と呼ばれる、大手町・丸の内・有楽町のエリアのビルのオーナーや、テナントの方たちが集まり、地球に優しいまちづくりを一緒に考えていくことをコンセプトにできた協会です。現在は、「環境」というテーマのみにとどまらず、社会課題を解決するために、なかなか企業活動だけでは解決をすることが難しい課題を、広く大学や、自治体とも連携しながら、新しい解決策を探していく活動をしています。そこで三上さんは、研究調査室長として、研究活動のお手伝いをしたり、自身でレポートを書いたりする、研究調査をまとめる仕事をしています。またそのほか、立命館大学の客員研究員、東京工業大の非常勤講師としてゼミを2つ持っています。

いつも面白そうなことをしている人

 私は3×3 Lab Futureに通っていて、三上さんの姿は見かけていたのですが、なかなか話しかけることができずにいました。三上さんはパソコンの向こうの人と楽しそうに話していたかと思えば、3×3 Lab Futureの会員さんとお話をしていたりして、なかなか隙がありません。あとから聞けば、時には同時に2つのZOOMに入ることもあるとのこと。受け身な状態で伺っていたのでは、当然機会に恵まれることは無かったなと、今になり思います。

チャンスが来た!

 そんな状態で、3×3 Lab Futureに通うようになってから半年ほど経った12月、3×3 Lab Futureに通っている友人からCOG2022というコンテストに誘われます。COGとは、チャレンジ・オープンガバナンスの頭文字をとったもので、市民と行政が協働して新しいデモクラシーのカタチを見つけることを目指した一般社団法人です。そのCOGのコンテストは、全国から送られてくる自治体からの課題に対して、市民の提案するアイデアを審査していくものです。もともと友人にコンテストを紹介したのが三上さんだったということもあり、三上さんはアイディアを考える段階からアドバイザーとなって力を貸していただけることになりました。私たちは千代田区の課題テーマである「脱炭素社会の達成と、地域連携」を実現するアイデアを提案することにしたものの、脱炭素をどう達成するかという、課題が硬めであるだけに、どのような提案していけばいいか、かなりシリアスに考えてしまっていました。そんな中、「身の回りのことは何でも環境に結び付くから、やりたいことを出発点に考えていくといいよ」とアドバイスをしていただき、自分たちの興味関心に立ち戻って話すことになりました。私自身がラジオが好きだということもあり、アイディアとして生まれたのは、高校生のお昼の時間に、地域の異なる高校生の声を流し、そこで環境についての話をするというものです。身近に感じづらい環境問題も、同世代の高校生からカジュアルに語られることで、自分ごとまではいかなくても、「友達ごと」にはなっていくのではないか、という提案です。三上さんも「息の長いプロジェクトにしていきましょう」と言っていただき、エコッツェリア協会主催のプロジェクトになり、エコ結び基金からの金銭的なサポートも得ることができるようになりました。

収録時の様子

マイクから離れたときにこぼれた言葉


 高校生に向けてラジオを流す活動をしてく中で、プロジェクトメンバーである高校生と、カーボンニュートラルの専門家である三上さんによる対談形式の番組を収録することになりました。3×3 Lab Futureの部屋を借り、「そもそもカーボンニュートラルって何なの?」「CO2って減らさないといけないものなの?」といったような素朴な疑問をぶつけるラジオです。30分ほど順調に収録が進んでいた時のことです。インタビューアーの高校生が、少し言葉に詰まりました。録音を担当していた私はいったん休憩時間を取り、オンエアのライトを消しました。一息ついて、高校生と三上さんが談笑する中で、高校生が「宇宙に行ってみたいんですよね。」と三上さんにこぼしました。すると、真剣な目で、「自分も宇宙行ってみたいと思う方なんですよ」と三上さん。「もし宇宙に行ってみたいと考えるなら、どうやってビジネスや自分のテーマを宇宙につなげるかってことを考える。例えば、教育がやりたいのであれば、宇宙のことを教育にどう取り入れるかっていう地上側からの活動もあるんだけど、例えば、宇宙空間で教育活動をするためには何が必要かっていうテーマを立てる方法もあるんですよ。」と別の見方を高校生に伝えます。すると高校生は、「確かに宇宙で授業ができたら、黒板も椅子も机もなくて、泳ぎながら授業するんですかね」と笑顔に。三上さんは、「自分は発想が古いのかな、上も下も横も全部黒板かなぁって思っちゃう」と、笑いながら話します。
 そして続けて、「そういう別に軸を持って、自由に話せることは大事だと思うし、枝葉をつけていく癖は絶対なくさないでほしい。やっても無駄な事や、考えても無駄な事ってないからね。」と、優しい口調で伝えていました。

無理やりつなげず、パラレルに押していく

 「枝葉を付ける癖をなくさないでほしい」という言葉が、同じ空間にいた自分に言われているような気がしました。三上さんは、協会で活動しながらも、大学でゼミをし、さまざななプロジェクトに関わっています。それは、単にフットワークが軽いからではなく、自分の関心のあることを捨てずに、大切にとっておいてきたからだと感じました。活動のウェイトは、その時々の状況によって変化しながら、例えいったんストップしたとしても、やりたいことを決して捨てず、それを「ストックしておく」と表現します。
 「同時に走らせておけば、いつか突然降ってくることがあるでしょ。だから道は一本じゃなくて、何本も走らせておくんですよ。」三上さんの言葉からは、例えいまの「本業」が食べていくための仕事で、好きなコトは他にあるとしても、それらを無理やり一つに束ねようとしないで、取っておきながら同時に走らせていくことで、結果的につながる。そんな考え方を感じました。

熾火は復活する


「枝葉を付ける」ことは、短期的に見れば遠回りで、効率的とは言えないかもしれません。正直なところパラレルに進めていくことはしんどい場面もあると思います。「何かを得たいなら、何かを捨てろ。」という声が聞こえてきそうです。けれど、プランドハップンスタンスの考え方にも通じるように、その枝葉が新しい可能性を拓くきっかけになるかもしれず、その人を動かす燃料になると思いました。

 燃え尽きたら終わりだと思っていた自分ですが、塩つくりの作業を終えて何時間か経ち、釜に戻ったときのことを思い出しました。灰に埋まった炭を取り出すと、まだ煌々と透明な熱を宿していて、それを注意深く団扇で仰ぐと、いくつもの色を出しながら再び燃えたのです。
 熾火に息を吹き込めば再び燃えるように、体の中に熱を秘めておけば、またいつでも火は熾る。枝葉をつけていきながら、それらを捨てないで、取っておくという三上さんの言葉を聞くと、そんな熾火のことを思いだします。

【三上さんの働く場所であり、出会った場所】

【COG2022のコンテストを主催した団体】



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