役人の名刺

名刺を作った。

某省に就職してかれこれ十数年、当然ながらこれが初めての名刺というわけではないが、自分でIllustratorでデザインしてネット印刷業者に発注したのは初めてだ。

まったく面白い話ではないのだが、役人の名刺事情には少々驚かれる方も多い。
せっかくなので、そのあたりをつらつらと書いてみたい。

ばらばらの名刺

一口に「役所」といっても、中央省庁や地方自治体など様々で、それも1府12省庁に47の都道府県、1741の市町村というように、まず組織がばらばらである。
そのような組織の違いで名刺がばらばらである、ということも言えようが、ばらばらなのは1つの組織の中でもそうなのだ。
というのも、基本的には(役人的エクスキューズ)、役人はそれぞれ勝手に自腹で名刺を作るからだ。

作る方法にはいろいろあって、WordやPowerPointを使って市販の名刺用紙にプリンターで出力するという人もいれば、名刺屋さんに部署名や氏名、連絡先を伝えて注文する人もいる(Illustratorを使って作る役人はおそらく少ない)。

そういうわけで、それぞれの役人が勝手にデザインを決めて作るので、同じ組織でも(同じ部署でも)、人によって全然違う名刺になる。
ただ、役所のロゴマークが決まっていることが多いせいか、なんとなく似たような雰囲気になってしまうのはいかにも役人の性というところだろうか。

名刺あれこれ

役人の名刺の話といえば、やはり環境省だ。
リサイクルの啓発活動なのか何だかよく知らないが、環境省職員は本当に「チラシの裏」のようなペラペラな名刺を使っている。それこそ人によって違うのかもしれないし、今はもうそんなことはやっていないかもしれないが、ペラペラな名刺をドヤ顔で渡されてもなかなか反応に困る(という方もいるのではないか)と思う。

ほかの省庁で特徴的と言えるのは経済産業省で、ここは名刺印刷機を使って作るので、見た目には統一感がある。統一感があることが特徴的、というのは皮肉かもしれない。

有名どころではそのあたりだが、各省庁や各部署によっては、職員の自腹ではなく庶務担当が準備したりすることもあるので、一概には言えないというのが実態だ。
そんなわけで、とにかくばらばらなのである。

地方自治体の名刺事情

地方自治体について言えば、ふるさと納税や移住促進の取組に表れているように、人や金を奪い合う競争の様相を呈しているので、名刺一つとっても必死である。
名産品の写真を入れたり、ふるさと納税の宣伝を入れたり、メッセージカードと見紛うような名刺を頂いたこともある。趣旨が違うが、プロモーションのために「観光名刺」を作っている地方自治体も少なくない。

昨今、東京都の税財源の在り方が俎上に上っているが、東京都の職員の方々の名刺はかっちりとしたフォーマットだったような記憶がある。概して言えば、大都市の職員の名刺はすっきりしていることが多いように思う。

名は体を表す、ではないが、名刺は組織を表す、と言えるのかもしれない。

これでいいのか役人の名刺

どうでもいい。
と言うと身も蓋もないが、役人の名刺を偽造して詐欺を働いたことが問題になっている、ということも(おそらく)ない。役人の名刺が自腹だというのも、だから何、という声が頭の奥から聞こえてくるようだ(疲れているのかもしれない)。

営業に行くわけでもなし、名前と役職と連絡先が分かればそれで十分、立派な名刺を持ってもろくなことはない(文脈が違うかもしれない)。

そういえば、これを書いていて、上司が昇任したときの様子をふと思い出した。
指定職、いわゆる幹部職員で、関係する他省庁や企業などあちこちに新任挨拶に行くのだが、そのために秘書さんが市販の名刺用紙を買ってきてせっせと新しい役職の名刺を作っていた。
名刺屋さんに発注するよりも安く、すぐに作れるので合理的ということかもしれないが、フチが少しギザギザで薄っぺらい紙を使った幹部の名刺を見て、少し寂しさを覚えたのだった。


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