都道府県・市町村の普通会計決算を読む

9月27日、都道府県と市町村の平成29年度普通会計決算の概要が総務省から発表されました。
平成29年度都道府県普通会計決算の概要(速報)
平成29年度市町村普通会計決算の概要(速報)

一般的に、翌年度にどのような政策・事業を行うかということが分かる「予算」が注目されがちですが、実際にどのような結果になったのかということが分かる「決算」も、地方自治体の財政状況を把握するためには重要です。

今回発表されたのは「速報」であり、11月末に公表されるはずの確定値で内容が変わりうるものですが、全体的な傾向が大きく変わることは考えにくいため、これに基づいて地方自治体の決算について見てみましょう。

普通会計決算の速報とは

まず、「普通会計」の定義を確認してみましょう。
地方財政白書では、普通会計について、「個々の地方公共団体ごとに各会計の範囲が異なっているため、財政状況の統一的な掌握及び比較が困難であることから、地方財政状況調査上便宜的に用いられる会計区分」と説明されています。
実際には、各地方自治体では(国と同じように)「一般会計」や「特別会計」という会計区分が用いられますが、地方自治体によってどの会計に計上するかなどの違いがあるため、全国的な統計として用いられている会計区分が「普通会計」です。大雑把には一般会計に近いものと言えるでしょう。

さて、普通会計の定義には「地方財政状況調査」という言葉も出てきていますが、これは、総務省が各地方自治体の普通会計決算の数値を取りまとめるための調査のことをいい、一般的に「決算統計」とも呼ばれます。

そして、「速報」の意味ですが、例年11月末に公表されている確定値とは二点違いがあります。
一点目は、取りまとめられている対象に「一部事務組合」と「広域連合」が含まれていないということで、これらは確定値では市町村分に含められます(このため、都道府県分は確定値でも「速報」と違いがほとんど生じません)。
二点目は、「純計」が行われていないということです。「純計」というのは、地方自治体どうしで重複している額を控除する(差し引く)処理のことをいいます。都道府県と市町村の間では互いにお金のやりとりがあるため、地方自治体全体の財政を把握するためには重複計上された分を差し引く必要があります。(これにより、都道府県と市町村の普通会計決算の確定値の公表の際には、地方自治体全体の普通会計決算も公表されます。)

ここまでが前提です(これでもかなり説明を省略しています)。
ちなみに、過去の普通会計決算の概要は以下のページで公表されています。
総務省|地方財政の分析|普通会計決算の概要

決算の規模

都道府県と市町村の普通会計決算の概要で、冒頭に書いてあるのが、決算の規模(金額の大きさ)です。
平成29年度決算では、歳入・歳出ともに、都道府県では前年度から減少して約50兆円、市町村では前年度から増加して約60兆円弱となっています。

これらを単純に合計すると約110兆円となりますが、先に述べた「純計」により、地方自治体全体の財政(いわゆる「地方財政」)の規模としては約100兆円程度になると考えられます。
つまり、地方自治体全体の決算規模は、国の一般会計の決算規模とほぼ同じ程度です。なお、国の決算については以下の財務省のページで公表されています。
平成29年度決算 : 財務省

また、決算規模の内訳を見ると、東日本大震災に係る復旧・復興事業等を取り出した「東日本大震災分」が、都道府県でも市町村でも減少しています。
傾向としては、東日本大震災の復旧・復興事業が進んできていることの表れと言えるでしょう。

増減の主な要因

歳入と歳出の決算について、額が増加した要因(増要因)と額が減少した要因(減要因)について様々な内容が記載されていますが、あくまでも全国的に共通して言えることとして挙げられているものです。
そのため、全国的な経済状況や国が行った制度改正による要因が中心になっています。

たとえば、都道府県・市町村ともに「地方税の増加」とあります。特に都道府県については「6年連続増加」となっており、地方税収は回復基調にあると言えるでしょう。

また、「県費負担教職員に係る給与負担等の政令指定都市への移譲」という言葉が目立ちます。これは国の制度改正によるものです。
基本的には、市町村の小中学校等の教職員の給与は都道府県が負担し、その人事権は都道府県教育委員会が有していますが、特例として政令指定都市の学校の教職員の人事権は指定都市教育委員会が有しています。つまり、政令指定都市に関しては、人事権者と給与負担者が異なる状態となっていました。平成29年度に、都道府県から政令指定都市へ給与負担の移譲が行われ、それが決算にも表れています。
この制度改正については、以下の文部科学省のページにイメージ図があります。
県費負担教職員の給与負担等の移譲について
ちなみに、市町村の歳入の増要因にある「道府県民税所得割臨時交付金等による地方消費税交付金等各種交付金の増加」というのは、この制度改正に伴う財政措置が主な要因となっています。

さらに、市町村の歳出の増要因に「保育所運営費、障害者自立支援給付費の増等による扶助費の増加」とあるように、社会保障関係経費の増加という傾向は、どの地方自治体にとっても頭の痛い問題でしょう。

決算収支

「決算収支」は、決算上の収支(収入と支出の差し引き)を示しています。
主なものとして「実質収支」と「実質単年度収支」の二つが記載されていますが、地方自治体の収支が「黒字」か「赤字」かというときには、一般に「実質収支」が用いられます。

国は巨額の財政赤字だと言われているにもかかわらず、地方自治体はほとんどが黒字になっているわけですが、地方自治体は国と違って単純に赤字だからと言って借金できないという事情があることを考慮する必要があります(例外について「借金の残高」で後述します)。

ちなみに、実質収支と実質公債費比率の違いについては、公表されている「別紙」(PDF)の最後で以下のように解説されています。

実質収支とは、歳入決算額から歳出決算額を単純に差し引いた額(形式収支)から、翌年度への繰越し財源(継続費の逓次繰越[執行残額]、繰越明許費繰越等に伴い翌年度へ繰り越すべき財源)を差し引いたもの。これには過去からの収支の赤字・黒字要素が含まれている
実質単年度収支とは、実質収支から前年度の実質収支を差し引いた額(単年度収支)から、実質的な黒字要素(財政調整基金への積立額及び地方債の繰上償還額)を加え、赤字要素(財政調整基金の取崩し額)を差し引いたもの。当該年度だけの実質的な収支を把握するための指標。

財政指標

地方自治体の財政状況を分析するための指標として、「経常収支比率」と「実質公債費比率」が記載されています。
財政指標としては、これらのほかにも、各地方自治体の財政力を示す「財政力指数」や、将来財政を圧迫する可能性の度合いを示す「将来負担比率」などがあります。

経常収支比率と実質公債費比率は、地方自治体の財政の弾力性(柔軟に財政運営できているかどうか)を示しています。

経常収支比率は、人件費など毎年度経常的に支出される経費と、地方税や普通交付税など毎年度経常的に収入される財源の値により算出されます。
経常収支比率が高いほど、財政の弾力性が低く硬直的になっており、独自の政策や事業が行いにくい状況にあると言えます。
経常収支比率は、ここ十年以上90%を超え続けており、それをもって地方財政が厳しいと言うことがありますが、社会保障関係経費の増加や国の制度改正などにより、地方自治体の財政構造そのものが変化してきているとも言えるでしょう。

実質公債費比率は、地方自治体の借金(地方債)の返済額の大きさを指標化して資金繰りの程度を示すもので、その値が低いほど借金返済の負担が小さいと言えます。
この実質公債費比率は、ずっと低下傾向にあります。
これは、原則として地方自治体は赤字を埋めるための借金ができず、(公共施設の整備など)借金できる場合が限られていることを踏まえると、借金してまで事業を行うことを控えているとも言えるでしょう。

借金(地方債)の現在高

地方自治体の借金(地方債)について、上述した「実質公債費比率」は割合ですが、規模を示すのが現在高(残高)です。

地方債現在高は、都道府県では前年度から6,556億円減少して約88兆円、市町村では前年度から404億円増加して約55兆円と巨額ですが(もっとも、国はそれどころではなく巨額ですが)、その内訳にも留意する必要があります。

内訳として、「臨時財政対策債」を除いた地方債現在高を見ると、都道府県では1兆3,374億円減少して約55兆円、市町村では4,721億円減少して約35兆円です。
つまり、臨時財政対策債を除いた地方債は減少している一方、臨時財政対策債の残高は増加しているということになります。
臨時財政対策債は、平成13年度に導入されたもので、簡単に言えば、地方自治体の財源(地方交付税という形で地方自治体に配られる財源)が不足しているため、その不足分を地方自治体が借金して穴埋めするという仕組みです。
これは例外的な仕組み(地方財政法第5条の特例)であり、地方財政に関して大きな問題となっています。

決算から見えること

それぞれの地方自治体の財政状況は、老朽化した公共施設の整備を行ったとか住民が減って税収が減ったとか様々な事情があり、千差万別です。
それぞれの地方自治体が独自に財政運営を行っているため、全国的な状況を踏まえつつも、それぞれの地方自治体の決算を見ることが必要です。

また、都市と地方の格差が叫ばれる中、全国の地方自治体をまとめて見るだけでは、地方財政の問題を語るには足りないかもしれません。

しかし、今回公表された都道府県・市町村の普通会計決算の概要は、国と地方という関係性において、財政の現在の状況を把握してこれからの在り方を考えるために、一つの重要な材料となるものと言えます。

(なお、昨年、地方財政の議論の中で大きな話題となった「基金」については、機会があれば書いてみたいと思います。)

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