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ロックンロールの成り立ちについて


今月はテレビで映画『Back to the Future』のシリーズ3作が放送されているらしいです。奥さんが録画してくれているもののまだ見直せていないんですが、1作目の後半のシーンはよく覚えています。
マーティ・マクフライ役のマイケル・J・フォックスが1950年代のパーティーでギターを弾き、それを黒人がチャック・ベリーに電話をして聴かせて、それがロックンロールの誕生に繋がるというちょっとしたジョークがあるんですよね。

僕も「ロックンロールがこんな風に未来から来た人が作った音楽だったらロマンチックでいいな~」と思っていましたし、未だにロックンロールがそれぐらい奇跡的な生まれ方をした音楽だと思っているフシがあります。

今になってよくよく考えてみると、このシーンは「黒人が作ったロックンロールを白人が作った事にしようとする歴史修正主義なんじゃないか」という批判があってもおかしくないかもなとも思います。

しかしもう少し考え込んでみると、ダックウォークをして定番のリフを弾くマーティ・マクフライの頭の中には確実に「これはチャック・ベリーの模倣である」という事があったわけで、そうなると「ロックンロールは白人が作った」とはやっぱり言えない構造になっているよな、と僕は思っています。もし監督が本当に「ロックンロールは白人が作った」という事にしたいのであればチャック・ベリーを知らない白人の少年にハプニング的にダックウォーク的な動きをさせて、それをチャック・ベリーが真似する、という描き方にする事もできなくはないと思うんですよね。まぁ本当にちょっとしたジョークのつもりで撮られたシーンであり、その辺の人種的な問題については割と無頓着だったんだろうなと思います。

そんな事をわざわざ考え直していたのは、やはり現在アメリカでまたBlack Lives Matterの運動が加熱しているタイミングだったからです。
この運動の影響を受けてNetflixは教育向けドキュメンタリーコンテンツ『13TH』の一部をYouTubeで無料公開していて、僕も見ました。

13TH | FULL FEATURE | Netflix

そういった事もあり、僕はといえば今一度「ロックンロールってどうやって作られたんだっけ?」というような事を思い返していました。もれなくしっかり書こうとするとなかなか一つの投稿ではまとまらなくなりそうだったので、今回はロックンロールの成り立ちについて手短に書きます。知っている人にとってはたしかめ算的な当たり前の事しか書かないかもしれませんが、ご容赦ください。最近は当たり前の事でもいちいち記録しておかないといけないようなご時世かな、という気持ちもあり。

ロックンロール(Rock 'n' Roll)という音楽は1950年代にアメリカで生まれた音楽です。黒人のブルースやR&Bと白人のカントリーの音楽が混ざった音楽にラジオDJであるアラン・フリードが「ロックンロール」と名付けた、というような事がよく言われる説明のされ方です。

もう少しつっこんで言うと、1950年代っていうのは色んな事が人種隔離されていたらしいんです。バスやレストランもそうですし、ラジオもそうでした。黒人の音楽はほとんど黒人向けのラジオ番組でしかかからなかった。その時代にアラン・フリードが白人向けのラジオ番組で黒人の音楽をメインにかけまくったんです。当時黒人の音楽は(Race Musicという呼称を経て)R&Bと呼ばれる事が多かったけれども、白人向けの番組でR&Bと紹介しながらそれらをかける事は難しい。そこでアラン・フリードは黒人の音楽を「ロックンロール」と紹介しながらかけていったと。

ここでもう一つアラン・フリードが偉いなと思う点があります。当時は黒人が作ったR&Bのレコードが少し話題になると、白人のミュージシャンが白人向けに似たような曲、または同じ曲を作り直してレコードを販売していたらしいんですね。そうすると元の黒人のレコードはポップスチャートには入らなくなってしまう。そういう状況の中でアラン・フリードは「白人向けに作り直されたレコードはかけない」と決めて黒人のレコードばかりをかけまくったという事らしいです。

勿論エルヴィス・プレスリーやバディ・ホリー、カール・パーキンス、エディー・コクラン、ビル・ヘイリー、ジェリー・リー・ルイスなど白人でもかっこいいロックンロールはあるのですが、元々アラン・フリードが「ロックンロール」と名付けた音楽は黒人の音楽であったという事、これは今一度強調しておいてよい事だろうと思います。

ロックンロール以前のブルースやジャズ、R&B、カントリーなどの音楽がどのようにしてロックンロールになっていったかについてはJim Dawson and Steve Propes の「What Was the First Rock 'n' Roll Record?」という本にもっと詳しく書いてあります。

Jim Dawson and Steve Propes「What Was the First Rock 'n' Roll Record?」

ロックンロールの成り立ちにおいて重要な50曲が紹介されています。和訳された本は出ていないのですが「最初のロックンロールはなんだった?」というような調子でネット上で和訳を試みていた方がいて、それを読んだ事があります。今もどこかにあるんだろうか・・・?

せっかくなのでその本で取り上げられている50曲をプレイリスト化しました。

「What Was the First Rock 'n' Roll Record?」Spotify

「What Was the First Rock 'n' Roll Record?」Apple Music

(リンクがうまく飛べない場合は「クラーク内藤」と検索してアーティストではなくユーザーの方を見つけてもらえればプレイリストを公開しています。)

1944年から1956年までのアメリカの音楽で、R&Bをメインとしながらも白人のカントリーなども少し含まれています。

もう一つ、ロックンロールの成り立ちを知る上で面白かった本が大和田俊之さんの『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』です。

大和田俊之『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』

「What Was the First Rock 'n' Roll Record?」は主に音楽的な所にフォーカスを当てて解説しているのですが、大和田さんの本は当時の社会情勢などを踏まえながらロックンロールに限らないアメリカの音楽史を解説していて、凄く面白かったです。

なにしろ本を読んで欲しいので詳しくは書きませんが「ラテン音楽から派生した音楽としてロックンロールやアメリカの音楽を捉え直してみる」という動きがあるというのは楽しみだなと思いました。確かに白人と黒人だけで考えると同じくロックンロール・クラシックであるザ・チャンプスの「Tequila」とかリッチー・ヴァレンスの「La Bamba」とかをうっかり忘れてしまいがちになります。

そして、そうなってくると僕が気になるのは「じゃあインディアンの人達はロックンロールとどう関わってきたんだろう?」という事です。またはインディアンの人達はロックンロールとどのように関わってこなかったか?という事が気になっています。

僕の好きなギタリストでリンク・レイという人がいまして、この人はインディアンの血を引いているんです。1958年に「Rumble」というレコードを出してインスト曲にも関わらず音の乱暴さからラジオで放送禁止になる、という(僕としては)快挙を成し遂げた人です。「Shawnee」「Apache」「Comanche」というインディアンの部族名をタイトルに冠した曲も作っています。

そのリンク・レイ達が出演する「ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち」というドキュメンタリー映画が今年8月に日本で公開されます。

映画『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』予告編

何年か前に海外で公開された事を知って日本での公開をずっと待っていたので凄く嬉しいです。この映画を待ちながら、インディアンについてはもう少し調べてから機会があればまた何か書きたいなと思っています。

(アメリカ先住民の人達の呼称についてはネイティブ・アメリカンといった呼び方もあり、どれがベストかという事についても諸説あるようですが、現時点では本人達がインディアンと呼ばれる事を望んでいるという情報も見た事もあり、この映画のタイトルでも「インディアン」という言葉が使われている事もあるので、ここでは「インディアン」と書いています。)


書き漏れた事を付け足すと、ロックンロールという言葉は「セックス」を意味するスラングであり「バカ騒ぎ」といった意味も含まれるようです。アラン・フリードの造語というわけではないです。アラン・フリードが好きだったワイルド・ビル・ムーアというミュージシャンが「We're Gonna Rock, We're Gonna Roll」「Rock and Roll」といったタイトルのレコードを1948年に出しているのでそこからとったのではないかと思われます。
余談ですが、ヒップホップもやはり「パーティーしよう」というような意味合いの言葉をアフリカ・バンバータの周辺の人達が使い始めた事でジャンル名として定着したのだと記憶していますが、1964年にThe Savagesというバンドが「Hip Hop」というレコードを出しています。全然ヒップホップっぽくないし、ガレージパンクとしてもまぁまぁの曲です(笑)。

The Savages「Hip Hop」


もう一つ余談。ここ数年は日本の民謡を聴きまくっていたのですが、日本民謡を通過した耳で20世紀前半のアメリカのブルースを聴いてみたら「あ、これも当時の黒人の民謡なんだな」という事が感覚的にやっと少しずつわかってきました。ブルースにアメリカの土着的なフォーク(民謡)っぽさを見出しつつ、それをロックンロールに繋げていくという事もこれからやっていきたい事ではありますが、それが言語化できるのはいつになるのか・・・。アラン・ローマックスや小泉文夫の著作ももっと読まないといけないだろうなとも思っています。

音楽や詩などの芸術的な創作物は、現在を克明にレポートする事もありますが、結果的にあるべき未来を描く事もあると思います。ここに書いた音楽を思い返してみて、僕は極めて無自覚に「人種問わずロックンロール最高」とずっと感じてきたのだなと思います(ここでは書かなかったですが、平尾昌章とかの日本の1950年代のロックンロールも好きです)。未だに人類が平等になっていない21世紀というのは、ロックンロールが僕に見せてくれた未来の姿にはまだ全然追い付いていないんじゃないか、と最近よく思います。

 Little Richard - Keep a knockin' 

https://youtu.be/FZdLDRW57oc




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