岡田将生研究⑩バディものの原点「チキンレース」

 2013年は、岡田将生のドラマ俳優としてのキャリアにおいてその後のステップアップを予感させる重要な年であった。4月には藤原竜也とW主演を務めたSPドラマ「ST~警視庁科学捜査犯」。このドラマは「ST~赤と白の捜査ファイル」として後に連続ドラマと映画が製作された。秋には熱烈なファンを持つ話題作「リーガルハイ」(主演堺雅人)に主人公の敵役として出演し、ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞。その後の弁護士役のオファーの原点となる。そしてその「リーガルハイ」放送中の11月にWOWOW初の4K作品として発表されたのが「チキンレース」。名優寺尾聡との友情を描いた爽やかな佳作で文化庁芸術祭優秀賞、ギャラクシー賞月間賞、東京テレビドラマアワード優秀賞(単発ドラマ部門)などを受賞した。

 岡田のバディものと言えば、前述の藤原との「STシリーズ」は欠かせないが、2013年のスペシャルはバディ結成過程のストーリーなので、最初のバディものとしては「チキンレース」に軍配をあげたい。「実年齢42歳差の親友」と言う触れ込みで話題となった本作だが、本編109分のうち実に約50分が寺尾氏と岡田の2人芝居で構成されているのも興味深い。

 19歳のときにチキンレースで海に転落し45年間眠り続けた主人公飛田(寺尾聡)と、看護師の神谷(岡田)の交流を描いたヒューマンドラマ(脚本岡田惠和、監督若松節朗)。飛田は実年齢は64歳だが精神年齢は事故当時の19歳のまま。20代半ばの神谷をオッサンと呼び誰よりも信頼を寄せる。一方神谷は医者の一家に生まれ育つが、医者になれずに看護師になったというコンプレックスを抱える青年。飛田のファンタジックな背景に、神谷の成長物語というベタなストーリーが加わり、絶妙なバランスを保ちつつ、北海道の美しい景色に浄化される清々しいドラマに仕上がっている。

 上記のような夢物語を傑作のレベルに成功させるには、脚本、演出、演技にかなりの力量が要求されるのは言うまでもない。飛田は、64歳の外見で心が19歳に見えないといけないし、神谷は、奔放な飛田に対して目上の人に接しているようにふるまいながら19歳相手に話しているように見えなければならない上、看護師としての慈愛の表現も必要になる。さらに、飛田は徐々に現実を受け入れる演技、神谷は心の成長の演技まで求められる。これらが全て自然に行われ、視聴者に爽やかな感動まで与えるのだから恐れ入る。

 本作は、2人の会話のやり取りが、実に心地よい。寺尾氏が「おじいちゃんと孫に見えたら成立しない」と言っているように、演技のバランスや存在感のバランスが保てていないと「親友」という設定の説得力に欠けるのだが、ベテラン俳優と若手俳優だということを忘れさせられるくらいに素晴らしい。岡田に対しても「一緒に芝居をするのが楽しい」「年齢を超越した兄弟のような仲間のような雰囲気を感じている」とコメントしている。

 また「太陽と海の教室」以来5年ぶりに岡田と仕事をともにした若松監督は「あまりの成長に驚いた。ナチュラルな感受性を持ち、素直でストレートな表現力があり、寺尾さんとのカップリングも最高」と絶賛している。大先輩相手でも物おじすることなく、体当たりで演技に挑むことのできる度胸の良さは、岡田の持ち味であり魅力の一つなのだろうと感じる。

 バディものと肝となるのは、2人の掛け合いにつきる。役としての魅力だけでなく「この2人が見たい」と視聴者に思わせる、バディならではの魅力を共同で作り上げる必要がある。会話のテンポや間、受けの演技の技術を身に付ける上で、偉大なる先輩とのタッグは岡田にとって大きな財産になったに違いない。この後、先に述べた「STシリーズ」でバディものの本領を発揮し、2015年「不便な便利屋」ではトリオのジャンルでも視聴者を引き付けた。近年は後輩とタッグを組み「タリオ~復讐代行の二人」「さんかく窓の外側は夜」など、今やバディものは岡田の得意分野となった。

 2022年秋、テレビ朝日木曜9時枠「ザ・トラベルナース」。発表されたドラマのあらすじから大御所中井貴一とのバディものの予感に期待が大きく膨らむ。大先輩とのタッグというだけでなく、看護師役というのも「チキンレース」と共通するところ。普段は清掃員で圧倒的スキルを持つ伝説のスーパーナース(中井)を相棒に、意識もプライドも高く一見感じの悪い若きトラベルナース(岡田)を魅力たっぷりに演じてくれるはずだ。

 


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