ヒューマンスキルの分析、構築

Human Skillの分析、構築について。

1.Human Skillの内容

 Human Skillとは、下記のとおり対人(人間集団)関係構築能力を言うものとする。
https://note.com/citypark/n/n1908eb5e454b#1FmcK

"対人(人間集団)関係構築能力"
ウ-1)対個人コミュニケーション能力
ウ-2)対人間集団コミュニケーション能力
ウ-3)上記を支えるコミュニケーションツール(英語、ゴルフ等)

 コミュニケーション能力を、課題解決のための対話力とおく考え方もある。しかし、ここでは、更に根本的なスキルである、人・集団に好意を向けられるスキルととらえる。そして、交渉力や文章力、政治力等の、具体的に仕事を進める際に必要な個別スキルはテクニカルスキルに分類する。

 人間の行動は、感情・欲求から生まれる。そのため、人・集団に好意を向けられ、ひいては協調的な社会生活を送るためには、他人に、この人が好きである、この人のために何かしたい、もしくは何かしないと自らに不利益になる、という感情・欲を起こさせる必要がある。

 しかし、人には原始的に自己中心主義がプログラミングされており、何も働きかけなければ、他人が自らに対して自発的かつ好意的な行動をする/態度をとることを期待できない。そこで、自己中心的な自らの本能を抑え、一方で自己中心的な他人に働きかけることにより、他人の自発的・好意的な態度・行動を促すことが必要になってくる。

2.人の欲求

 他人が自らに対して自発的・好意的な態度・行動するよう促すためには、当該他人の欲求を分析し、その欲求に適う/阻害しないようにすることが考えられる。人の欲求は下記に分類できる。

1.生理的欲求
食欲、睡眠欲、排泄欲、性的欲求
2.安全欲求
予測可能で秩序立った状態(健康、安全、規則等)に対する欲求
(含、未知、無秩序、予期不可能の恐怖から免れたい欲求、好奇心充足欲)
3.所属と愛の欲求
自らの所属する集団及び特定の人間関係において、所属したい、受け入れられたい、必要とされたい、という社会的・人的関係性の欲求
4.承認欲求
自己承認・自尊心の欲求と、他者による尊敬・承認の欲求
5.自己実現の欲求
自らの能力や可能性を最大限発揮し、自らがなりえるものになりたい欲求

3.Human Skill醸成の基本スタンス

 人は自らの欲求を満たすことに執着しすぎて、他人の欲求を軽視しがちである。Human Skill醸成の基本スタンスは、自己への執着から逃れ、ありのままの自己を受容するとともに、他者を信頼他者に貢献をすることで、他人の欲求充足を助ける/阻害しないことである。
 特に、コミュニケーションの場で関連が強い、安全欲求、社会性欲求、承認欲求を充足させること/阻害しないことがポイントになる。

4.具体的なコミュニケーションスタイル

 以上を踏まえ、具体的にとるべきコミュニケーションの基本スタンスは以下となる。

(1)誠実な関心を寄せる/心から関心を持つこと
人の行為、態度、言葉など人の振る舞いの全てから、その人が他人に心から・深く誠実な関心を持つ人かどうかが表れる。
(2)笑顔でいること/上機嫌でいること
笑顔は、「私はあなたにとって友好的な存在である」ということを相手にアピールし、互いを安心させる。逆に笑顔がないと、緊張関係を作ってしまう。笑顔は、自分の中にある「喜び」や「楽しさ」といったプラスの感情が溢れたときに現れる表情。好意を向けられていると思うので、好意の返報性が発揮される。
(3)どんな話題・モノに興味があるか見抜き、それについて話せるようになっておくこと
(4)まず褒めること
「わたしは、これまでに、世界各国の大勢の立派な人々とつき合ってきたが、どんなに地位の高い人でも、小言をいわれて働くときよりも、ほめられて働くときのほうが、仕事に熱がこもり、出来ぐあいもよくなる。その例外には、まだ一度も出あったことがない」
「人を動かす」デールカーネギー P.42
(5)自信を持ち、それを態度で表すこと(根本的に存在する対人コミュニケーションにおける緊張関係を解き、人間関係をビルドアップするために寄与する心理的安全が確保される環境を作出・維持すること)
具体的には、
・相手に体を向けて目を見て話すが自然体であり
・よく響く落ち着いた声で話し
・心を開きながら、高慢さはなくリスペクトがありフェアである
・物事を白か黒かだけで判断するのではなくグレーゾーンも受容できること
・何事もジョークを含めて面白くコミュニケーションできるポイントを理解していて
・文化的背景や経済発展段階が異なる環境で育った/生活する人への説明にも、ケースバイケースでロジック立てて説得力をもって伝えきれる語学力があり
・他人の注目も集めるが、プレッシャーは感じず、蔑まれもしない

特に自己に執着してやりがちな行動があるので、下記には特に気を付けるべである。

(1)議論を避ける
 原則として、議論をすることによるメリットはない。例外的に議論をするメリットがある場合も、そのメリットが他の手段によって達成できるか検討する。
 「およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない」
(2)誤りを指摘せず、相手の意見に敬意を払う
指摘せずに、誤りを思いつくよう誘導する
(3)自らの誤りを認める
(4)おだやかに話す

相手を自分の意見に賛成させたければ、まず自分が味方だとわからせること
(5)意見が対立する議題をはじめに出さない
人を説得するときはNoを言わせない
(6)相手の立場に同情し、よく考え方を理解する
(7)命令をしない自主的に行動するように仕向ける
(8)メンツをつぶさない
人間としての尊厳(重要感)を傷つけてはならない。
(9)期待をかける(期待に沿おうと努力してくれる)
批判を控え、ほめるほうに力点を置けば良い行動が定着し、悪い行動は抑制されることが立証されている
(10)礼儀を守る
何かを人に頼む場合も、①相手に期待する協力は何で、②相手の望みは何か、③協力すると相手の利益になるか、④相手の利益だけを考え、⑤守れない約束はしないこと、を要素とする。

5.人の思考パターン/癖

 なお、この際、人の思考パターン/癖には下記のようなものがあるから、これをコミュニケーション上のキーポイントとして適宜活用する。

判断のヒューリスティック
 人は、人や物について判断するときに、全情報をつぶさに検討し総合考慮して判断するのではなく、全体を代表するたった一つの情報(例えば下記の要素のうち1つ)だけを使うことが多い。それはその一つの情報が信頼性が最も高く、本来的には正しい選択ができることが多いからである。一方で、その単独要素に引きずられて誤った判断を下す可能性もある。下記はそういった判断の正確性を歪める可能性の強い要素である。
(1)返報性

 人は、受けた恩義/恨み/譲歩に報いなければならないという感情を持つ。例えば、交渉時に譲歩することは返報性により相手の譲歩を期待できる。この場合、損失感を与えないので互いに満足感を感じる場合が多い。
(2)一貫性
 人は、信念、行為を一貫させたい、また他者からそう見られたいという欲求を持つ。一貫性は、論理性、合理性、安定性、誠実さがあり、信頼のおける、健全な人だとして、①一般的に有益な性質であり、かつ②社会から高い評価を受け、また③考え続ける苦悩から脱するために有効だからである。
 一貫性を利用したテクニックとして、コミットメントの法則がある。①行動を含み、②人前で行われ、③努力を要し、④自発的なもの、と考えられるとき、人はコミット内容に行動をあわせる義務感をもつ。理由は、自ら作出した自己のイメージどおりの行動をする義務感と、他者による自らへのイメージに従う義務感が加わるからである。
(3)社会的証明
 特定の状況で、ある行動をする人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断する原理。特に、人は、①不確実性ある環境において、②類似性がある他人の行動と同じ行動をしがちである。
(4)好意
 人は自分が好意を感じる他人の行動を承認する傾向がある
 好意に影響する要因は、
(ア)身体的(外見的)魅力
 身体的魅力は、才能や親切心、誠実さや知性といった外見以外の特性に関する評価を高める。ハロー効果といって、ある人が望ましい特徴を1つ持っていることで、その人全体に対する見方が影響を受ける。
 また、人は大きさと地位を関連付ける。個体の大きさが、地位・支配力・優位性を感じさせる。
(イ)類似性
 人は自らと似た人に好意を感じる。年齢、趣味、意見、性格特性、服装、経歴、ライフスタイルなど。
(ウ)称賛
 お世辞は一般に承認欲求を満たし、好意を高める。
(エ)接触
 人や事物と接触を繰り返し、馴染みをもつようになることも、好意を促進する。ただし、不快な環境ではなく、快適な環境のなかで接触が起こる場合に当てはまる。特にこの関係が強く生じるのは、相互の協力によって成功がもたらされる場合である。共通目的のもとチームメイトとして行動するにあたり接触する際も好意が生まれやすい。
(オ)連合
 悪い出来事、良い出来事と関連があるだけで、人に良い印象や悪い印象を与える。ランチョン・テクニック(美味しいランチを分け合っている際の会話は魅力的に感じる)もこの一つ。理由は、人は自分が優れていることを証明したいので、自分が優れている人・モノと結びつきたい、若しくは悪い人・モノと結びつきたくないという意識がある。
(5)権威
 正当な権力者に従おうとする力。それまでの社会化教育と、権威者であれば知識と力を持っているのが普通であるから、その命令に従うことが妥当と考えてしまうのが原因。 
(6)希少性(自由の制限)  
 希少性の原理とは、人は、機会/モノ/情報を失いかけると、それをより価値あるものとみなす性質をいう。不確実性の高い状況で表れる。希少性の原理が効果を上げる理由は、①希少性あるもの/経験、独占性あるもの(情報)はコモディティより価値が高いと判定する基準になること、②ある品やサービスが手に入りにくくなると私たちは自由を失うからである。
(7)レッテル
 人がある人を判断する際に、唯一で他とは違うものとして知覚するよりも、あるカテゴリーに分類して簡単に知覚する。そして、既にあるカテゴリーに分類された人は、そこから外れた行動をしても、ただの例外的な行動であり、あくまで貼られたレッテル通りの人とみなされる。
(8)優位を占めたい欲求
(9)人は自らの行為に理由が必要
(10)判断のヒューリスティック(人間の経験則、ステレオタイプ)

・高価なものは高品質、安価なものは低品質と考える
・知覚のコントラストの原理
順番に提示されるものの差異について、差異をそれそのものより強く感じる傾向にある
⇨Salesmanが、高い値段の商品から先に見せていくのと同じ
(11)narrative structure
人は物語構造で意味を理解しようとする。誰が、いつ、何をしたか、頭の中にストーリーとして描ければ具体性が増し、信ぴょう性が高まる。

6.今すぐできること

 コミュニケーションにおいては、相手に関心を寄せ、プロフィールを覚え、常に重要感を与え、承認欲求等を満たすことがポイント。そのために、下記のようなことはすぐに実践できる。

・相手の会社の、人の、どこが優れているのかを言葉を尽くして褒める
・名前を覚える(人間は他人の名前などいっこうに気にとめないが、自分の名前になると大いに関心を持つ)
・誕生日を覚える
・その人の国の言葉で話す
・話を興味を持って聞く
・人でもモノでもすごくプラスの評価する、長所を把握し評価する、
・(特に自己評価と一致した)長所に対し、率直で、誠実な評価を与える
・どんな人でも、賞賛に値する優れた点があると考える
・できるだけ全員のプロフィールを覚える。
人の名前など、覚えたいことは録音して聞けば覚えやすい
・組織図を書いてみて、それぞれ自分に何を期待しているのか、言語化してみる。部長は何か、課長は何か、後輩は何か、書き出してみる。

7.Human Skillに関する格言

およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない
人を動かす デールカーネギー P.27
人間の行動は、心のなかの欲求から生まれる……だから、人を動かす最善の法は、まず、相手の心のなかに強い欲求を起させることである。商売においても、家庭、学校においても、あるいは政治においても、人を動かそうとするものは、このことをよく覚えておく必要がある。
これをやれる人は、万人の支持を得ることに成功し、やれない人は、ひとりの支持者を得ることにも失敗する」。
『人間の行為を支配する力』オーヴァストリート
「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」。
ヘンリー・フォード
「人と話をするときは、その人自身のことを話題にせよ。そうすれば、相手は何時間でもこちらの話を聞いてくれる」
ディズレーリ
「憎しみは、憎しみをもってしては永久に消えない。愛をもってしてはじめ
て消える」。
釈尊
「人にものを教えることはできない。みずから気づく手助けができるだけだ」
ガリレオ・ガリレイ
「われわれは、あまりたいした抵抗を感じないで自分の考え方を変える場合がよくある。ところが、人から誤りを指摘されると、腹を立てて、意地を張る。われわれは実にいいかげんな動機から、いろいろな信念を持つようになる。だが、その信念をだれかが変えさせようとすると、われわれは、がむしゃらに反対する。この場合、われわれが重視しているのは、明らかに、信
念そのものではなく、危機にひんした自尊心なのである…… ″わたしの″というなんでもないことばが、実は、人の世のなかでは、いちばんたいせつなことばである。このことばを正しくとらえることが、思慮分別のはじまりだ。″わたしの″食事、″わたしの″犬、″わたしの″家、″わたしの″父、″わたしの″国、″わたしの″神様――下に何がつこうとも、これらの″わたしの″ということばには同じ強さの意味がこもっている。われわれは、自分のものとなれば、時計であろうと自動車であろうと、あるいはまた、天文、地理、歴史、医学その他の知識であろうと、とにかく、それがけなされれば、ひとしく腹を立てる……われわれは、真実と思いなれてきたものを、いつまでも信じていたいのだ。その信念をゆるがすようなものがあらわれれば、憤慨する。そして、何とか口実を見つけ出してもとの信念にしがみつこうとする。結局、
われわれのいわゆる論議は、たいていの場合、自分の信念に固執するための論拠を見いだす努力に終始することになる」。
『精神の発達過程』ジェームズ・ロビンソン
″一ガロンの苦汁よりも一滴の蜂蜜のほうが多くの蠅がとれる″
アブラハム・リンカーン
「敵をつくりたければ、友に勝つがいい。味方をつくりたければ、友に勝たせるがいい」。
ラ・ロシュフーコー
「河や海が数知れぬ渓流のそそぐところとなるのは、身を低きに置くからである。そのゆえに、河や海はもろもろの渓流に君臨することができる。同様に、賢者は、人の上に立たんと欲すれば、人の下に身を置き、人の前に立たんと欲すれば、人のうしろに身を置く。かくして、賢者は人の上に立てども、人はその重みを感じることなく、人の前に立てども、人の心は傷つくことがない」。
老子

8.参考文献

影響力の武器
人間性の心理学
人を動かす
嫌われる勇気


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