ガチョウに負けた話

小さい頃はよく自然に触れる環境へ連れて行かれた。
田んぼ、海辺、山川、自然公園など。
田舎なので家を出れば自然溢れる環境だったが、親の引率がなければ小さい頃は家に引きこもるのが常だった。

いざ出かけても、私は興奮して騒ぐタイプではなかったので、与えられるがままに採取したばかりの木苺など食べることを楽しんでいた……気がする。
母は採取が目的でありその後の処理に関心を持たなかったので、親子でちょうどいい組み合わせのお出かけだったのだろう。
兄もいたが、私と母の中間の楽しみ方をしていたような気がする。
ちなみに、兄と外で遊ぶときは専ら海辺の漂流物を利用した建築ごっこ×おままごとだった。家の中ではレゴ×おままごとになる。おままごとと言っても何やら登場人物が冒険する系で女子力ひくぅい…という思い出しかない。

さて、年がら年中単身赴任で不在の父親を除いた家族で自然公園へ出かけた日の話をしよう。
といっても、あまりにも小さい頃で多くは覚えていない。
あやめが咲く季節、木苺や小魚を採取するのが母の目的だったはずだ。
その公園は水辺…小川や池があり、鮒やメダカなどを観察できる環境だった。母は採取していたが許可を得ていたのか定かではない。
水辺には他の動植物も集まるもので、小さな体にとってはとても大きな水生植物がわさわさと茂る遊歩道を進み、公園の奥のあやめ園を目指していたと思う。
あやめ園手前の遊歩道には子どもにとっては大きな水鳥、ガチョウが何故かいた。普通、いてもアヒルだろ。

何があったのか経緯は覚えていない。
私はガチョウに追いかけられ、転び、上に乗られ、勝利のポーズを取られた。
泣いた。
母は爆笑していた。

たったそれだけのエピソードだ。
今思うのは、なんで写真か動画を撮らなかったんだ……!という口惜しさのみである。
自分で語ってて笑える。ガチョウに負けたって。
まあたぶん怪我をしていたとしても大したことはなかっただろうし、ガチョウに対して特別恐怖心を持ってもいないので単なる思い出でしかない。
でもこれ、ある程度仲良くなった人に現地を通りがかったときにちょっと語るとウケるのだ。
わかる、小さい頃だとしても鳥に負けたからね。マジで写真を見たい。

推測だが、ガチョウを見つけて物珍しさから安易に近付いて手を伸ばし、威嚇行動か何かの羽を広げる動作にビビって逃げ出したら追いかけられてコケて上に乗られたのだと思う。
幼児あるあるの行動だろう。
まあ大人しめだったはずの私に現在を伺わせる突飛な行動力があったことを匂わせるエピソードでもあるかもしれない。
両親曰く、赤子の頃は夜泣きせず、泣き出しても口にものを加えさせたら大人しくなり、そもそもたっぷり食べてたっぷり寝て起きない手間のかからないマイペースさだったそうなので。
生後半年の検診だかで他の子より1kg重かったって、どんだけ食いしん坊なんだ……
当時、母は私があまり行動しないだろうと思って目を離した隙に、私がガチョウに負けていたのかもしれない。
そりゃ爆笑するわ。

という、酔っ払ったのと今日赤子の頃の思い出話を聞かされた影響の思い出話。
個人的には遊歩道から池に落ちなかっただけ優秀な幼児だと思っている。
迷子ひもの有無は覚えていないがたぶんなかったのではなかろうか…必要なさそうな年齢になっていた気がするような……
ちょっと情けないけど幼児(だったはず)の話なので勘弁して欲しい。