『スーサイド・スクワッド』 レビュー 中に浮かぶハーレイ・クイン

『スーサイド・スクワッド』を観ました。

監督は『エンド・オブ・ウォッチ』(2012)『フューリー』(2014)のデヴィッド・エアー。

撮影はローマン・バシャノフ。

出演はウィル・スミス、ジャレッド・レト、マーゴット・ロビー。

素晴らしい映画です。映画を「読む」のではなく「見る」ことによって生まれる楽しさを、あらためて思い起こさせてくれました。


◆上昇と下降

キーワードは「上昇と下降」です。

①液体に沈んだハーレイ・クイン→ジョーカーが彼女を抱き上げる。

②土に塗れたムーン博士→フラッグが彼女を抱きしめる。

2つのショットの類似がおもしろいです。①の前にはハーレイが落ちる→ジョーカーも落ちるショットがありますね。

ハーレイとジョーカーが運転する車は水に落ちます。ヘリは3回落ちます。スーサイド・スクワッドのメンバーに与えられるミッションは、ビルを登って天辺を目指すというものです。エレベーターで昇るハーレイを映すショット。全員が螺旋階段を登るショット。敵は天井を突き破って下りてきました。デッドショットはビルから飛び降り、ディアブロは悲劇が待っていると知らずに階段を上がり、バットマンは空から舞い降り、キラークロックは水中に潜ります。

事の発端は地下で起こります。ジューンは洞窟に落ち、エンチャントレスを見つけますが、彼女の弟が暴れ出すのも同じく、地下鉄なのです。彼女と彼が地上に上がって、いよいよ事態はひどいものになっていきます。


◆宙に浮かぶハーレイ

ハーレイは、上がるでもなく、下がるでもなく、宙に浮いています。映画の中で2回あります。彼女を捉えた最初のショット。檻の中でぶら下がっています。2回目は、ジョーカーが乗るヘリから降ろされたロープに、掴まるのです。

デッドショットが命令されてロープにぶら下がるハーレイを撃ち殺そうとしますが、外れます。外れる理由は、本作の中で浮かぶことができるのはハーレイだけだから、です。作戦前半でスリップノットは生きてぶら下がることは出来ませんでした。宙に浮いた時には、彼は既に死んでいました。

ハーレイ・クインという女性が本作で最も輝いている存在であることを、映像で見せているのです。デッドショットと一緒にスコープで、ハーレイを見ましょう。そのようなショットがあります。


◆見ること

本作は監督デヴィッド・エアーの過去作と同様に、あるいはそれ以上に、「見ること」を非常に重大なテーマとして扱っています。

最初から本当に最後の最後まで、監視カメラの映像・そのモニターのショット、檻・窓越しのショットが挿入されていました。登場人物がタブレット端末を通した映像を見るショットさえもが3度あります。他人を、のぞき「見ること」。これは映画の本質に関わる事項です。誰かが何かをしているところを見る、それが映画というメディアの特性ですから。

また、エンチャントレスの手下の目玉がたくさんついた化け物。あれはギリシャ神話のアーガス(作中にARGUS計画という単語が出てきます)に因んだものです。目玉です、見ているのです。ジョーカーの手下にも頭が目玉の人がいましたね。

さらに最後の戦いでは、カタナの「どこだ!見えない!」というセリフからも明らかなように、スモークでスクワッドの「視界」が覆われてしまいます。ここでの勝利のロジックは、「見えた」から倒せる、というものでした。


◆構図と動き

画面は、左右対称の構図が多いです。これがデヴィット・エアーの考える「コミックらしさ」なのでしょう。彼の過去作にはない要素です。

そして、上に書いたような人物の上下の移動と、人物の後ろでの動き(雨、雪、炎、煙)は、静止することのない画面を観たいという願望を叶えてくれます。


◆本作の構成

『スーサイド・スクワッド』には3人の女性を取り戻すというストーリーが組み込まれていることも留意しておきたいです。ジョーカーがハーレイを、フラッグがジューンを、スクワッドがアマンダを、というもので、それぞれに帰結は異なります。前半のミュージックビデオ的な編集から、それが消える後半への流れの中には、「映画であること」を取り戻していくような感覚がありました。

「女性を取り戻す」ことと「映画であることを取り戻す」こと、その2つが進行していきます。映画とは女と銃である・・・と言ったのはグリフィスだったでしょうか(ハーレイは銃を持っています)。


終盤に至って、ハーレイはエンチャントレスに、プリンちゃんを生き返らせて、と頼みます。エンチャントレスを油断させ、一撃を加えます。そしてデッドショットが、娘の頼みを断って、エンチャントレスを撃つのです。

カトリックにおける贖罪という古典的なテーマを、2幕構成の脚本に落とし込んでいます。バーでの飲み会は罪の告白のようなものです。落ちて、上げる。え!!それだけ!!と思うくらいシンプルです。部隊を集める → 倒す、これだけです 笑。落ちて、上げるのです。

ハーレイ・クインはラストでエスプレッソを飲んでいます。それは、ハーレイがジョーカーの奴隷ではない、ということです。ふっきったんですね。ラストショットは観客へのサービスで、オマケです。

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