音楽が生まれるプロセスの秘密に迫る!ワークショップ「新しい音楽をつくる」Vol.3 開催レポート
調布国際音楽際2024がスタートした初日、6月15日(土)にせんがわ劇場にて、ワークショップ「新しい音楽をつくる」Vol.3が開催されました。
このワークショップは、公募で選ばれた作曲家の作品をプロが演奏し、作品に対して日本を代表する作曲家の方々と共にディスカッションする内容となっています。
コメントをする作曲家は、金子仁美さん、細川俊夫さん、藤倉 大さん。
藤倉 大さんはイギリス・ロンドンからオンラインで参加されました。
モデレーターは、調布国際音楽祭エグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人がつとめました。
また、ゲストとして、日本のコンテンポラリーダンス界を代表する振付家の黒田育世さんも参加されました。
今回、黒田さんは6月21日からせんがわ劇場で開催される「ちいさな死神くんとあの木の上のお星さま」の振付・演出・出演者として音楽祭に関わってくださっているご縁で、ゲスト出演が実現しました。
ワークショップのための新作テーマは「舞踊」
今回のワークショップのために作曲された新作のテーマは「舞踊」
このテーマにそって、3名の作曲家が作品を作り、その内容についてプレゼンテーションを行いました。
作品を演奏するのは、ヴァイオリニストの辺見康孝さん、サクソフォン奏者の大石将紀さん、ピアニストの鈴木慎崇さんです。
青木大地さん:アルトサックス、ヴァイオリンとピアノのための断章「ゲゲゲのB×××!?…」
まず1人目は青木大地さん。『アルトサックス、ヴァイオリンとピアノのための断章「ゲゲゲのB×××!?…」』という作品を作曲されました。
そもそも舞踊とは何なのか?ということについて調べるため、まずは辞書をひき、そこで舞踊が「舞」と「踊り」の合成語であることが分かったそうです。
そこで、さらに「舞」とはどういうものなのかを調べると、神社仏閣や非民間の場所で行われ、中心的な要素としては、旋回やすり足があるらしいということ。
それに対して「踊り」は、民間に近い場所で、リズムにのった跳躍や熱狂的なブレのエネルギーがあることを知ったそう。
そうした過程を経て、これらをどのように曲に取り入れるかを考えられました。
ちなみに、この作品には青木さん自身がこれまでに影響を受けた作曲家の特徴的なモチーフが取り入れられています。
それに対して藤倉さんは、ご自身の作品に違う誰かの素材を入れることをしないそうで「僕は自分と真逆のことをする人に興味がある」と前置きした上で、どういう意図で過去の作曲家の要素を取り入れられたのかを尋ねられました。
また、細川さんは“舞というのは、地球の重力に抵抗したものである”と考えておられるそうです。
それが、青木さんの作品の中では、重力に沿った部分と抵抗している部分があると感じられたそうで、それらをもっと突き詰めて、もう一度聴きたくなるような曲を作ってほしいとコメントされました。
金子さんは、音楽的な流れは良いので、曲の中に含まれてた色々な種類の要素をもっと整理してほしいとコメントされました。
また、サクソフォンの大石さんからは、楽器の音域や楽譜に沢山書かれたアイデアや表記について質問がありました。
ヴァイオリンの辺見さんからは、どれくらいの期間で書かれたのか?
1箇所だけ半音階が全音になっているところがあるが、それは意図して書かれたのか?と聞かれていました。
ピアノの鈴木さんからは、楽譜内のBACHを連想させる音列に書かれた表記に関する質問があり、演奏者が、作曲者の意図したことをどれだけ楽譜から読み取ろうとしているのかを感じ取れるやりとりがありました。
渡部瑞基さん:子供の踊り Kindertanz
2人目の渡部瑞基さんは『子供の踊り Kindertanz』という作品を作曲されました。
渡部さんは、踊りについて考えた時に、実在する踊りをテーマにしようかと考えたそうです。ただ、ご自身は日本独自の舞や世界の舞について、名前を知っていても体験をしたことがないことから、その案を避けることにしたそうです。
その後、舞というものが身体表現の動きを表すのであれば、児童養護施設でアルバイトをしていた際に見た、子供たちが遊んでいた時の様子を題材に曲を作ってみようと考えられました。
普段は、作曲をする際には事前に細かく作曲する際のシステムを自分の頭で考えてから書かれるそうですが、子供の動きというのは予測不可能なもの。
そのため、いつもの作曲の仕方は、予測不可能な子供の動きを表現する曲をつくることには相応しくないと考え、最初から順番に作曲していくというオーソドックスな方法で書き始めたそうです。
基本的な作曲姿勢としては、子供の骨格の基本的な動きを一瞬の動きを潔く短くまとめ、特殊奏法は使わず音域を絞って書かれ、以下のように、全部で4つのパートからなる作品となりました。
細川さんは、この作品を作曲する際に影響を受けた作品や記譜法について質問されました。
また、日常的な子供の風景を描く際には、日常の中にふっと永遠が入ってくるというか、何かちょっと違った視点から音楽が聴こえるようになると素晴らしいと思う、と仰いました。
今回の作品は、それぞれが短すぎてそれを感じる前に終わってしまう印象がしたことから、本当にやりたいことをやるには、もう少し長い方がいいと感じられたそうです。
ヴァイオリンの辺見さんからは、アンサンブルをする際に、同じ拍子を感じないとタイミングが合わないことから、クリックで演奏してはどうかとコメントされました。
藤倉さんは、作曲には様々な段階があるが、題材を子供にすると決めたら、次はこの作品がどうやったらコンサートで効果的に聴こえるかということを考える必要があり、各楽章の音列とハーモニーを同じにするのは意図されたものであっても、興味が薄れてしまうのではないかと仰っていました。
鈴木優人の提案で、実際に少しハーモニーを変えて演奏してみる、ということを試みる場面もあり、ワークショップならではの実験的なアプローチを試すことができました。
村田舞さん:波長が合う
最後は、村田舞さんが作曲された『波長が合う』です。
学校の休み時間を想定し、波長が合う2人と合わない人との3人で会話をするシーンが再現されたこの作品。会話する際に自然と発生している「音」に、リズムと音を合わせて楽器で演奏されることがベースとなっていました。
また、本作品の演奏においては、3人の演奏者に加えて、ダンサーの上野可南子さん。そして、指揮に村田さんの大学の指導教官でもあり、作曲家の川島素晴さんも加わりました。
演奏後、藤倉さんは、ご自身のジョージ・ベンジャミン氏は作曲された全ての音に対して質問される方だったそうで、全ての音にポリシーを持つ大切さや、ピアノだけが出てくる箇所については、もっと磨ける部分もあるのではないか。とアドバイスされました。
また、コンテンポラリーダンスの振付家の黒田育世さんから、今年の調布国際音楽祭のために書き下ろされた新作「ちいさな死神くんとあの木の上のお星さま」で、ご自身が作品を創作する課程で作られたスケッチについてご紹介がありました。
村田さんは、この作品を舞踊のための作品としてかかれたのですが、それに対して、黒田さんは、ダンスと言葉というのは極めて難しいもので、音楽とダンスは合いやすいが、言葉は絶対的なものなので、戦略が必要になるし、無視するのが難しい。
これを“舞踊作品”とするとなると、さらに戦略が必要になると思う、と仰っていました。
さいごに
「作曲ワークショップ」と聞くと、作曲をされている方が対象なのでは?と思われる方もおられるかもしれません。
ただ、このワークショップは音楽に携わっていない方や、異分野の芸術文化に携わる方でも楽しめる要素が沢山あり、世界的に活躍する作曲家の方々が大変真摯にこの調布国際音楽祭のためにつくられた作品に対峙し、コメントをされているのが印象的でした。
普段なかなか聞くことができない作曲の過程に触れることができ、さまざまな視点から音楽に迫る充実した時間となりました。
ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました!
調布国際音楽祭2024レポート、まだまだ続きますのでお楽しみに!