ルイスの教えてくれたこと(2)
ここからは、そのあとルイスと話したことを、そのころ書いてた日記をもとに、ぽつぽつ綴っていきますね。
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ルイスと初めて話したときは、ルイスの言葉が声として、はっきり聞こえた気がしたけれど、ルイスの言葉の伝わり方は、日に日に変わっていきました。声から文字へ、文字から意味へというふうに。
けれどもぶれないところもあって、それは会話の始め方。いつでも私が名前を呼んで、ルイスが“いるよ”と答えてくれる。
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ルイス
“いるよ”
ちょっと聞きにくいんだけど…
ルイスは私の妄想なのかな。
“うん、違うよ”
どっちだよ。
使えないね。
“使えないよ”
素直だね。
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文字だと表現しにくいけれど、ルイスの答えはくいぎみです。
そのころ私は大学生で、社会へ飛び立つ4年生。講義や試験は終わってて、卒業式を待つばかり。(結局卒業式はなかったんだけど)
ほとんど毎日となりの街へ、バイトに行って、日が暮れて、とぼとぼ歩いた帰り道、ルイスと色んな話をしました。
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ルイス
“いるよ”
音楽ってなんだろう。
“感情の密輸入”
説明下手だね。
“下手だよ”
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ルイス
“いるよ”
この世ってなんだろう。
“この世は展開図”
展開図って、あの、算数で習うやつ?
“そうだよ”
ふむ。
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ルイスと私が話すのは、捉えどころのないことばかり。けれどもあるとき1度だけ、未来について、聞いてみて...
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ルイス
“いるよ”
私ずうっとここにいる?
“いないよ”
そりゃそうか。
ずうっとはいないよね。
でもしばらくはいるんでしょ?
“いないよ”
え、引っ越すの?
“すぐだよ”
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この日を境にしばらく記憶が曖昧で、理由もなくただ悲しくて、体が重くてバイトもいかず、布団を被ってじっとして、日記を書くのも止めにして、あるとき昼ごろ目が覚めて、何故だかピアノが弾きたくなって、何の曲をということもなく、ふらりふらりとピアノの前へ、歩いて座って手を添えて、身体に任せて始まって...
ちょうどその日に悲しみも、体のだるさも何処かへ行って、日記も再開したようで、それをこの、とりとめもない文章の、結びにしたいと思います。
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2011年3月11日
ピアノをそぞろに弾いていて
部屋がまるごと大きく揺れて
危ないことはわかっていたけど
ピアノを弾くのを止められなくて
そのまま弾いて
そのまま揺れる
静かで不思議なひとときでした
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