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ヘッドスパに連れていかれた話

この記事は mast Advent Calendar 2023 の 1 日目の記事です。
今年もアドカレの季節がやってまいりました。mast アドカレ、ぜひ楽しんでいってください〜!

はじめに

みなさんは「ヘッドスパ」なる施設をご存知でしょうか。僕はあるときまで全く知りませんでしたが、同じように聞いたことがない方は多数いらっしゃることだと思います。一応 Wikipedia にはこう書かれています:

ヘッドスパとは、日本の造語。頭皮の洗浄、マッサージなどを施し、髪そのものと頭皮を活性化させる行為。

ヘッドスパ - Wikiedia

了解性が高いですね。非常に辞書的で、質素かつ簡潔な表現で、実際はどういういうものなのかが全くわかりません。が、幸いなことに、今年の誕生日に人に(無理やり)連れて行かれて体験する機会があったので、今回はその体験談を踏まえてヘッドスパがどういうものなのかについて述べていきたいと思います。

入店〜呼ばれるまで

「ヘッドスパのお店」と聞いてどのようなお店を想像するでしょうか。町中のマッサージ店、風俗、タイ古式マッサージ店…などいろいろ思い浮かぶかと思います。僕は神奈川県の某所にあるヘッドスパに行ったわけですが、そのお店はカフェとも美容室とも形容できる、おしゃれなお店でした。決してエロやエスニック、あるいは商業の雰囲気は全く感じられない、筑波大学春日キャンパスや第三エリアとは真逆の場所です。

そんなアマチュアパソカタer には似つかわないお店のドアを開けると、そこにはきれいなおねいさんが二人立っていました。間接照明のみで照らされ、茶色を基調とした薄暗い空間でアロマの香りに酔っていると、おねいさんの一人が声をかけてきます。

「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」
「は、はい…」

あくまでも連れてこられた身なので、訳も分からず適当に肯定マンをしていると、同行者が取って代わって手続きをしてくれました。既に緊張 MAX の僕は、ただ震える手で靴紐を解き、ニトリで売っていそうなオットマンに腰を掛けることしかできませんでした。

そうこうしているうちに、おねいさんが同意書なるものを渡してきました。やはり人間に直接施術をするせいか、髪を染めている場合色落ちする可能性や健康上の理由が…という項目について同意しなければならないようです。もちろん同意しなければ即座に退場となることは自明なので、署名と日付を書いて同意しました。続いてアンケートを渡されましたが、その項目には次のようなものがあったような気がします。

  • ヘッドスパは初めてですか

  • どこが痛いですか

  • 頭皮や髪について悩んでいることを教えてください

当たり前ですが、ヘッドスパは初めてです。そして、残りの 2 つの項目については「行くぞ!」という気持ちで来た訳ではないので適当にでっちあげたような気がします。アンケートを書いているうちに同行者は退場してしまい、ヘッドスパ店には僕とおねいさん 2 人となってしまいました。おわりです。ここでおねいさん 2 人が銃器を出してきたものなら勝ち目はないし、そもそも緊張 MAX の僕にとってはそれどころではありません。

ガチガチに固まり、「はい」としか言えないペッパーくんよりも賢くない生き物がそこにはいました。

呼ばれる〜施術直前まで

あれこれ終わって待合室でマネキンの真似をしていると、名前が呼ばれました。おねいさんに続いてカーテンをくぐると、そこには 10m ほどの廊下が続いていました。言うなればカプセルホテルでしょうか。廊下の両サイドには 2 つずつカーテンで閉められた施術区域があり、僕もその中の一つに通されました。風営法等の規定によりドアは設置していないのだと思います。

4畳ほどの施術区域の中には、ベッドとも言える大きな椅子が鎮座しており、間接照明が椅子と観葉植物、そして施術師用の椅子を上品に照らしています。上着を脱ぎ、腕時計を外し、荷物とともにかごに入れると、おねいさんが椅子に座るよう促してきました。

言われるがままに腰掛けると、突然おねいさんが膝を地面につけて座り始めました。立派な椅子に座りながら足元に座るおねいさん。計算機と戯れているだけの日常では、まずこんな光景を目にすることはできません。刺激が強すぎます。なんてったって、今日出会ったおねいさんと半個室で二人きりなのですから。

「本日担当させていただく〇〇です。よろしくお願いいたします。」

おねいさんを見下ろしながら、情けない声を出すことで精一杯でした。

「はい…」

もう明らかに僕の負けなので、ここからはおねいさんの独壇場です。

施術中

おねいさんは、頭や首、肩、デコルテ(胸板の当たり)をローテーションでマッサージしていきます。特に首を首絞めのような形でマッサージされたのが印象的でした。そして頭は指先で揉むようにマッサージされ、だんだん暖かくなってくることで血流の改善を実感できます。また、腕と手のひらのマッサージも定期的に実行されますが、普段から計算機を使っていて疲れ切っている僕にとっては極上のものでした。計算機は自分の言うことは確実にこなしてくれますが、マッサージはしてくれません。しかしおねいさんはしてくれるので、誠にいい話です。計算機を扱う方は、明日にでも行くべきです。ただし僕が行ったヘッドスパ店では、腕は脚に変更できたような気がします。

強すぎず弱すぎず、ただただ心地よいそのマッサージは、決して日常からは得ることができません。おねいさんに身を任せ、椅子に身体を転がしておくだけで日頃の疲れが取り除かれていくわけですから、当然眠くなってきます。

しかし、世の中は甘くないので、そう簡単には寝させてくれません。一定時間ごとに痛くないかどうかを確認する ping が飛んできます。ただそれに答えるためだけに、ひたすら心地良さからくる眠気と格闘していました。pong を返さなければ、痛くないとみなされて押しつぶされる危険性すらあるのですから。

施術終了

――――どのくらい経ったのでしょうか。気づいたら人生で 5 本の指には入るリラックスタイムは終わってしまいました。

「終わりにしますね」

その声で、僕の意識はこの世に戻ってきました。どうやら眠ってしまっていたようです。目を開けると再びおねいさんがひざまずいているではありませんか。ああ、なんて失礼なことをしたのだろうか。施術をしてくれたおねいさんに敬意を表することもなく、醜態を見せてしまった。

「ありがとうございました。廊下を左に出ますと、お色直しコーナーがございますので、どうぞご利用ください。」

「ありがとうございます。」

情けない姿でこのようなやり取りをしたあと、とりあえずお色直しコーナーに向かいます。当然直すべきお色はないのですが、脳が初期化されていないのでただただぼうっと座っていました。かりん茶が運ばれてきたところで、やっとすべてを理解しました。

「ヘッドスパに連れてこられて、おねいさんに施術され、そして今終わったところだ。」

完全にこの世のすべてを理解した気になっていた僕は、さっと立ち上がり、涼しい顔で退店し、颯爽と横浜の街に戻っていくのでした。

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