クウェート留学講義3「ジハードの根源」

ジハードの本来の意味は奮闘努力。つまり内面に求めるようなもので…

そんな話はもう沢山聞いてきた。じゃあ世界で起こってるジハードは何なの?間違ってるの?

そんなことを思っている人も多いのではないでしょうか。
実際僕がそう思っていました。


「彼らのやっていることは間違っている。」

そんな話も沢山聞いてきました。

では、実際なぜ「ジハード」という形で、「テロ」と呼ばれるようなことが起こるのでしょうか?

今回はかなり専門的な話になるので、少し難しいかもしれません。


その「ジハード」を読みとく鍵は、イブン・タイミーヤにあります。

前回のコラムで、世俗法による統治とイスラーム法に矛盾が生じ、好ましくない状況にあることをお伝えしました(クウェート留学講義2


イスラーム法で統治されている環境をダール・アル=イスラーム(イスラームの家)と言うことは前回お伝えした通りです。

そのイスラームの地、ダール・アル=イスラームが失われると、戦争の家(ダール・アル=ハルブ)という状況になります。イスラームによる統治がなくなり、イスラームに適った生活に支障をきたす、好ましくない状況です。

しかしながら、ムスリムが統治する地で、為政者に反旗を翻すのは基本的にはNOです。ムスリムがムスリムの血を流すことは基本的に許されていません。

以前紹介した、マーワルディーの『統治の諸規則』にも、叛徒に関する規定はありますが、不正なムスリムによる統治に関しては決められていません。統治はカリフが為すことがそもそもの前提だからです。為政者に従うことは、あくまで普通のことだったのです。

それが分かる事例として、カリフの有資格者条件の変遷があります。後に「覇を唱える者」という、支配の重要性が生まれます。「実効支配」はカリフ位に就くに当たって欠かせないものとなるのです。

このような考えは、支配者をカリフとみなすような風潮から生まれたものと推測できます。

しかし、ハンバリー学派のイブンタイミーヤは、この法学説とは別のアプローチをとることで為政者への反発を可能とします。

イブン・タイミーヤの代表的な著書『シャリーアによる統治』では、為政者にはシャリーアに沿った正しい統治を行なう限り従うとし、正しい統治が行なわれない場合は従う必要はない旨が書かれています。

そして、当時はモンゴル軍、イル・ハン国が攻めてきた時期です。モンゴル軍は、同じムスリムであることを主張していたため、ムスリムの血を流すことが許されない以上、どんなにイスラームに適っていない統治であっても今までの論理では受け入れる他なかったと言えます。

しかし、「為政者にはシャリーアに沿った正しい統治を行なう限り従うとし、正しい統治が行なわれない場合は従う必要はない」という論理を正当と考えれば、モンゴル軍に対して反発することも許容されます。

その論理をもとに、イブン・タイミーヤはタタールに対するジハードのファトワー(法勧告)を出します。

つまり、タタールの民(モンゴル軍)がイスラームに従っておらず、ジハードを起こすことが許される、(ラマダーン月であっても)断食をするよりも、食事をとってモンゴル軍と戦うほうがより神意に適っていると、法学者としての見解を出したのです。

この「為政者にはシャリーアに沿った正しい統治を行なう限り従うとし、正しい統治が行なわれない場合は従う必要はない」という論理こそ、現代のサラフィー・ジハード主義者のルーツにあたる部分になります。

サウジアラビアは厳格なハンバリー学派の論理の影響を受けているため、イブンタイミーヤの著書の、教育現場での採用なども活発に行なっていました。たまに言われる「元凶はサウジ」はそのためです。

実際、アンケート調査をしたら、9割以上が「厳格なイスラーム法による統治を敷くイスラーム国を支持する」と答えたなんてこともあったようです。

カリフが不在、かつイスラーム法による統治が行なわれていない、ダール・アル=ハルブ状態の今、イスラーム法に従わない為政者を妥当し、イスラームに適った政治をすべきと考えることは、彼らの論理ではおかしくないです。

今まで説明した論理で行なわれるジハードは「外面的ジハード」や「小ジハード」などと言われるものですが、「ジハードではない」と言えばうそになりますし「本来のジハードではない」とも言い切れないと思います。

クウェート留学講義1でも説明しましたが、イスラームの拡大に当たっては戦闘が伴ったことは紛れもない事実です。ジハード、つまり聖戦が行なわれたことは確かです。

ムスリムたちの間でも、様々な葛藤があり、各々自身の信じたイスラームのもとに生活しています。

一概に何が悪い、何が良いと、自身の主観で物事を見るのではなく、神意、つまり可能な限りイスラームに基づいて物事を見ることが求められているように感じます。

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