短い舌 男2 10分

a=柿原哲雄 b=立花

a;あ、こんばんはー 

b;こんばんは・・

a;えーっと今日から立花君の声優コースのオンラインレッスン講師を務めます、柿原と申します。よろしくお願いします。

b;よろしく、お願いします、えっと・・・あの・・立花です・・。

aナレ:俺は柿原哲夫、しがない声優だ。駆け出しでまだ専業で食っていける訳もなく、こうしてビデオ通話でのマンツーマンレッスンの講師をしている。

a;はいよろしくお願いします。えーっと・・テキストはもう印刷してますか?

b;はい、あります。

a;よかった。では、テキストに沿ってレッスンしていきます。まずは最初ですね…これ、聞いたことあるかな?外郎売っていうんだけど。

b;あ、あります。

a;まぁこれ結構有名ですもんね。

b;はい。

a;えーっと・・読んだことはある?

b;一応・・

a;そっかそっか、じゃあ、どうかな?読んでてどっか苦手な部分とか自分で分かってたりする?

b;そうですね、えっとあの・・お茶たてるシーンが・・

a;ああ、お茶たちょ茶立ちょ ちょっと立ちょ茶立ちょ 青竹茶筅でお茶ちゃっと立ちゃ の部分ね。

b;うわ、すごいですね・・・やっぱ声優さんだなぁ。

a;そりゃぁ・・ね。一応立花さんもやってみて貰えるかな?

b;わかりました、えーっと。こほん・・・お茶たちょ茶立ちょちょっと立っちゃった・・

a;ちょっとたっちゃった・・?あっはは・・えっと・・噛んじゃったね。

b;すいません、、噛んじゃいました・・

a;うん・・もう一回読んでもらえるかな?さっきよりゆっくりでいいから。

b;はい・・お茶たちょちゃたちょちょっと立っちゃった。

a;あ・・・・また立っちゃったねぇ。

b;また・・・立っちゃいました・・。

a;そうだねぇ、噛むっていろんな理由があるんだけど、やっぱり舌の長さが影響してることが多いんだよね。

b;舌の長さ・・・もしかして僕、短いのかな・・

a;うーんどうだろう。長くっても口の中で巻かれちゃったりして、ダメな場合もあるし・・・。

b;そうだ、先生、ちょっと僕の舌確認してもらってもいいですか?

a;え、か、確認?

b;はい、えと…送りますね、先生のメールアドレスに。

a:送る…?

aナレ:ポロン、とビデオ通話中のpcモニターの隅に通知が飛んできた。届いたのは一通のメール、モニターの前にいる生徒、立花君からだ。クリックするとそこにはファイルが添付されていた。

b:届きましたか?先生。

a:これは…ど、動画ファイル?

b:僕の舌の長さ、確認してください。

aナレ:ゴクリと生唾を飲んだ。矢印マークをクリックして再生をする。そこにはバナナを舌先でチロチロと舐める立花君が映っていた。

a:ば!!ちょ!立花君!なんだこれは!

b:…どうでした先生…?僕の舌…確認してくれました?

a:ば!ちょ!確認できるわけないじゃないか!

b:先生…柿原先生、これは、お仕事…ですよ?

a:くっ!!くそ!どうにでもなれ!!

aナレ:俺は意を決して動画に目をやった。

b:どう、ですか…?

a:……短めだ。

b:くっそー!やっぱそっかあ。僕、才能ないのかなあ。

a;そ、そんなことないよ・センスを感じる舌使いだった・・って!お、俺は何を!

b;し・・舌使い・・?

aナレ:どうしてしまったのだ、俺は。あの動画を見てから胸がざわざわと揺れ動く。男の、若男のバナナ舐め動画を見るという非日常のせいだけだろうか。自分の心がわからない。

b;落ち着きましたか?

a;ああ・・ご、ごめん・・取り乱してしまった。

b;それで、その・・舌が短いとやっぱり不利なんですかね・・

a;あ!いや、そんなことはないよ、訓練次第で舌が短くても十分に綺麗に読めるようになる。

b;本当ですか?それ聞いて、安心しました・・その、先生・・僕上手くなるためならなんでも言うこと聞きますよ。

a;な、なんでも・・?

b;なーんで・・・も♡

a;う、ううう!!さ、誘うなああ!!!!!!

b;ヒ!

a;はぁはぁ・・お前!!なんなんだ!!!さっきからバナナ舐め動画送ってきたり!なんでも聞くって言ってきたり!!!変態!!!

b;そ、そんな・・僕はただ上手くなりたくって・・

a;じゃあどうすんだ!!お前!!もし俺が股開けって言ったら開くのかよ!!

b;開きます。

a;開くんかあああああい!!!開くんかい!・・・開くん・・・かい・・う・・・うう・・・っうう・・・うううううぅぅう・・(泣き崩れ始める)

aナレ;自分の中で生まれた感情が、この男子生徒に芽生えた感情が、なんなのか分からずに俺は泣いた。いや心の奥底では分かっていたからこそ、泣いたのかもしれない。俺は講師を辞めた。やめて、旅に出た。海岸線、知らぬ土地、波打つ潮の音はあの日の僕の気持ちを思い出させた。


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