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サンフレッチェ広島のWEリーグ参入について

1.はじめに

サンフレッチェ広島が来年9月に開幕する女子プロリーグ「WEリーグ」に参入することになりました。Twitterにも書きましたが、広島と大宮アルディージャはなでしこリーグ1部の既存クラブを押しのけて新規参入です。

ただ、大宮は母体がある(2部のFC十文字VENTUS)ことを考えますと広島の異質さが際立っているように思えます。というわけで、なぜ広島が「オリジナル11」になれたのかを鮮度のいい内にまとめておこうという趣旨。

2.サンフレッチェ広島の女子チームに対する姿勢

サンフレッチェ広島はご存じの通り、1993年のJリーグ開幕から存在する「オリジナル10」の一つです。同じオリジナル10でも千葉、浦和、東京Vなどは女子チームを所有しています。では、広島は何故持っていないのか。

実は、2011年の女子W杯優勝の影響などもあってサンフレッチェ広島も女子チームを持った方がいいのではないかという意見・質問は過去のサポーターズカンファレンスでもありました。

横川にできたアンジュヴィオレ広島との関係の質問に対してですが、サンフレッチェ広島はプロ。アンジュヴィオレ広島さんは現在アマチュアチームであり、戦っているステージが違います。しかしながら、関係は非常に良好で、同じサッカー界にいるものとして、できることは一緒に取り組んでまいりたいと思います。
(2012年のサポーターズカンファレンスより抜粋)

2012年に立ち上がったアンジュヴィオレ広島との関係性に関する質問に対して、お互い独立性を維持して頑張りますという回答。

「アンジュヴィオレをサンフレッチェの女子チームにする予定はないのか」、「アジアを中心とした海外クラブとの提携をどうするのか」と言った質問に関しましては、サンフレッチェも他のJクラブ同様に地域密着のための多面的な展開を考えておりますし、強化部のコネクションなどを活用してさまざまな海外クラブのスタディーも行っていますが、まずは自らが減増資後の経営の立て直しをしっかりすることが最初だと考えています。我々はJリーグの理念や方向性を真っ先に実現していくクラブでありたいと当然考えますが、クラブライセンス制度を念頭に置いた経営の舵取りもしなくてはなりません。また、アンジュヴィオレに関しましては、横川の方々を中心にしっかり経営をされているなかで、サンフレッチェの側からアンジュヴィオレとの提携などに言及することは失礼ではないかとも考えています。むしろ、チームカラーが紫の仲間として、それぞれの独立性を尊重しながら「広島の街に、もっと紫を」と言うことでまず協力して行ければと思います。
(2014年のサポーターズカンファレンスより抜粋)

2年後にはもっと突っ込んだ質問がありました。それに対してクラブは経営面の課題を理由に提携を否定しています。

※余談ですが、サンフレッチェ広島は2012年に経営危機に陥りました(厳密に言うと2011年に債務超過すれすれまで行った)。クラブライセンス制度も導入されることもあり、99%減資をした上で増資をすることを決定。その代わりに「経営再建5ヵ年計画」を実施することになりました。結果として3度のリーグ優勝で問題を一気に解決できたのですが、この計画の縛りがあったため思いきった投資は難しかったのでしょう。当時の解説はこのあたりが分かりやすいです。

最後に、いくつかの質問にまとめて答えますと、JクラブのセカンドチームをJ3に算入させる場合にサンフレッチェはその意思があるかどうかということですが、これは現状考えていません。真面目にセカンドチームを作ると追加で1億円くらいコストがかかりますので、まずはプロチームとユースをはじめとした育成組織の充実に資源投入をしたいと考えます。女子サッカーチームに関しても同様の見解であり、近い将来に女子サッカーチームを持つ考えはありません。アンジュヴィオレ広島の皆様とリスペクトし合いながら、ともにサッカーで広島を盛り上げて行きたいと考えます。新規事業全般に言えることですが、サンフレッチェとしてはまず3年前に策定された「経営再建5ヵ年計画」の精神が一番大事だと考えます。まずは目の前のことに集中していきたいと思います。
(2015年のサポーターズカンファレンスより抜粋)

さらに次の年のサポカン。やっぱり経営面を理由に否定していました。

何度聞いてもなしのつぶてだったためか、2016年以降のサポカンでは女子サッカーに関する質問・説明は全くありませんでした。

3.急な方針転換

ところが今年6月に入ってWEリーグ創設の話が出た途端雲行きが変わります。サンフレッチェ広島がWEリーグ参入へ申請するという報道。

【女子サッカー】サンフレ、女子「WEリーグ」参入へ(中国新聞 2020年7月14日付)

J1広島が2021年9月に始まる日本初のサッカー女子プロリーグ「WEリーグ」の参入を目指していることが13日、分かった。サンフレッチェの知名度を生かし、広島の女子サッカー熱を高めることが狙い。今月中に申請手続きをする。
(中略)
広島は、男女のプロチームを保有すれば、クラブのブランド力の向上につながり、24年に開業する新スタジアムの機運も高まると判断した。申請においては、なでしこリーグの3部にあたるプレナスチャレンジリーグに所属するアンジュヴィオレ広島との連携も検討したが、単独でチームをつくることを選んだ

アンジュヴィオレ広島との提携を検討したものの独自チームを創設した上でWEリーグに参入するというものです。この段階ではよく事情が分からなかったのですが、申請後の9月に詳報が出ました。

【女子サッカー】<スポーツ最前線>プロリーグ参入巡り揺れる広島女子サッカー アンジュ、存続へ奔走(中国新聞 2020年9月18日付)

広島の女子サッカー界が揺れている。2021年秋開幕の女子プロリーグ「WEリーグ」に参入申請したJ1広島は、アンジュヴィオレ広島との協力を打ち出していたが、ゼロからクラブをつくることに方針を転換。9年にわたり、競技普及に努めてきたアンジュヴィオレは来季の運営難に陥り、存続を懸けて新たなスポンサー探しに奔走している。

▽J1広島が翻意
アンジュヴィオレは当初、WEリーグへの参入申請を視野に入れていた。7月にJ1広島が手を挙げたことで、協力を打診。J1広島は「志を引き継ぎたい」と下部組織の受け入れに前向きだったが「社内で、プロ選手を自前で育てたいという意見が強かった。決定が遅くなったことは申し訳ない」と仙田信吾社長は破談の理由を説明。トップチームだけでなく下部組織も引き継がないことを決めた。

この中国新聞の報道によると、WEリーグリーグ発表後にサンフレッチェ広島が手を挙げ、アンジュヴィオレが打診して提携交渉していたものの交渉破談という流れだったようです。

さらに昨日の記者会見で、サンフレッチェ広島が次のように説明しました。

※どうでもいい話ですが、この記者会見のURLが「news/wereague/3150」になってるのはギャグなんですかね…?

WEリーグ参入記者会見を行いました! (サンフレッチェ広島 2020年10月15日付)

改めまして、参入に至るまでの経緯を申し上げます。
今年の初め、女子のプロサッカーリーグに手を挙げてほしいとのお話を、アンジュヴィオレ広島様からいただきました。私どもはその時点で、参入する意思がないことをお伝えしておりました。そして、このコロナ禍です。女子サッカーのプロ化そのものがどうなるのかと、私どもも心配しながら見守っておりました。
それが今年6月、新しいリーグが立ち上がることが決まりました。来年秋の開幕を目指す、そのうえで申請は7月末が締め切りという、大変きつい日程が示されました。私たちは、アンジュヴィオレ広島様が女子プロサッカーに手を挙げない場合、トップリーグに広島の名前がなくなることを大変危惧いたしました。

このように、年初の時点では参入するつもりがなかったけれど、アンジュヴィオレが参入しないのはさすがに拙いということで重い腰を上げたという事情だったそうです。

WEリーグ参入記者会見を行いました! (サンフレッチェ広島 2020年10月15日付)

Q)広島にはアンジュヴィオレ広島というチームがあります。今後の関係性はどのようになるのでしょうか?

仙田社長「アンジュヴィオレ広島様が手弁当で横川地区を中心に、女子サッカーの文化を作るために、そして育成、普及をしていくために奮闘しておられたことに対して、心より敬意を表し、リスペクトしております。女子プロサッカーリーグにアンジュヴィオレ様ではなく、サンフレッチェに手を挙げてほしいというご要望に対して、我々はずっと悩んでおりましたが、6月の時点で『受けます』ということを申し伝えました。その際、アンジュヴィオレ様には、本当に喜んでいただきました。その際に、トップチームの監督、コーチ、選手、アカデミーのコーチにつきまして、『申し訳ないですが我々は引き受けることはできない』というお話もしております。女子のプロサッカーリーグは日本代表クラスが参加してくるトップリーグです。そこに我々がチャレンジしていくために、1からチームを作る必要があることは、ご理解いただきました。
また、アカデミーは、男子のユースがそうであるように、プロを目指す選手たちのチームになります。ユースの選手たちは非常に厳しい規律の中で、吉田高校に通い、勉学に励みながらプロを目指している。その前提となるジュニアユースも含めて、やはり1からやっていく必要があると思っています。一方で普及の部分、サッカースクールについては、アンジュヴィオレ様も大変頑張っておられ、その部分は引き継がせていただきます、と申し上げております」

トップチームとアカデミーについては既報通り引き継がないけれど、スクールについてはサンフレッチェが引き取ることになったと。

トップチーム等を引き継がない理由についてはなんとも言えませんが、この会見等を見る限りでは本当にゼロベースでチームを立ち上げることになりそうですね。

4.サンフレッチェ広島が参入できた理由

サンフレッチェ広島がどうして参入を目指したのかは分かりました。では、なぜ審査通過したのか。昨日の記者会見からヒントを拾っていきます。

WEリーグへ参入を希望したクラブは17あり、6クラブは審査の段階で落とされたということになります。審査では次のポイントを重視したとのこと。

無題

このうち、競技力観点については完全にゼロなのでなおのこと審査通過したのが不思議でしょう。さらに参入が認められたのが11クラブと奇数なのも違和感を覚える人が多いと思います。

無題

となると、こちらのスライドにある「ホームタウンの広がり」や「エリアカバー」といった面が高く評価されたのでしょうか。岡島チェアは質疑応答で次のように述べています(動画35分30秒頃の東京新聞の質問に対する回答)。

地域性はある程度考慮いたしました。ただ、地域性だけというよりはやはりクラブの力、財政的な面。特にやはり財政基盤というのは、非常に重要視をいたしました。11クラブ全てその基準に合っているということで、もちろん埼玉3チームということで、ちょっと固まってしまったんですけれども、それぞれの魅力があるという判断をいたしまして11クラブにいたしました。

このように地域性は考慮されたようですが、もう一つ述べられている財務基盤がポイントだったようです。同じような発言が他にも(動画49分30秒頃の日経新聞の質問に対する回答)。

ただ、やはりプロリーグとして高い基準を設定しました。特に財務基盤とスタジアム。そちらの基準を満たせないクラブに関しましては、やはり少し待って頂くという決断をいたしました。各クラブに対しましては、是非ここを直して欲しい、ここを改善してまた来年トライして欲しいという風に伝えております。

サンフレッチェ広島の場合、すでにJリーグチームを運営していることは大きくプラスに働いたのでしょう。というか財政基盤とスタジアム要件でふるいに掛けたら11クラブ残ったので、11になったというのが正しいのかもしれません。

5.サンフレッチェ広島の課題

ゼロベースでチームを立ち上げる以上様々な課題が想定されるところ。すでに紫熊倶楽部が指摘しています(練習場以外にも頷ける課題を指摘しておられるので是非購読してください)。

【WEリーグ】サンフレッチェ広島女子チーム、ゼロからの船出。(紫熊倶楽部 2020年10月16日付)

問題は練習場を含めた環境だ。吉田サッカー公園の併用は可能か。仙田社長は「併用も含めて検討中」と答えているが、現実的にははたしてどうだろうか。ロッカールームやシャワー、入浴なども含め、男女が共有するのは現状のままでは厳しい。練習の行き来を考えても大きな負担が強いられる。

他にも選手獲得はもちろん、WEリーグが秋春制を採用するため、クラブの営業面でも大変なのではないかと個人的には危惧しています。

ノウハウがないまま2足のわらじを履くというのはかなりリスキーではあります。ただ一方で、サンフレッチェ広島が手を挙げなければ強豪INAC神戸以西のクラブはなかったわけで、その意味ではJリーグ参入時と同じ構図。

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むしろ男子チームで培ったノウハウとコネクション、ハードを生かせる分、随分とまともな戦いができるはずです。全く楽観視できる状況ではありませんが、広島のそして西日本の女子サッカーを盛り上げられるよう頑張って欲しいです。

誰かが書いてましたが、新スタジアムでサンフレッチェと女子チームの統合年パスとか販売されたら買いたいな。

以上です。それではまた。

6.10/17追記

石井和裕さんによる素晴らしい取材記事がタグマに掲載されましたのでみんな読もう。購読しよう。

タグマのサッカーパックは入って損はないですよ。特に広島ファンだったら紫熊倶楽部とあと3つ購読するならパックの方がお得。

この辺の有料コンテンツ全部読めるんやぞ。オススメ(ダイマ)。

サポートして頂いた金額は、広島のスタジアム建設募金に全額寄付する予定です。