コロナ雑感:PCR検査の問題点

※引用です。

2021/01/03

 10月後半から、COVID-19のPCR陽性者は増加傾向にありますが、くれぐれもパニックにならないようにしましょう。10月後半から気温の低下および空気の乾燥およびGo Toキャンペーンも含む人の移動接触の増加も相まって増加傾向にあると思われますが、現在の状況は想定外のことではありません。

 ここで気を付けなければならないことは、マスコミは現在の状況を「コロナ感染症(COVID-19)の増加」と安易に使いますが、正確には「コロナ感染症(COVID-19)のPCR検査陽性者の増加」です。確かにPCR陽性者の増加は感染者の増加を示唆していますが、これまでも述べているとおり、この違いは明確に区別しておかねばなりません。

 11/11に東京都でPCR陽性者が317人と2カ月ぶりに増加したと発表しましたが、夕方の小池知事の会見では「無症状の方が100人を超え、これは過去最高です。これは自費検査も含め、みなさんが積極的にPCR検査を受けた証です。」との内容を述べました。都内では1日あたりのPCR陽性者が1週間平均で330人程度だった、第2波といわれた8月上旬でも、無症状者は50人程度(それでも多い)でしたが、11/11は317中104人(約33%)、1/12は393人中101人(約26%)、11/13は374人中98人(約26%)と、無症状者が約1/4~1/3を占めるようになっています。この現象の主な要因は自費でPCR検査を受ける人が多くなっているためとしています。Go Toキャンペーンの旅行パックにPCR検査が含まれてることや、出張や帰省、高齢者施設に行くため、自費で検査を受ける人が多くなった結果、無症状の保有者が洗い出されてきたというわけです。この是非については後述するとして、この問題点として、自費検査で陽性になった場合、陽性者は保健所に報告され陽性者数に加えられますが、陰性の場合、その陰性の検査数は全てのPCR検査数に上げられないという不都合が起きてしまい、PCR検査数に対する陽性率は、実際より高い数字になってしまう現象がおきてしまいます。これは、実効再生産数にも影響が出てくるものと思われます。

 また、実はPCR検査自体の問題点もあります。今回COVID-19感染症の流行を機に、突如感染症の検査としてPCR検査が出現しました。これまで、この検査が臨床の感染症の現場で使われたことはありません。PCR検査は、簡略にいうと、唾液中あるいは鼻腔口腔内にいるウィルスの遺伝子の特定の断片を取り出し、それを倍々に増幅させていき(サイクル数といいます)、サイクル数から存在するウィルスの量が推定される検査です。要するに、サイクル数(増幅の数)が少なくて陽性になればウィルス量は多く、サイクル数を多くして陽性になるようであれば、ウィルス量は少ないことになります。このサイクル数はCt値(threshold cycle)と呼ばれています。そして最も重要な問題は、ではCOVID-19感染症を陽性とするCt値はいくつに設定されているのかということにあります。つまり、Ct値を高く設定すると、微量のウィルス量でも陽性と診断されてしまいますし、また感染性のあるウィルスのCt値はいくつくらいまでなのかという重要な問題もあります

 感染症学会が10/12に発表した「COVID-19検査法および結果の考え方」では、感染者408人のデータに基づくと、発症直後のCt値の平均は20前後と低い値で陽性になっていますが(つまりウィルス量が多い)、発症後ウィルス量が減少していくに従い、Ct値も徐々に高くなり、発症9日目にはCt値の平均は約30.1と上昇、Ct値はウィルス量と相関していることが明らかにされています。また、ウィルスが培養されて陽性になるのは、発症8日目まで。さらに、抗体値は発症5日目から上昇し、発症8日目には約80%の人が抗体陽性となり、その後はウィルスの分離はみられなくなると報告されています。

 では、COVID-19感染が陽性となるCt値はどこに設定されているのかというと、実は国際的な標準値はなく、国の指針も明確にはないようです(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65910480W0A101C2CE0000/)。ですから、国によって基準値が異なると、日本より基準が低い国でPCR検査陰性だった人が、来日して検査したら陽性だったということも起こりえます。日本の国立感染症研究所のマニュアルでは、Ct値が40以内で陽性と定めているとのことなので、国内ではこれが基準と思われますが、台湾では35未満、中国では37~40で再検査を推奨となっているそうです。米国でも40前後を陽性としているようですが、適正値は30-35くらいではとの批判意見も出ています。最近聞いた日本の感染症専門医の講演でも、34くらいが目安ではとの意見がありました。

 しかし、このCt値の推移とウィルス量・感染性の関連性から、日本の退院基準は定まっており、有症状者の場合、発症日から10日間が経過して、3日間無症状であれば、PCR検査なしで退院許可となります。ちなみに、発症10日目のCt値の平均は32-33くらいです。さらに、発症14日目でも、Ct値は40まで達していません。

 日本のPCR検査陽性のCt値の基準値は、恐らく慎重を期して40程度に設定されたのものと思われますが、高めの設定だとウィルス量が微量あるいはすでに死骸になったウィルスの断片を拾っている場合があり、無症状者あるいは感染性がない人も陽性に扱われてしまう可能性があります。これが「PCR検査陽性者数=100%COVID-19感染者数」とはならない理由です。

 このように今回COVID-19を機に導入されたPCR検査は、実際にはまだまだ感染症の検査として未成熟のまま(というより今回のCOVID-19感染症から臨床データをとり、現在進行形で成熟している?)発進したと考えられます。今後、臨床データが蓄積してくると、PCR陽性基準のCt値も見直されていくかもしれません。

 今まで同様、私はCOVID-19を軽視することを勧めているわけではありません。しかし、異常に怖がってはいけません。「注意すべき感染症」です。特に高齢者にうつさない、病院や施設に持ち込まない、ためにどのように行動すべきかが重要です。外来で診察していると、「心が病んでいる」方が、非常に増えています。また、通勤が減った影響もありますが、運動不足から、体重増加の弊害も顕著になっています。COVID-19に罹患しても軽く終わるためには、日頃から軽運動で良いので、体をよく動かしながら、心を病まないような工夫をして、免疫力を下げないようにしておくことが重要です。病まないためには、人との交わりも大切ですから、最低限の予防策を講じながら、交流することも重要です。

 相変わらず、マスコミは、どこでクラスターが発生したと、連日施設名、学校名など出して報道していますが、それでどれほど傷つく人がいるのか、無責任なものです。発症者の周囲に無症状でもPCR検査で陽性になる人が出てしまうのは上記に述べたPCR検査の特性からおわかりと思いますが、そのせいもあり、すぐにクラスター!とレッテルを貼られて報道されてしまうのは、非常に疑問です。完璧に防いでいるつもりでも、起きてしまうことはあるでしょうし、決して犯罪者ではありません。さらに、国や専門家から「気が緩んでいる!」などと上から目線で言われるのは、あまりに不愉快です。そのような報道には惑わされず・振り回されずに、心身の安定を図るような日常を心がけましょう。

 尚、国立国際医療センターの国際感染症センター勤務で、COVID-19の最前線で治療にあたっている忽那賢志医師の記事(https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/)も、重症者を診ている立場からの意見として、ご参考にされる良いと思います。

 また、京都大学ウィルス・再生医科学研究所准教授の宮沢孝幸先生がYou Tubeで発信している情報も、ウィルス専門家の立場からの率直な本音が聞けますので、ご参考にされると良いと思います。