もう子どもじゃなかった
大学を卒業して一か月。
職が決まらず、国民年金も払う余裕もなく、大学までの定期もとうに期限切れ。電車賃の160円さえもケチるため、歩いて隣駅の市役所まで年金の手続きをしに行った。
帰り路、ああ、私はこれからどうやって生きていくんだろう、なんて考えながらボーッと歩いてると、下校途中の小学生の男の子が私の前を歩いていることに気づいた。
彼は、歩道の端に生えているダンゴムシみたいな雑草をいちいち触りながら、マイペースに歩く。私もこんな年の頃があったな、ついダンゴムシの草は触っちゃうよね、と思いながら彼を眺めていると、ふいに彼が振り向いて私を見た。
彼は、私に見られていたことに気づき、手に持っていたダンゴムシの草を捨て、早足で歩き始めた。
1分に1度は振り向き、私の位置を確認する。
あ、私不審者だと思われてるのか、と気づいた。
彼を抜かして、追いかけてるのではないと意思表示しようと早歩きすると、彼はさらに焦り、走り出した。20代の早歩きと重いランドセルを背負いながら走る小学生のスピードはほぼ互角。一定の距離を保つ結果となってしまった。
そんな状況が10分ほど続き、ついに彼は道を曲がった。私はまっすぐ進む。やっと不本意な追いかけっこが終わった。
道を曲がった後も、彼は私をまだついてくるのではないかという不安と気持ち悪さが混ざった顔でこちらを見ていた。
知らない大人についていくな、と言われた小学生時代。私はいつのまにか、知らない大人になっていた。
あの日の男の子、不安にさせてごめんね。
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