スキズフィリックス.2
アイドルと向き合う時、同時にそれを映し取る自分とも向き合わなければならない。
こちらの認知が歪んでいれば、美しいアイドルも同様に歪む。私たちファンはアイドルを見たいようにしか見られない。穢れのないアイドルを目の当たりにして、虚妄はあくまで虚妄でしかない、と私は思い知ったのだ。わたしの歪んだ視点でアイドルを見ていては、正しく見ることはできない。それって罪深い。わたしにはわたしの視点からしか彼らを測れないことが、私は悲しい。
推しのグループストレイキッズのメンバーであるフィリックス(写真上段左から二番目)を「天使」と誰もが表現する。誰にでも親切で、人に寄り添う優しい天使のような子。同じグループのメンバーですらそう呼ぶ彼にずっと違和感があったことを告白しようと思う。
天使はいない、わたしの知るこの世には。
わたしは天使に会ったことがない、まだ。
周りから天使のように良い子だと評される子が、ドロドロのえげつない恋愛をしていたり、会社のお金を横領していたり、人をバカにしてどこかで線引きをしていたり、それなのに自分は人を傷つけたことなんてありませんという顔をして天使のふりをしていたり、私と同じ世界に住むわかりやすい天使のような良い子はそんなものだった。
見る位置によって、見え方の変わる良い子。
人間臭いそんな人間のことをわたしはもちろん認めるし、人間の内側に陰陽はたしかにあるし、それが当たり前だ。
フィリックスという人間を自分に映し取るまで、わたしはこのこの世に天使などいないという、今までの経験から導き出した答えは、真理だという自信があった。だって、わたしは生きてきて会ったことがないのだ。本当に優しいと言われる天使に。
だから、日常を共に生活し、仕事を共にしているメンバーの誰も彼もが、フィリックス(ピリちゃん)のことを、とにかく「天使」だと表現し切ることに、「そんなことがあるかいな」と感じながらも、それを言っては無粋な人でなしと断じられると黙ってきたのだ。保身のために。(なんの保身)
AB型の韓国系オーストラリア人で、生まれながらにして美形の彼とA型中肉中背の日本人の私では成長過程でどうしようも相容れない部分もあるかもわからないが、AB型の夫と結婚して、欧米人とも韓国人ともまあまあ付き合いはある中で、わたしはフィリックスのことがどうしてもよくわからないでいる。
どこかで、彼に「ストレイキッズのフィリックス」しかり「アイドルのピリちゃん」というキャラクターを全うしているという雰囲気を勝手に感じとっては、本来の彼はどう言う人なんだろう。と、ずっとずっと観察分析するために見てきたのに、どうにもわからないのだ。
それほどに彼のアイドルとしての仕事ぶりは、素晴らしい。
彼の魅惑的に深い声がないストレイキッズの楽曲は考えられないし、パフォーマンスの主人公がフィリックスになってからのストレイキッズは、めちゃくちゃに面白く、なんでもありえるし、とても新しい。
わたしは実のところ、フィリックスのパフォーマンスの安定性をえげつないと思っている。どの楽曲でも、キリングパートと言われるような外すことが許されないパートを担当している彼は、いつどの局面でもサイボーグなのかなと思うほどに、絶対に外さない。パフォーマンスの重心を取るタイプでは無く、楽曲の到達する最も高い臨界点を刺すようなスタイルのエッジの効いたパフォーマンスを毎度毎度必ず魅せてくれる。
俺を見てくれ!!という圧の強いタイプでは無いフィリックスの、毎度完璧なパフォーマンスを見るたびに、コンセプトを飲み込む能力の高さ、それを完成させられる彼のヴィジュアルと、ここに到達するために努力に努力を重ねたであろう過程を想像する。
いまだに全然ちゃんと、わかったわけでは全然無いのだけど、現物の彼のパフォーマンスと彼の挙動を見て私が感じたのは、
フィリックスが、「本物なんだ…」ということだった。
完璧なパフォーマンスを3時間見せてくれたライブの終盤、各メンバーのメントを終え最後の曲が流れる中で他のメンバーが方々に手を振りファンサをする横で、感極まり大号泣した彼が曲が歌えなくなる様子に、両手をメガホン状にして、マイクオフの状態で一生懸命、それも必死に、
「ありがとうございました」
と頭を下げながらファンに言って回る姿に、
いや、そんな歌えなくなるほど嗚咽して泣くとか、そんな、うちらより泣いてんじゃんか…え、まって、そんな純粋なことある?!え、あるんだ、あるんだよね、泣いてるもんね…ちょっ、びっくりするくらい泣きやまないけど、大丈夫かな、ど、どうした?え、まって、ピリ、まって、今バンバンに曲流れてるし、聞こえんよ、ありがとうって言ってるんだ…そか…でも、今それ聞こえ…ないんじゃ…でも、本気だ、いま、フィリックス本気だ。本気でありがとうって言ってくれているんだ!!!!!!!!!!!心から思ってないと、あのムーブにならんくない?!あ、また方向変えてありがとうございますしてる…フィリックスみんな手を振ってほしいかもだよ…いや、でも、そうだね、ありがとうございますの方が本当の気持ちだもんね、それ伝えた方がいいね、え、まって、その距離は絶対聞こえ…聞こえてるとか聞こえてないとかは、もう、関係ないね、関係ないよ、フィリックスが言いたいんだから、仕方ない。言いたいだけ、言ってくれ!見てる、言うの見てる。あ、また泣き出したね…
二階席から見たフィリックスの、あまりに純粋な様子に、子供の頃にクリスマス時期にだけ通った教会で、神父様を目の当たりにした時のような気分になる。あるかもしれないんだと、思う。
アリーナブロック最前列で見たフィリックスの超美形のかっこよさに慄きつつも手を振れば、それはそれは清らかに満面の笑みで手を振り返してくれる彼に、きゃーー!!!ファンサをもらったー!!!!!!!と言う世俗的な喜びとは違う、感情が芽生える。
クリスマス礼拝の神父様からパンを受け取った時、成田山の節分で投げられた豆に手が届いた時、天皇陛下皇后陛下に偶然居合わせた公園で手を振っていただいた時と似た、敬虔な気持ち。不可侵の清らかさを自分の身で穢してはならないと、手を引いてしまうような、自分が問われるほどの透度。
私も初めて見たんだ、彼のような人間を。
メンバーのハンがフィリックスのことを「純粋結晶体」と表現したことがあった。フィリックスを表現できる言葉がこの世にまだ無いから、ハンが作った言葉だ。
人に向き合う時、同時にそれを映し取る自分とも向き合わなければならなくなる。
わたしの歪んだ視点ではフィリックスを正しく見つめられていないだろう。
不可侵の「純粋結晶体」は、今日もこちらに問いかける。
僕はどうあなたに映っていますか?と。
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