「血は苦手なので今日もいちごミルクって言いましたよね?!」第二話「美少女吸血鬼は懇願する」

-1-ふたりにはいつもと変わらない朝の通学風景

ナディアの住む洋館-
実は日本最古の洋風建築というその事実は伏せられている。
トランシルバニアの建築士が密かに日本を訪れ、吸血鬼の棲み家として建てたのが始まりと言う。
その館の主、ナディア・イオネスクは吸血鬼の名家イオネスク家の次女である。
長く黒髪、ルビーのように燃える真っ赤な瞳、
街を歩けば下心がはみ出ている男たちやスカウトたちが必ず声をかける美貌の持ち主、だが本人には見た目に対する自覚が全くと言っていいほどないので彼らのことはウザったらしいゴミとしか見ていない。

吸血鬼とは言うものの、「生きるために人の血を飲み続けなければならない」わけではない。
太陽、十字架、銀や大蒜に対する耐性を獲得した者も多数いる。(銀の銃弾などそりゃ急所に当たれば即死でしょ?的なものもあるので弱点と言われるものの大半は都市伝説的ではあるのだが)
ナディアも皮膚には太陽への耐性があり、眼球も黒化しない限り失明することはない。
眼球の黒化は満月の夜かつ感情の闇堕化など発動条件がかなり限られており、平時においては一般の人間とほぼ同等の生活を送ることができている。

何世代もの人間たちとの交わりや生活の環境順応によって始まりの吸血鬼達と明らかに急激な変化をし続けている。

純血を受け継いでいる者達を除いて・・・

純血の吸血鬼達は混血のもの達に比べて順応が緩やかであり、場合によっては吸血のみを糧とするもの達も少なからず存在する。

確かに、血を吸う行為は今もなお彼らにとって1番手早く栄養を補給する手段ではあるが、それも吸血鬼としての能力を高める一つの手段でしかない。

また人が血を吸われたからと言って必ずしも吸血鬼になるわけではない。

紗姫が口にした「血の契約」である。

人が吸血鬼になるためには「血の契約」という儀式を交わす必要がある。
指に聖なるナイフで傷をつけ、傷口から出た血を相手の指で重ね合わせたまま互いの首元に歯を立てるのだ。
人は指の傷口から吸血鬼の血を体の中に取り込み、
吸血鬼は相手の首元からその牙で血を吸うことで人の血を体の中に取り込む。
そうして体内で互いの血が交わる。
ただ、これも吸血鬼として認められるための儀式なので人が完全な吸血鬼になるわけではない。
儀式を受けた人間としての行動に変化はない。

ところが吸血鬼は人間の血を取り込むことで徐々に人化が進む。
人の血を取り込んだ吸血鬼たちの子孫がまた人の血を取り込む。
太陽や十字架への耐性はそうやって獲得されたものである。

ナディアの場合、生まれつき血を見ることが嫌いな子供であった。
自分や身の回りで怪我をするとその傷口を見るだけで卒倒していたくらいである。
吸血鬼は小さい時は母親吸血鬼の指から血を分けてもらい栄養を補給することが多いのであるが、ナディアはそれすら拒絶していたので血に慣れさせるために赤い飲み物や食べ物を与えられることが多かったが、そのほとんどを口にしなかった。

唯一、館の農園で育てられているいちごをすりつぶしたものは食べることができた。
その他の食生活も偏っているので貧血ではあるが。

庭師によって手入れの行き届いた敷地の庭園を通り過ぎ、表の道へと向かうふたり、

ナディアの隣には同い年の少女藍澤紗希が歩いている。
互いの両親が昔からの知り合いであった事から、ふたりは小さい子らから遊んでいる幼馴染である。

背はナディアより高く顔立ちも大人っぽく見られるのでナディアの姉と勘違いされることも多い。
ナディアにとって紗姫は最高の親友ではあるのだが、
見た目の完成度についてはコンプレックスを与える存在でもある。
「特にその胸だ!」
「ナディア様、唐突に何を言い出すんですか?!」

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