落ち葉の囁き

秋が深まるにつれて、古い町の街路樹は色とりどりの葉を落としていた。町外れに住む若い女性、結衣はその季節を待ち望んでいた。彼女はこの町で生まれ育ち、毎年秋の美しい景色を楽しんでいた。しかし、今年は何かが違った。いつもと同じ道を歩いても、落ち葉が囁き声のように聞こえてくるのだ。

「結衣……」

彼女は足を止め、周りを見回したが、誰もいない。ただ風が吹いているだけだ。

その夜、家に戻った結衣は、リビングに置かれた窓際の椅子に座り、外を眺めた。月明かりが差し込む中、庭の落ち葉が風に吹かれて揺れている。しかし、またあの声が聞こえてきた。

「結衣……私たちを忘れないで……」

心臓が跳ねる。彼女は椅子から立ち上がり、窓を閉めた。だが、声は止まらない。まるで窓の外の落ち葉が生きているかのように、彼女に語りかけている。

結衣は子供の頃、母親から何度か「落ち葉に気をつけなさい」と言われた記憶があった。その理由はわからなかったが、今になってその言葉の意味が重くのしかかる。町の言い伝えによれば、落ち葉には町の亡くなった人々の魂が宿ると言われていた。秋になると、彼らは風とともに地上に舞い戻り、未練を残した者たちに囁きかけるのだと。

「まさか……」

結衣は母がいつも語っていた古い話を思い出した。町に古くから住む人々が、家の周りを掃除する理由はこれだったのだ。魂を家に入れないために。

次の日、結衣は落ち葉の囁きがますます大きくなっていることに気づいた。通勤のために駅に向かう途中でも、誰もいないはずの道端から囁き声が聞こえてくる。

「結衣……私を見つけて……」

耐えきれなくなった彼女は、祖母の家を訪ねることにした。祖母はこの町で最も古い住民の一人であり、何か知っているかもしれない。家に到着すると、祖母はすぐに異変に気づいたようだった。

「その声を聞いているのかい?」祖母は低く囁いた。「それは、あの木の下で死んだ人たちの声だよ。」

祖母によれば、町の古い公園にある大きな樹の下には、多くの人々の魂が眠っているという。その魂は、落ち葉に宿り、時折、生きている者に呼びかけてくるのだ。

「どうすればいいの?」結衣は震えた声で尋ねた。

「もうすぐ彼らは君を取り戻しにくる。落ち葉の囁きが完全に消えるまで、絶対に応じてはいけないよ。」

しかし、夜が深まるにつれ、囁きはますます激しくなっていった。「私を見つけて……結衣……私を忘れないで……」

ついに我慢できなくなった結衣は、祖母の忠告を無視して外に飛び出した。公園へ向かい、巨大な樹の下に立つと、そこには膨大な量の落ち葉が積み重なっていた。そして、その中心には一枚だけ、黒く変色した葉があった。

「見つけた……」

彼女がその葉を拾った瞬間、空気が凍りつき、風が止んだ。次の瞬間、無数の影が落ち葉から立ち上がり、結衣を囲んだ。

「やっと……会えた……」

その言葉を最後に、結衣は姿を消した。次の日、彼女の姿を見た者は誰もいなかった。ただ、町の公園には、彼女の名前が囁かれ続ける新たな声が風に乗って聞こえていた。

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