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町田国際版画美術館 「版画の青春」


版画の青春 小野忠重と版画運動
―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―
町田市立国際版画美術館


はるばる?町田にまで小田急線を乗り継いで見に行った。町田久しぶりだけどマジ都会で飲み込まれる感じある。駅から約15分ほど、公園の段差を降りていくとあるのが町田市立国際版画美術館。ここ数年、油絵より版画が好きだなーと言いつつ、お初の訪問ですすみません。

といってもタイトルに小野忠重は入っているが、彼の作品はそこまで多くない。昭和初期の藤牧義夫の版画に興味を持って以来、彼の展示は鎌倉とか館林まで行ってみたりしたが、小野忠重は阿佐ヶ谷にあった版画館の施設ももはや無くなっておりさてどこで見れば?という感じではあったんですよね。ただ「小野忠重版画館蔵」からのものは多数あり、どこに保存してるんだろうか(聞けばよかたんだけども)。
藤牧義夫が生きた時代の版画作家の作品をまとめて見られ、先日板橋区立美術館で見た「シュルレアリスムの時代」の感じに近い印象も持った。昭和初期にアートシーンが発展したのにも関わらず、政情が悪くなりいったん収束した感じも同じ(どのシーンも同じか)。

今回小野、藤牧の他に武藤六郎、武田(鈴木)健夫、水船六州、吉田正三の作品を見れたのが非常によかった。
個人的には、武田(鈴木)は東大卒銀行家なのに労働者の働く様を版画で表現していること。労働者を描きつつ写実性を帯びて他人事ではない、現実で作者が同じ目線に立っている印象を与えること。
武藤の「日暮里遠望」「銀座歩道」1932 、駅前、傘屋、カフェ、扇子やの前の通りと人を描いているのだが、カラフルな生き生きとした作風にその時代の様子が垣間見える。
一方でどこか高貴な感じの柔らかい版画なのが水船、浮世絵のようなふんわり柔らかい感じがあるんだよなあ。。。美人画の昭和版というか、そこまで好みではないけど、色使いも現代的。

小野は世相を現しているからか、版画の線が太くて、力強くダークな色使い。絵も下の方向からじーっと見ていると絵が浮き上がる。最後の展示室にあった1937年からの深い10点の並びは、深い闇の淵から異界から手を伸ばされているような、闇に取り込まれそうなものがあった。なんだかこれジョルジュ・ルオーに似てませんかねって思ってたら、特別陳列で並んでいました。ルオーは宗教的なものが深いが、小野のものは時代的な世相を反映しているように感じました。

💡入ってもうた


一方で、80年代のポップアートかと思うような色使いの版画もあったりするのです。ホテルのプールを描いたような。とても新鮮だった。

この時代は印刷技術も出て、絵のプリントや写真も普及が始まっていた時代。浮世絵時代の版画しか普及技術がなかった時代と違って版画は他のジャンル以上に「アート」を求められていたはずで、版画ならではのアイデンティティ模索で各作家が運動していたことが推測され、版画というものの認識をまた改めることができました。

別室では「日本のグラフィック・デザイナーと版画」もあり、永井一正、田中一光、ミルトングレイザー、和田誠なんかも見れたんで町田まで足を運んだ甲斐ありました。

2024年5月

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