COKAGE
森の中に、音楽の大好きなウサギがいました。仲間と楽器を鳴らしては、いつもおどっているような、とても陽気なウサギでした。仲間たちにかかれば何だって音楽になりました。風のうねり、葉のこすれる音、ときには雨粒も、誰かの寝息さえも。そんな風に、いつも音楽とともに、みんなで仲良く暮らしていました。
とある雨の日。止みそうもない強い風雨。 家の中でみんな、身を固くしていました。
「ああ、はやく歌が歌いたいなあ。 嵐の音にかき消されて、なんにも聴こえやしないよ。」
そのとき、大きな雷が、ズドーンと落ちました。ウサギのおうちの、目の前でした。
バリバリバリ。メキメキメキ。
ものすごい音と、光で、あたりは真っ白になりました。
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・
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あれ、あれ、おかしいな。急にしずかになったぞ。
雨も風も、止んでいないのに。
その雷で、ウサギの耳は聴こえなくなってしまいました。ウサギは耳をうなだれて、口をきかなくなりました。仲間たちは困ってしまいました。ウサギを励ますのに、音楽以外の方法を、ひとつも思いつかなかったからです。
そうして何日かたったある日、くまが言いました。
「森のむこうに、心に届く音楽が 聴ける場所があるらしい」
行ってみよう、行ってみよう。鳥たちを先頭に、ウサギを連れて、みんなはその場所へ向かいました。
たどりついたそこは、小さな看板をかかげた、小さなお店でした。中では、誰かが歌を歌っていました。
((ぼくには、なんにも聴こえないよ!))
ウサギは声にならない声でさけびました。みんなはしんと、黙ってしまいました。
すると、ウサギの目の前に、おいしそうな料理がはこばれてきました。くんくん、うん、いいニオイだな。
ウサギは、ひとくち、その料理を食べました。あったかくて、やさしくて、とてもおいしい料理でした。少しずつ、ウサギのこころはゆるんでいきました。
そのときです。
ダン!
太鼓をたたく振動が、ウサギのむねに届いたのです。
あっという間にいろんな音が混ざり合って、部屋中がひとつになりました。
その音楽はウサギにも、聴こえました。
振動が、たのしさが、こころに直接届いたのです。
演奏しているひとの顔、お客さんの顔、ともだちの顔。
みんなが気持ちよさそうに、体をゆらすこと。
その波が、こころをふるわせること。
耳で聴くよりも、もっともっとたくさんのものを、ウサギは聴いたのです。
こころで、聴いたのです。
ゆれる、ゆれる。とびはねる、うたう、笑う。
そのあたたかさに、ウサギはこころをほどかれて、うんとやさしい気持ちで眠りにつきました。耳が聴こえなくなってからはじめて、安心して眠りにつきました。
その場所の名前は『cokage』。
誰かが誰かと、コーヒーを飲んだり、ごはんを食べたり、お酒を飲んだり、笑ったり、語り合ったり、絵を描いたり、歌ったり、出会ったりする、おいしい料理と、すてきな音楽や作品と、笑顔にあふれた、みんなの場所でした。
みんなのだいすきな場所でした。
夢の中でウサギは音楽にからだをゆらして、
大きな声で高らかに歌うのでした。
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あとがき。(けーいちさんへ)
個人的なことですが
わたしのはじめての世田谷組曲は、最後の世田谷組曲でした。
あの日、体をゆらしながら、本当に夢のように楽しくて、
COKAGEがあることを本当に嬉しく感じたし
その空気をつくるけーいちさん、出演者の方、お客さん
みなさん本当にすてきで、だいすきで、ありがとう、と思いました。
常連というほど通ったわけでもなかったけれど
でもわたしにとって本当にたいせつな場所でした。
余韻に浸りながら、そんな想いが止まらなくて。
伝えたくて、その気持ちをしばらく見つめていると
水色のうさぎがちょこちょこ歩いてきて、
あたりまえのように、このお話が完成しました。
そして、わたしがCOKAGEを知ったきっかけでもある
近藤康平さんに絵を依頼させてもらいました。
お話を思いついたときから、
頭の中では康平さんのウサギや動物たちが跳ねまわっていました。
快く絵を描いてくださって本当に感謝しています。
また、どこかでCOKAGEのおいしいご飯が食べられること、
あたらしいCOKAGEに行ける日、楽しみにしています。
すてきな時間をありがとう。
届きますように。
さちこ
2011.8.19
絵:近藤康平 http://www.k4.dion.ne.jp/~kondo/
文:大島 祥(さちこ)
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2011年につくったこのお話、限られた場所でしか見られないようになっていたので改めてここに掲載しました。
COKAGEという、とあるカフェが閉店するときに、さみしかったけどそれより、感謝をつたえたくて書きました。
読んでくださってありがとうございました。
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うれちい