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雑多な本棚

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#母

花降らさば光抱く

「亡くなった人を思い出すと、その人に花が降る。」 流れていくタイムラインにその言葉をみつけたとき、私はこたつにもぐって黙々と本を読む母の姿を思い出していた。 その瞬間にも、母の頭上に花は降っただろうか。その花は果たしてどのくらいの大きさで、どれほどの多さで、どんな感触で、どんな色あいだったのだろうか。 ✶ ✶ つい先日、マンガ『図書館戦争』(弓きいろ)が完結した。 これはラブコメ小説『図書館戦争』(有川浩)シリーズをコミカライズした作品で、私がこれを初めて手にした

私の病室には椿を飾って

椿は、桜のように花びら一枚一枚が風に舞って散っていく花ではない。命を終えるときには、その首ごと、ぽとりと土に落ちる。 昔の誰かはその姿を「不吉だ」と忌んだらしく、現代でも、お見舞いや退院祝いにおいて、椿を選んではならないとされている。 椿が好きだ。 椿が最盛期を迎えるのは、だいたい一月から二月。多くの植物が眠る真冬。景色が色褪せてみえるその季節に、椿は咲き誇る。真っ赤な椿に真っ白な雪が重なる光景は、形容しがたい美しさだ。 寒空の下に赤を燃やす、その命は力強い。 椿が

あなたとみた春を想いだせない

「忘れる」とは、生きていく上で必要な機能だ。 一年前の今日何を買ったとか、先週の金曜日のTO DOリストとか、昨日通勤路ですれ違った人の服の色とか。そんな些細なものごとを覚えていられるほど、私たちの脳みそにはスペースがないらしい。 積み重なっていく日常には、忘れていいことのほうが、たぶん多い。だから、重要なメモリーの保管場所を確保するために、些細なものごとは「忘れる」のだ。 今までにこの目がみてきた色は、一体どのくらいあるのだろう?この肌が感じてきた風の種類は?この口か