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上顎洞炎と抜歯

歯を抜いた。
いや、抜いて頂いた。永久歯は自分で抜けない。

今日の記事は、抜歯処置の描写を含み、長いです(6430字)。興味のない方はここでやめたほうがいいです。

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この時のために、私は普段、文章を書いてきたと思った。

ものすごく勢いよく喋るのに、文章となると全く駄目な人がいる。文才とか、そういうんじゃない。

私は元々体が弱いほうで毎年入院する小学生だった。それに歯の知識のない家族と、地域にそこしかなかった歯科の、それは凄まじい苦痛の杜撰な「治療」。。なんて言葉絶対使いたくない!その時はわかりようもなかったけど、破壊されて金取られただけだ。時代と運の悪さ…
歯にはとても苦労している。

8年前、上の左の歯の1本が具合が悪くなり、それまで何度も、それは痛い根っこの治療を受けた歯で、もうこの歯は抜いて欲しいと思った。

歯の根が腫れ上がって、膿を持ってズキンズキンと拍動性に痛んで眠れないほどの虫歯の経験は何度もある。

でも、この時はそれと違った。
そういう痛みではないけど、その歯から鼻の左、左目、顔頭の左側と繋がって、ずっと痛い。拍動性じゃなく、とても重い痛み。
自分の感覚としては、歯からこれが起こって、この歯があることがもう、辛くてたまらない感じ。

歯科へ行って、抜歯して欲しいことを言って、レントゲンを撮ると、歯に問題はなく、その周辺も問題ないので、もう一度根っこの治療をすれば良くなるだろうと。
自分では全くそんな気はしないけど、そう言われてしまったら、もうどうしようもない。。

それでもどうしても治らなかったら、抜歯を考えましょうと言われ、他に仕方がないので、通院治療が始まった。

症状は、日によって程度が違うので、いくらかいい時もあったけど、何週も通って、治療でドリルで穴を開けていた歯が閉じられて終了すると、やはり顔の中で行き場のなくなったものが、この歯を押し上げるような感覚で、とても辛くなった。

やはりこの歯があることがもう、辛くてたまらない。

もう一度歯科へ行き、それを訴えると、再度レントゲンを撮って、問題がないので、もう一度根っこの治療をすると言う。

それはもう、嫌だ!根っこの治療して良くならなかったら、抜歯を考えると言ったじゃないか!

‥とても辛いので、語気を荒げる気力もないけど、そう訴えると、

「歯に問題はないから、耳鼻科分野の原因で、そこも行ったほうがいい。それと、隣の歯が少し虫歯になっていて、これが原因だろうから、隣の根の治療をしたほうがいい。」

冗談じゃない!隣の歯は自分では全く問題がない。それに自分ではどう考えても、鼻などが原因じゃなく、歯から起こっているとしか思えない。

でもそれは、素人の主観でしかない。とても、心許ない。。

「抜歯して欲しい」と言う訴えは、鼻で笑われた。
歯科医師が、簡単に歯を抜かず、できるだけ温存しようとする姿勢は素晴らしいことだと思う。

でも…

わかりましたとはどうしても言えず、その日はそのまま、ひどく落胆して、帰るしかなかった。
もう、枕に頭を乗せるのも辛く、左目が内側から押し出されるようで、眠ることもなかなかできない。。

どうしたらいいのか‥何か考えるのもとてもしんどい。。

歯科大学病院に電話をして、事情を説明すると、診てもらえる事になった。

そこで、上顎洞炎だと診断されて、レントゲンを撮って、治療はやはり、問題の歯の根っこの治療。
やっぱり根の治療か。。という思いに打ちひしがれながらも、でも、私はもうこの歯は抜歯して欲しい、何度も根の治療はしたし、この歯があるのがとても辛いと訴えると、顔のCTを撮る事になった。

すると、レントゲンでは特に異常がなかったが、顔の左が膿でパンパンになっていることがわかり、「これは辛いですね」と先生に言われた。

抜歯で改善する可能性は確かにある。でも抜歯をしても、症状が良くなるとは限らない。その時は、歯をただ失うだけになってしまう。それでも抜歯を希望するかを聞かれ、「お願いします!」と答え、治療同意書にサインをした。膿がだいぶ酷いので、麻酔が効かないかもしれないと言われた。

次回の抜歯の予約をして、後日、治療台に上がって、顔に緑の布がかかって、抜歯には1時間かかった。

幸い、麻酔は効いて、痛みは大丈夫だった!
乳歯が自然にポロッと抜けた経験しかない人には、永久歯、親知らずの抜歯の凄まじさは、地獄絵図のように驚くだろう‥
歯周病が酷いと、永久歯がフラフラになって抜けることもあるけど、永久歯を抜くのは、麻酔が効いててもダラダラ汗が流れる恐怖。

先生の、顎を押さえつける力がもう凄い。「まだ残ってるな」と、奥に残る歯のかけらをなんとか引っ掻き出す感触がもう凄い。本当に力仕事。これで麻酔が効いてなかったら、なんて想像もしたくない、、、

そして、遂に抜けた途端に、もうみるみる楽になった!先生が抜歯部分から、顔の中を洗浄してくださる処置がありがたくてありがたくてしょうがなかった‥
先生に、歯が中で割れていたと言われた。抜歯した永久歯が中で割れていたと言われたのは2回目。

その日から、楽に枕に頭を乗せて、本当によく眠れるようになった。

症状はぶり返すこともなく、やはり原因はこの歯だったんだと思った。抜いて本当に良かった。

その後、冬になって寒さ厳しい2月、顔の左側が真っ赤になり、左首まで腫れて、体がひどくだるくなった。
そして両手がひどく痛むようになり、病院で検査をすると、15万人に一人の、原因不明の指定難病だと言われた。

でも、あんな辛かった顔の左から症状が起こったのだし、どう考えても、原因に歯のことはあると思った。
歯一本、本当に怖い…

入院して、退院してからも外来治療はずっと続けて、ペットボトル開けるなどとんでもなかったのに、今はギターが弾けるほど、症状はとても良くなっている。


昨年末くらいから、前に治療した別の歯がまた、同じ症状になってきた…
とてもショックだった…
明日には良くなってないだろうか…
昨日より良かったりすると、もしかしてこのまま治らないだろうかと期待しては落胆し、年末年始で歯科の休業期間もあって、半月くらい悩んだ。
一般歯科の休業中の、緊急当番医の場所と連絡先を控えて、家族にも、もしかしたらかかることになるかもしれないと伝えておいた。

問題の歯の上にかかる唇の場所は、リップクリームも塗れないほど痛んで、腫れて膿を出しているし、そこから鼻、目、頭と繋がる辛さに暗くなる。
これはやっぱりだめだと、抜歯のために歯科にかかる決心をした。
前のような酷さになる前に、この歯は抜歯してもらいたい。
根管治療は受けたくない!

でもどうしよう…
どうしたらその希望が叶えられるだろう…

前とは違う開業医に予約を取って、抜歯の希望を説明すると、レントゲンを取って、これは抜くような歯ではないから根管治療をすると笑われた。

そこまでは仕方ないと思う。前の歯の時のことを説明して、根管治療は受ける気になれないことを話すと、CTを撮ることになったが、前の歯科大のようにその時じゃなく、それが2週間以上も後!
「みんなそうしてるんで」と言われた。

そんな…
今でさえ、一日耐えるのが辛いのに、2週間以上後にやっとCTなんて…そっからどんだけかかるんだ、、
前だって、歯科大に電話して事情説明してから、抜歯をするまでにかかった一日一日がどんなに辛く長かったか。。

歯科に行くって、それだけでも私にはエネルギーの要る大変なこと…
どうしたらいいか、落胆の中でまた考えなければならない。。

時間が経つほど悪化する。
痛みと恐怖感におののきながら、歯科医師に伝える、私が抜歯を望む理由を文章にしようと思った。

市販の痛み止めを毎日飲んで、デントヘルスを一日に何度も問題の歯のところにすりこんで何日経つだろう
前に見た「善人長屋」に「この体は牢獄のようだ」という言葉があったけど、正にそう。
自分の中だけに閉じ込められた、逃げ場のない苦しい痛み、孤独…

何もかも、楽しいどころじゃない。ただただ、一日がとてつもなく長く苦しい

noteなんか見たくない。人の楽しそうな様子、綺麗な景色も普段ならおいしそうな画像も、かけ離れた遠い世界で、元気な時の自分は嘘のように虚しく、辛く孤独になるばかり…

病苦ってそういうもの。
どうにか時間をやり過ごさなければならないそんな中で、見ていたほうが気が紛れる、書いたほうが耐えられる時は、noteを見たり書いたりして過ごした。

辛いということを書いたり人に話したりして、楽になる場合はそうすればいいけど、相手は「大丈夫ですか?大変ですね、お大事にしてください、無理しないでくださいね、早く良くなりますように、ゆっくり休んでください」と言うしかない。
それが慰めになって自分の力になる場合はいいけど、私はそのやりとりがかえってしんどいことがよくある。
人にも気を使わせるし、私は言わないほうがまだましなことが多く、結局は誰も代われない、独りで引き受けるしかないもの。

痛み止めが効いている時、素人考えでも、抜歯してもらいたい理由を考えて文章にした。

「①8年前、同じ症状になって、抜歯した歯が中で割れていたと言われた。割れた歯をいくら根っこの治療をしても意味がないし、いくら抗生物質を使っても、割れたところからバイ菌が入り続ける。
根管治療は何度も通わなくてはならず、前回はその間にもどんどん悪化した。そのように治療してからまた、再治療の予約を取り付けるのも、すぐには取れず、更に何日もかかる。枕に頭を乗せるのも辛くて眠れないような、1日でも大変なあの恐ろしい日がまた何日もかかることを思うと本当にゾッとするので、今回の機会に抜歯して頂きたいです。

②冷たいものが歯にしみて飛び上がるような痛み、根元が膿んで腫れ上がって、ズキンズキンと拍動生の痛みで眠れないほどの虫歯の痛みの経験はあるけど、前回抜歯した歯、今回の歯の痛みはその感じではなく、前回の抜歯で「歯が中で割れていた」と言われた時、自分の感覚と合っていた。
今回も、歯のひびのようなものを伝って中にバイ菌が入り込んでいるような感覚がある。
もともと歯や体が弱い方で、子供も二人産んで、つわりも酷くて体重が30キロ代になったり、女性は閉経すると歯や骨が脆くなるという。歯が割れていても何の不思議もないと思うし、そんな歯に根管治療のためにドリルで穴を開けるのは、ますます割れるだけの気がする。

③前回抜歯した時は、幸いその日から楽に枕に頭を乗せてよく眠れるようになり、上顎洞炎の症状もすっかり良くなって、困ることがなかったが、その後寒い時期が続いた時に、症状が酷かった顔の左から、指定難病になった。
この病気は、症状を出さないように気をつけることが大事なことと言われていて、せっかくここまで良くなったのに、この状態が続くと、またペンを持って字を書くのも痛くてできないほどの、生活ができなくなる指定難病の症状が再発するのではと、とても怖い。

④抜歯を希望するこの歯は、前に治療を受けたことがあるけど、普段とても食べ物が挟まりやすく、食べかすが取れにくい。歯ブラシ、部分ブラシ、フロス、ウォーターピックなどで毎日ケアはしているけど、人と食事をしたり、外食の時などは難しいことも多く、普段の食事のストレス、旅行などの不安は高い。遅かれ早かれ、この歯はだめになって抜かなければならなくなると思う。

⑤震災などが起こった時、助かったとしても、寒い避難所や、水も十分に使えない環境かもしれないことを思うと、問題の歯のことが本当に気にかかって恐ろしい。この危なっかしい歯をどうにかグズグズ持ち続けるよりは、この機会に抜歯してしまった方が、私にとっては何より災害時の備え、安心になる。

抜歯をしても症状が改善するとは限らないが、自分で色々考えて望んだことなので、決して病院側の責任にしません。
抜歯しても改善しなければ、耳鼻科なども相談します。
抜いた歯は元には戻らないし、初めから抜歯を望む人なんかいないですが、私は若くはないし、「ハニーランド」という映画の主人公が、同じような場所の歯がなく、私は彼女が好きなので、彼女と同じと思えば嫌じゃないです。
義歯など必要だと思えば、また相談させて頂きます。」

私は人に説明したりうまく喋るのが苦手だし、まして高圧的な人間に、考えるのも辛い状態で訴えるのはできる気がしない。

これを印刷して持っていけば、私に代わって考えを伝えてくれるものになるかもしれない。

やはり、CTに2週間以上も待っていられないと思い、抜歯を希望する理由を書いた紙を持って、さらに別の歯科にかかった。

抜歯する状態の歯ではないとやはり言われ、私の症例はだいぶ珍しいんだろうなと思ったけど、その先生は、笑ったりせず、症状や私の考え、希望を一生懸命聞いてくださった。

自分で喋れないと思ったら、この印刷を出そうと思っていたけど、先生の、辛さを察して聞いてくださる姿勢のおかげで、私は印刷の内容をだいぶ話すことができた。前もって文章にしたことも大きかったと思う。

先生は、とても辛い状態なことと、よく考えた末の強い希望であることを汲んで、抜歯を決定してくださった!

しかも速い!施術に10分かからなかったと思う。
それでも長く感じる地獄絵図には違いないけど、麻酔の注射すらほとんど痛みがなく、力のかけ方がとてもお上手で、とんでもない安産みたいな感じだった!

麻酔のない、ジョン・ハンターの時代じゃなくて良かった…
ああ‥私にはとても無理だ、これは抜いて「頂く」しかないことだと、つくづく有り難く感じた。

やっぱり抜歯の直後からもう、顔を触っても痛くない!
病苦は現実だけど、日常と呼ばれる現実に生まれられた気がした。

膿って、バイ菌と白血球の死骸。
「はたらく細胞」を見ると、あの真面目な白血球さんが、必死で宿主を守ろうとして、有害な細菌と差し違えて死んでしまったんだ、と思う。
歯を失っても、前よりずっとそんな悲しい白血球さんの犠牲を出さずに済んだ。

初めから自分の歯を抜きたい人なんかいるわけない。
温存を一番に置くのはいいことだけど、「そう決まっているんで」、「規則なんで」だけに固執する医師に当たる可能性だって大きい。
そうなったら、印刷して持っていったものも意味なかっただろうけど、とにかく今回は、良いお医者様で本当に良かった。

抜歯の傷も日を追うごとに良くなり、噛むコツも掴んできて、抜歯したその翌日からもう、リップクリームを塗っても全然唇が痛まない。
抜歯から4日後には、気がつくと大笑いしている自分にびっくりした。
前かがみになるのも辛く、到底無理でする気にもなれなかった三点倒立も、一週間経たずにまたできるようになった!
一週間過ぎて、大好きなスパモッチ(スパイシーモスチーズバーガー)が齧れた時の嬉しさったらもう‥ ちょっと久しぶりの外食、感激だった。美味しいって、奇跡!
自分の体に治癒力があることが確かに感じられて、とても嬉しい!

キャンセルした、CTの予約だった日が来た時、改めて、こんなにも長かったのか。。と思い、あのまま今日まで耐えてたらと思うと本当にゾッとして、寒い外に出てももうどこも痛まないし、きゅうりやセロリのような繊維の強い生野菜も食べられるようになった今に涙が出た…

コミュ障だとか苦手だとか、そんな呑気なこと言ってられない。そうせざるを得なかったからだけど、辛い中でも自分の考えをどうにか文章にして、できることをしようとして本当に良かった。

普段から書く習慣がなかったら、私はできなかったことだと思う。
「人間に生まれたというだけで、生きていくのに充分に頭がいい」という赤羽雄二さんの言葉の通り。そのおかげで自分を潰さずに済んだ‥

「さみしい夜にはペンを持て!」
ペンはやはり、剣よりも強しを実感した、一つの大きな体験だった。


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